Proteoglycan
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L-, P-セレクチンおよびCD44とバーシカンの結合

  バーシカン(別名PG-M)は、N末端近傍にヒアルロン酸結合ドメイン、中央部にグリコサミノグリカン付加ドメイン、C末端部分にはEGF様ドメイン、C型レクチン様ドメイン、および補体制御タンパク質様ドメインをもつ。ヒトのバーシカン遺伝子は15のエキソンから構成され、選択的スプライシングの結果、バーシカンはグリコサミノグリカン付加ドメインの長さの異なるV0、V1、V2、およびグリコサミノグリカン付加ドメインを持たないV3の4つの異なる分子型をとる。バーシカンは、ヒアルロン酸結合ドメインを介してヒアルロン酸と高親和性に結合し、C型レクチンドメインを介して硫酸化糖脂質や細胞外基質成分のテネイシン-Rやフィブリン-1と結合する。また、バーシカンは、EGF様ドメインを介してEGFレセプターと結合することによって少なくとも部分的に細胞増殖を促す。バーシカンはコンドロイチン硫酸鎖を介して細胞接着阻害活性を持つことも知られている。

 われわれは、ヒト腎癌細胞株ACHNの分泌するバーシカンが、コンドロイチン硫酸鎖を介してL-、P-セレクチンおよびCD44と結合することを明らかにしている(1, 2)。バーシカンはE-セレクチンとは結合しない。興味深いことに、L-セレクチンおよびP-セレクチンとバーシカンの結合は特定のグリコサミノグリカン、すなわちCS(chondroitin sulfate) B、CS EおよびHS (heparan sulfate)によって阻害され、CD44とバーシカンの結合はCS A、CS B、CS C、CS D、CS E、CH (chondroitin)およびHA (hyaluronic acid)によって阻害される(2)。また、L-セレクチンとP-セレクチンは固相化CS B、 CS EおよびHSと直接結合し、CD44は固相化CS A、 CS B、 CS C、CS D、CS E、CHおよびHAと直接結合する(図1)。実際にL-、P-セレクチンおよびCD44結合性を持つACHN細胞由来バーシカン上には、少なくともCS BおよびCS C様の構造が存在する。以上のことから、バーシカンは適切なグリコサミノグリカンで修飾された場合にL-、P-セレクチンおよびCD44結合性を持つと考えられる。また、L-、P-セレクチンおよびCD44はいずれもグリコサミノグリカンと結合することから、バーシカン以外のプロテオグリカンも適切なグリコサミノグリカンで修飾された場合には、ここで述べたバーシカンと同様にL-、P-セレクチンおよびCD44結合性を持つ可能性が考えられる。しかし、グリコサミノグリカンのクラスタリングや特定の多硫酸化構造が結合に関与する可能性もあり、L-、P-セレクチン/CD44との結合の生理的意義と合わせて今後の検討が必要である。
図1. L-、P-セレクチンおよびCD44のグリコサミノグリカン結合特異性
L-、P-セレクチンはHS、CS BおよびCS E と結合する。
一方、CD44はCH、CS A、CS B、CS C、CS D、CS EおよびHAと結合する。
HS: ヘパラン硫酸、CS: コンドロイチン硫酸、
CH: コンドロイチン、HA: ヒアルロン酸
川島博人 (大阪大学大学院・医学系研究科)
References(1)Kawashima H, Li Y-F, Watanabe N, Hirose J, Hirose M, Miyasaka M :Identification and characterization of ligands for L-selectin in the kidney.I.Versican, a large chondroitin sulfate proteoglycan, is a ligand for L-selectin. Int. Immunol. 11, 393-405, 1999
(2)Kawashima H, Hirose M, Hirose J, Nagakubo D, Plaas AHK, Miyasaka M :Binding of a large chondroitin sulfate/dermatan sulfate proteoglycan, versican, to L-selectin, P-selectin, and CD44. J. Biol. Chem. J. Biol. Chem. 275, 35448-35456, 2000
2000年 12月 15日

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