Glycolipid
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細菌および細菌毒素レセプターとしての糖脂質

 病原性細菌や細菌毒素が細胞に感染したり毒作用を発揮するためには、先ず、細胞膜表面に結合しなければならない。病原性細菌や細菌毒素が細胞に結合するレセプターは細胞膜上に存在するスフィンゴ糖脂質である。

 細胞膜上の酸性スフィンゴ糖脂質であるガングリオシドをレセプターとして細胞に結合し感染する毒素は数多い。最も良く知られているのはコレラ毒素で、そのレセプターはGM1である。コレラ毒素は毒素本来の生物活性を有するAサブユニットを5個のBサブユニットが取り囲むような構造をしており、細胞膜上のGM1と結合するのはBサブユニットである。BサブユニットがGM1に結合するとともにコレラ毒素の立体構造が変化して、Aサブユニットが細胞の膜から侵入する。Bサブユニットは103個のアミノ酸からなり、GM1との結合にはN末端から88番目のトリプトファンや35番目のアルギニンが関与していることが知られている。毒素原性大腸菌が産生する易熱性毒素も類似の機構でGM1をレセプターとして細胞に結合し侵入する。ガングリオシドをレセプターとする細菌毒素には他に破傷風毒素(GD1b)、ボツリヌス毒素(GT1bとGQ1b)、ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)のデルタ毒素(GM2)などがある。赤痢菌(Shigella dysenteriae)が産生する志賀毒素や腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素はアルファー-1,4 ガラビオースを含む中性糖脂質のGa2Cer(ガラビオシド)やGb3Cer(セラミドトリヘキソシド)をレセプターとする。

 一方、多くの病原性細菌もスフィンゴ糖脂質を細胞膜上のレセプターとする。ヒトの尿路感染症を引き起こす大腸菌はアルファー-1,4 ガラビオースを糖鎖の末端に持つ糖脂質(Gb3Cerなど)に結合する。細菌は糖鎖の末端部分のみならず、糖鎖の内部の配列をも認識して結合することができると言う特徴がある。上記の大腸菌はアルファー-1,4 ガラビオースを糖鎖の内部に持つGb4Cer(グロボシド)やフォルスマン抗原などの糖脂質にも結合し、このような分子をイソレセプターと呼んでいる。大腸菌において糖脂質糖鎖との結合は菌体表層に繊維状に分布する線毛を介して行われる。線毛の先端にはアドヘシンと呼ばれるレクチンが存在し、菌種によってI型-アドヘシン(マンノース特異的)、P-アドヘシン(ガラビオース特異的)、S-アドヘシン(シアリルガラクトース特異的)など、特異性が異なるレクチンを持つ。P-アドヘシンは同じアルファー-1,4 ガラビオースを認識する志賀毒素とアミノ酸配列が類似していることが報告されている。皮膚炎を引き起こすプロピオン酸菌(Propionibacterium)は糖脂質糖鎖のラクトース部位を認識して結合する。それ故にラクトシルセラミドに強く結合し、イソレセプターのアシアロGM1(GA1)やアシアロGM2(GA2)にも結合する。ラクトース部位はほとんどのスフィンゴ糖脂質の糖鎖に共通に存在するので、プロピオン酸菌はそれら全ての糖脂質に結合し得るはずであるが、必ずしもそうではない。脂質部分(セラミド)の一部に水酸基が外れているような糖脂質には菌は結合しない。即ち、脂質部分も結合に関与している。淋菌(Neisseria gonorrhoeae)もラクトース部位を持つ糖脂質に結合する。

 アルファー-1,4 ガラビオースの構造を糖鎖に持つ糖脂質(グロボシドなど)は、アルファー-1,4 ガラビオースの部分がちょうど湾曲した形になっており、凸面状の側が菌体との結合のエピトープになっていると考えられている。

 最近、腸内で整腸作用を行う有用な乳酸菌もスフィンゴ糖脂質に結合することが見出された。主として中性糖脂質に結合し、ガングリオシドには全く結合しない。
山本憲二(京都大学大学院・農学研究科)
References(1) Karlsson, K-A : Animal glycosphingolipids as membrane attachment sites for bacteria. Annu.Rev.Biochem. 58, 309-350, 1989
(2) Bock,K, Breimer, ME, Brignole, A, Hansson, GC, Karlsson, K-A, Larson, G, Leffler, H, Samuelsson, BE, Stromberg, N, Eden, CS : Specificity of binding of a strain of uropathogenic Escherichia coli to Gal alpha 1-4 Gal-containing glycosphingolipids. J.Biol.Chem. 260, 8545-8551, 1985
(3) Holmgren, J : Actions of cholera toxin and the prevention and treatment of cholera. Nature, 292, 413-417, 1981
1998年 9月 15日

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