以前に私たちはN型糖鎖、O型糖鎖、グリコサミノグリカン(GAG)、スフィンゴ糖脂質糖鎖(GSL糖鎖)そして遊離オリゴ糖(fOS)を質量分析計やHPLCで解析するための調製および分析の一連の方法論を報告してきた。これらの異なるクラスの複合糖質糖鎖の解析法を統合し、細胞や血清中に存在するサブグライカンの全体像を俯瞰できるようになった(総合グライコミクス)。現在も糖鎖解析のための新しい技術開発や改良を続けており、シアリル化糖鎖異性体を質量分析法で識別する技術、シアル酸結合様特異的アルキル化法(SALSA)を構築してきた。 ヒューマングライコームプロジェクト(HGA)のセグメント2では、大規模な糖鎖カタログ(ヒト血漿総合グライコーム)を作成して、TOHSAと呼ばれる大規模データベースの構築することが最も重要なミッションの一つである。本セクションでは、2) シアル化糖鎖異性体を識別するためにシアル酸結合様式特異的誘導体化とグライコブロッティング法を組み合わせた改良したN型糖鎖分析法、そして3) 大規模コホート解析を目的としたヒト血漿/血清中に含まれるN型糖鎖の全自動前処理装置の開発など、最近の私たちの研究ついて紹介する。 ...and more
2023年4月文部科学省大規模学術フロンティア促進事業、ヒューマングライコームプロジェクト(HGA)が始動した。このプロジェクトでは科学目標として「拡張セントラルドグマの実像を明確にする」ことが掲げられ、その実現のために4つの施策が計画されている。その最初の一つ、セグメント1のミッションは、「ヒト糖鎖構造情報を、グライコプロテオームレベルで取得」することである。糖鎖は多様で不均一、産生する細胞、タンパク質、さらにはその部位ごとに異なり、細胞状態の変化に応じて変化する、と言われている。このセグメントでは、断片的、個別的に集積された情報からではなく、規格化された手法で系統的に収集された網羅的情報から、その実態に迫る。まずは血清・血漿糖タンパク質の全容解明に挑む。 ...and more
2023年4月ヒューマングライコームプロジェクトが日本で始動した。本プロジェクトは、これまで3大生命鎖(核酸、タンパク質、糖鎖)の中で格段に少なかった糖鎖情報を他の生命鎖と同等のレベルまで引き上げる。そのために、ヒト糖鎖構造と生合成機構を網羅的に取得する。ヒト糖鎖構造は臨床情報や表現型とともに大規模な集団の個人別のデータとしてカタログ化される。これらの情報はナレッジベースTOHSAに格納され、世界のすべての研究者はこれまで避けてきた糖鎖を容易に日常の研究に取り入れられるようになる。こうしてューマングライコームプロジェクトは、科学者に新しい生命像を与え、生命科学の新しい時代を開く。 ...and more