Progeoglycan
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脳神経発生とプロテオグリカン

  脳には多くの種類のプロテオグリカンが存在する(表1)。各々のプロテオグリカンの構造・発現様式・機能についての詳細は、最近の総説(文献1〜4)を参照して頂くこととして、ここでは、脳の発達過程におけるプロテオグリカンの役割について概説する。  脳に存在するプロテオグリカンは、細胞間隙や細胞表面の様々な分子(細胞外マトリックス成分、細胞接着分子、成長因子など)と結合する。多くの場合、プロテオグリカンの脳内分布は、それと結合能を持つ分子の脳内分布と重なっていることから、脳内でも、プロテオグリカンはこれらの分子と作用しあっているものと思われる。


 神経細胞の培養系を用いた多くの研究は、脳のプロテオグリカンが神経突起の伸長を抑制することを示している。例えば、ラミニンやL1/Ng-CAMを塗布した培養皿の上で神経細胞を培養すると、神経突起の伸長が促進されるが、そこにニューロカン、ホスファカン、NG2-プロテオグリカン、あるいはアグリンといった神経系のプロテオグリカンを共存させると、この神経突起伸長活性が中和される。この結果は、神経回路形成期の脳において、神経線維の伸長を阻害しているグリア性障壁と呼ばれる部位にいくつかのプロテオグリカンが局在しているという報告と矛盾しない。一方、ニューロカンやホスファカンを単独で塗布した培養皿を用いた場合、一部の神経細胞では、突起伸長が促進される。また、脳内でも、視床皮質線維はニューロカンが存在している部域を選んで伸びてくることが知られている。プロテオグリカンが神経突起の伸長を抑制するか促進するかは、神経細胞表面でプロテオグリカンと作用し合う分子の種類や組成の違いによると思われる。


 プロテオグリカンの重要な機能のひとつとして、成長因子の情報伝達を仲介することがある。脳には、グリピカンやN-シンデカンなど何種類ものヘパラン硫酸プロテオグリカンが存在する。これらは、bFGFやプレイオトロフィンなどヘパリン親和性成長因子の共受容体として、細胞増殖や神経細胞の生存維持、神経突起伸長などを調節していると考えられている。最近、膜貫通型コンドロイチン硫酸プロテオグリカンも情報伝達に関わっていることが明らかになりつつある。例えば、グリア前駆細胞の細胞膜成分であるNG2-プロテオグリカンは、PDGFα-受容体の活性化因子として、PDGFによるグリア細胞の増殖を調節している。また、RPTPζ/βは、コンドロイチン硫酸を結合した脳特異的受容体型チロシンホスファターゼであり、何らかの情報経路の一部になっていると思われる。さらに、ニューログリカンC(NGC)/CALEBは、EGFの活性ドメインと酷似したアミノ酸配列を持つことから、成長因子である可能性がある。


   脳が機能的に成熟するためには、乳幼児期に適切な感覚刺激が脳に伝達されることが必須であるが、感覚刺激に依存して脳が成熟する分子機構の詳細は不明である。Cat-301プロテオグリカン、ニューロカン、およびNGCは、発達期の脳内で感覚刺激依存性の発現変動をすることが明らかとなった。このような神経活動に依存したプロテオグリカンの発現変動が、脳の成熟機構の一部となっていると思われる。


 神経発生のみならず、プロテオグリカンは、神経再生やアルツハイマー病脳内蓄積物質の形成にも関わっていることが明らかになりつつある。10年ほど前までは神経科学の分野では敬遠されていたプロテオグリカンが、いまや、脳の重要な生理活性物質として脚光を浴び始めたのである。






図の説明

大脳皮質内に展開される髭の2次元的配列。
髭の1本1本は、バレル1個1個に厳密に対応している
(A) 生後10日ラット大脳体性感覚野バレル領域を抗ニューロカン抗体で免疫染色した。バレル隔壁が濃染されている。

(B) 同一ラットの髭毛根の配列
大平 敦彦(愛知県心身障害者コロニー・発達障害研究所)
References(1) Small, D. H, Mok, S. S, Williamson, T G, Nurcombe, V: Role of proteoglycans in neural development, regeneration, and the aging brain. J. Neurochem. 67, 889-899, 1996
(2) Hoke, A, Silver, J: Proteoglycans and other repulsive molecules in glial boundaries during development and regeneration of the nervous system. Prog. Brain Res. 108, 149-163, 1996
(3) Margolis, R. U, Margolis, R K: Chondroitin sulfate proteoglycans as mediators of axon growth and pathfinding. Cell Tissue Res. 290, 343-348, 1997
(4) Oohira, A, Aono, S, Matsui, F, Yasuda, Y, and Tokita, Y: Transmembrane chondroitin sulfate proteoglycans in the developing brain: Involvement in signal transduction as well as cell adhesion. Connec. Tissue. 30, in press, 1998
1998年 3月 15日

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