Proteoglycan
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フォンブルブラント因子とヘパリンの会合

  フォンブルブラント因子(vWF)は、1つのサブユニットが分子質量約220kDaのシステインに富んだ糖蛋白質であり、ジスルフィド結合を介して2〜50の多量体を形成して存在する。この蛋白質は血管内皮細胞と巨核球で合成され、内皮下の細胞外マトリックスに分泌されるか、または巨核球から分化する血小板の顆粒中に蓄えられる。vWFは止血に対して2つの非常に重要な役割を果たしている。1つは、血液凝固第8因子と会合した複合体の形で血漿中を循環し、活性型プロテインCによる第8因子の不活性化を妨げる事により(間接的に)止血に役立っている。もしvWFと複合体を形成しないと、第8因子は血中から数分で消失してしまう。第2の役割は血小板栓を形成させることによる血小板による第一止血を補助することである。即ち、血管の損傷が起こり、内皮下の細胞外マトリックスが血流下に曝されるとき、vWFはその部分に血小板が吸着するために最も必要な蛋白質となる。循環している血液中のvWFは血小板には結合しない低親和性のコンホメーション型であると考えられている。しかし、この蛋白質が細胞外マトリックスに接触する(または細胞外マトリックスの中で露出する)と、自己のコンホメーションを変化させる。このコンホメーション変化は血小板上のレセプター糖蛋白質GpIbに対して親和性の高いvWF中のA1ドメインに主に影響を与え、その結果vWFとGpIbとの間に強い結合が生じる。この結合は狭窄動脈中に見られるような高い「ずれ(share)」血流によっても誘導される。この高い「ずれ」によって誘導されるvWFと血小板の結合においては、vWFが親和性を変えるのか、GpIbレセプターが変えるのか、また両者が共に変えるのかはっきりとは分かっていない。一旦血小板がvWFに結合すると、血小板どうしの凝集が誘起され、そしてそれは血小板上のインテグリンGpIIb/IIIaとフィブリノーゲン(そして第2にはvWF)との結合を介して増強される。それゆえ、vWFとGpIb間の結合、そしてその結果おこる損傷した血管への血小板の吸着は血小板栓形成という第一次の止血に対して非常に重要である。しかし、循環器系の手術などの際に、これらの生理的なプロセスが正常な止血機構を越えて起こってしまうと、損傷した血管部への血小板の蓄積は術後初期または後期に起こる様々な重篤な問題の主な原因となる。そのため、これらの血小板依存性止血の最初の段階を制御する方法を見つけるために多くの研究がなされている。

 ヘパリンを心臓手術に先だって静脈内に投与すると、血漿中のvWFの濃度は変化しないが、vWF依存性の血小板凝集能は減少することが1991年に初めて示された (1)。また、このヘパリンによるvWF依存性の血小板凝集能の阻害効果は、ヘパリンのアンチトロンビンIIIに対する親和性とは異なるものであるが、ヘパリンの分子量には影響されるものであった。その後のin vitro実験から、ヘパリンはvWFのA1-ドメインといわれるループ上に存在する塩基性アミノ酸が規則的に配列している部分(アミノ酸残基569番から583番)に結合し、そのコンフォメーションを変化させることが示された(2)。ヘパリンはvWFが不活性型でも活性型でも同様に結合するが、vWFのコラーゲンへの結合を妨げなかった。A1-ループには血小板のGpIbに結合するドメイン(アミノ酸残基524番から542番)があることから、ヘパリンはvWFのGpIb結合部位の近傍に結合して、立体的な要因とGpIb結合ドメインのコンホメーションを変化させることによって特異的にvWF-血小板結合を抑制すると考えられている。

 vWF結合に関するヘパリン中の構造特異性に関しては、既知の方法でヘパリンを低分子化して調製したヘパリンフラグメント画分を用いた実験から、ヘパリナーゼで特異的に消失する二糖構造(GlcNS6S-IdoA2S、図参照)が、ヘパリン-vWF結合相互作用に重要な役割を示すことが示唆された(3)。さらに合成化学的な再構築実験によって、この二糖構造が3単位以上近接して存在することがヘパリン中のvWF結合には必須であることが示されている。
隅田 泰生(大阪大学・大学院理学研究科)
References(1)Sobel M, McNeill PM, Carlson PL, Kermode JC, Adelman B, Conroy R, Marques D, J. Clinic. Invest. 85, 1787-1793, 1991
(2) Sobel M, Soler DF, Kermode JC, Harris RB, J. Biol. Chem. 267, 8857-8862, 1992
(3) Poletti PL, Bird KE, Marques D, Harris RB, Suda Y, Sobel M, Arterioscler Thromb. Vasc. Biol. 17, 925-931, 1997
2001年 6月 15日

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