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ガングリオシドの系統的合成

  ガングリオシドはシアル酸を含むスフィンゴ糖脂質の総称で、基本糖鎖構造の違いによりガングリオ系、ラクト・ネオラクト系、グロボ・イソグロボ系などに分類される。その構造は、例として示したガングリオシドGD1aを見ていただくと明らかなように、シアル酸部分、糖鎖骨格部分、セラミド部分から構築されており、糖鎖骨格へのシアル酸の導入および糖鎖とセラミドの縮合がガングリオシド合成における鍵反応となる。また、それらを考慮した合理的な合成経路のデザインも重要な要素である。以下、GD1aを例にとりガングリオシドの一般的な合成法を説明する。

 ここに例として示した逆合成解析は、ガングリオシドの合成に広く用いられている一般的なもので、糖鎖構築完了後に脂質を導入する点と、シアリルガラクトースやシアリルラクトースを合成ユニットに用いる点に特長がある。
 
 予めグルコースやラクトースにセラミドを導入し、順次糖鎖の伸長を行う経路では、セラミドによる立体障害のため糖受容体としての反応性が低下し、糖鎖延長が困難になる。そこで糖鎖構築後、脂質と縮合することになる。この時、糖鎖側の保護基はセラミドに含まれる二重結合に対し化学選択性を有する事が必要であり、特に還元端グルコースの2位は、β−グリコシドを得るために、隣接基効果が期待できる保護基(アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基などのアシル系保護基)で保護する必要がある。また、脂質としてセラミドを用いた場合、比較的長い糖鎖(大雑把に言えば3糖以上)との縮合で収率が低下することが多く、セラミドの合成前駆体であるアジドスフィンゴシンを用いることで収率の向上が図られている。またグルコース2位の保護基としては、より嵩高い保護基(例えばアセチル基よりベンゾイル基、ベンゾイル基よりピバロイル基)を用いることで、収率低下の原因であるオルトエステルの副成が抑制され、収率が向上する。

 一方、糖鎖へのシアル酸の導入は、以下の理由からシアリルガラクトースやシアリルラクトースを合成ユニットにして用いる方が有利である。つまり、シアル酸はC−1位にカルボキシル基を持ち、C−3位がデオキシであるため、C−2,3位に二重結合を有するデヒドロ体が反応副生成物として生じ易く、それが収率低下の主要な原因となっている。それを克服するためには、電子的効果、立体的効果を含めて反応性の高い受容体を用いる必要があり、比較的軽く(?)保護した受容体(例えば6位のみを保護したガラクトシドや2,6,6'位のみを保護したラクトシド)を用いることで、縮合収率の向上が達成されている。言い換えれば、長い糖鎖との縮合では著しく収率が低下することが多く、糖鎖骨格構築後のシアル酸の導入は避けた方が望ましい。また、シアル酸のアノマー位の立体化学の決定は、従来、H-3ax, H-3eq, H-4のNMRの化学シフト値になどによる経験則的な方法が主であり、新規なシアロシドのアノマーの決定は、厳密さを欠く恐れがあった。この問題も、立体化学が既に決定されているシアリルガラクト−スやシアリルラクトースを合成ユニットとして用いることで解決される。

 ポリシアル酸を含むガングリオシドの合成には、さらに新たな化学が必要であるが、モノマーのシアル酸を有するガングリオシドの場合には、上述の方法でほとんどの合成が可能である。
ガングリオシドGD1aの構造と逆合成解析
石田 秀治(岐阜大学・農学部)
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2000年 3月 15日

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