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酵素を利用したアザ糖の合成

  アザ糖は、単糖の環内酸素原子をイミノ基で置換したイミノシクリトールの総称である。最近では、さらに1位のアノマー水酸基が水素になったデオキシイミノシクリトールやその他の誘導体(五員環イミノシクリトールなど)も広くアザ糖と呼ぶことが多い。代表的なアザ糖としては、ノジリマイシン、マンノジリマイシン、ガラクトスタチンやそれらのデオキシ体が知られている。これらは、いずれもグルコシダーゼ、マンノシダーゼおよびガラクトシダーゼの優れた阻害剤であり、その作用機序はこれらグリコシダーゼの活性部位に存在するグルタミン酸あるいはアスパラギン残基とアザ糖のイミノ基とがイオン結合を形成するためと説明されている。

 アザ糖は、生体内での糖鎖のプロセッシングに大きな影響を与えるため、生化学研究用試薬としてだけでなく、医薬品のリード化合物としても期待されており、数多くの合成法が報告されている。中でも酵素を利用した合成法は、保護・脱保護の必要がなく、水溶液中室温で行なうことができるため、工程数が少なく簡便に行なえることから実用性が高い。

アザ糖の合成に酵素が利用された最初の例は、1981年、Kinast, Schadelによって報告された。彼らは、Gluconobacter oxydans 由来の酸化酵素を用いた水酸基の選択的酸化をキーステップとし、グルコースからデオキシノジリマイシン(DNJ)を全4工程で合成するのに成功した1)

 その後1990年頃から、Wongらはアルドラーゼをアザ糖合成に利用し、アザ糖の一般的かつ簡易な合成法を確立している。アルドラーゼは、それが触媒するアルドール縮合で利用されるエノレート基質により分類され、アザ糖合成においてはジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)をエノレート基質とする酵素が最も汎用された。解糖系酵素として知られているフルクトース-1,6-二リン酸(FDP)アルドラーゼもこのカテゴリーに属する酵素であり、当初DNJやデオキシマンノジリマイシン(DMJ)の合成に利用された。Wongのスキームを用いると、3-アジド-2-ヒドロキシプロパナールとDHAPとを出発原料にして、わずか3工程でDNJおよびDMJが合成できる2)。この合成スキームはアザ-N-アセチルグルコサミンなどの合成にも応用された3)。さらに、上述したDNJ合成で用いた酵素をフキュロース-1-リン酸アルドラーゼに変えるだけでデオキシガラクトスタチンが容易に合成できることも示された4)

また最近、三浦らは、グリシンをエノレート基質とするL-スレオニンアルドラーゼを利用して、グルクロニダーゼの優れた阻害剤であるアザ糖の合成を達成し、アザ糖合成における本アルドラーゼの利用範囲の広さを示唆している5)

今後、環境に優しい有機合成が益々求められるようになる21世紀に向けて、これら酵素を利用したアザ糖合成の有用性が高まるものと考えられる。
梶本哲也(東京農工大学・工学部生命工学科)
References (1) G, Kinast M, Schedel Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 20, 805, 1981
(2) CH, von der Osten AJ, Sinskey CF, Barbas III RL, Pederson YF, Wang C-H, Wong J. Am. Chem. Soc. 111, 3924, 1989
(3) T, Kajimoto KK-C, Liu RL, Pederson Z, Zhong Y, Ichikawa JA, Porco Jr, C-H, Wong J. Am. Chem. Soc. 113, 6187, 1991
(4) T,Kajimoto L,Chen KK-C,Liu C-H,Wong J.Am.Chem.Soc. 113, 678, 1991
(5) M, Fujii T, Miura T, Kajimoto Y, Ida Synlett. in press (2000).
2000年 9月 15日

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