糖鎖モジュール化法による人工糖鎖ライブラリーの構築 |
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1. 研究の背景: 生理活性糖鎖を高分子側鎖、微粒子表面、マイクロアレイ基盤上等に組み込んだ糖鎖材料は、細胞培養マトリックス、微生物や毒素の検出チップ、感染症予防剤など広い分野でその活用が検討されている。重要な生物機能を示す細胞表層糖鎖は、シアリルLewisXやグロボ糖鎖の様に複数の異なる糖の組み合わさったオリゴ糖である。あるいは、ヘパラン硫酸のように、硫酸基やN-アセチル基の位置が異なる複雑な構造をもち、なおかつ高分子構造により高い機能を発揮する糖鎖がある。従って、高い生物機能を発揮する糖鎖材料を開発するには、材料として利用できる程度の「量」の確保と十分な機能を発揮するための「鍵構造の制御」が重要な課題となる。 2. 糖鎖モジュール化法: 筆者らは、糖鎖が示す生物機能を凌ぐような糖鎖材料を簡便に構築するコンセプトとして「key carbohydrate module」(文献1)、並びにこの概念を適用した「糖鎖モジュール化法carbohydrate module method」(文献2)を提案してきた。糖鎖の生物学的な機能は、それらを構築する個々の糖残基とそのグリコシド結合の様式と立体配置によって多様に変化する。その一方で、個々の機能は糖鎖の三次元構造を特異的に認識して結合するレセプタータンパク質との結合相互作用に由来し、そこには鍵となる糖鎖構造が存在する。糖鎖を人工的に再構築する際には、その鍵構造を明らかにすること、さらにその生物活性構造を効率的に構築する方法を確立することが重要な研究課題となる。我々は、複雑な糖鎖を2つの簡単な糖骨格に分割(モジュール化)した後、両者をラジカル重合により高分子側鎖に集積化する合成戦略を“糖鎖モジュール化法/Carbohydrate Module Method”として提案した(文献2)。本法の基本的な概念と方法は、図1のようにまとめることができる。 複雑な糖鎖構造は、認識タンパク質との結合に直接係わる糖 (AとB)、認識構造を空間的に制御する糖構造 (C)、直接認識に関与しない構造 (D)の様に、簡単な糖構造に機能素子化(モジュール化)できる(図1a)。糖残基AとBを糖鎖から切り離して考える。それぞれに重合性官能基を導入した糖モノマーを調製する。アクリルアミドとラジカル共重合することで、比較的柔軟な高分子側鎖に鍵となる糖残基AとBをクラスター状に組み込むことができる(図1b)。 |
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3. 具体例: 例えば、シアリルLewisXの糖鎖構造をα-L-フコピラノシド残基とシアリルN-アセチルラクトサミン残基に分割して考える。前者を重合可能なアリルα-L-フコピラノシド、後者をp-(N-アクリルアミド)フェニル 3-スルフォ-β-L-ガラクトピラノシドにそれぞれ変換する。両者を1:1の割り合いで混合し、アクリルアミドとラジカル共重合を行い、シアリルLewisXの生理活性構造を模倣した人工糖鎖高分子を得ることができる(図1c)。本高分子は、数mg/mlでL-並びにP-セレクチンをブロックする活性を示した(文献1)。 4. 実用化研究: 糖鎖モジュール化法の有用性はL-セレクチンの強力なブロッカーとして働く6硫酸化シアリルLewisXのミミック合成により確証されることとなった(文献2)。最近、同様のモジュール法がロシア科学アカデミーのBovin博士やキール大学のRindhorst博士によっても提案されている。我々は、確立論並びにエネルギー理論的な裏付けを行うとともに、インフルエンザシアリダーゼ(文献3)、O-157志賀毒素(文献4)、プリオン等を対象にした感染性微生物や細菌毒素を吸着、中和、検出する人工糖鎖材料の開発技術として、実用化研究を進めている。 |
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西田芳弘、佐々木健二、小林一清(名古屋大学大学院工学研究科) | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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2004年4月23日 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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