Japanese












リゾチームやセルラーゼを用いた糖鎖および誘導体の高効率合成

我々は、リゾチームおよびセルラーゼが触媒する糖転移反応を利用した有用オリゴ糖鎖および誘導体の高効率的酵素合成法を紹介する。

I.リゾチーム触媒糖転移反応
リゾチームの酵素活性の測定基質となるp-ニトロフェニルペンタ-N-アセチルキトペンタオシド:pNP-β-(GlcNAc)5が高濃度のジメチルスルホキシド(Me2SO)を含む溶液中でニワトリ卵白リゾチームを触媒素子としてペンタ-N-アセチルキトペンタオシド:(GlcNAc)5からp-ニトロフェニルβ-N-アセチルグルコサミニド:pNP-β-GlcNAcのOH-4位への糖転移反応を活用して合成された。 本収率は高く供与体(GlcNAc)5当たり45 %であった。 目的化合物は反応液から不溶化するためクロマト操作を経ることなく直接水溶性メタノールで洗浄することのみで高純度で得ることが出来た。 結果として、本反応系へのMe2SOの添加は、pNP-β-(GlcNAc)5の溶解度を増大させる効果のみならずpNP-β-(GlcNAc)5を高収率で得ることができた。1)
 ニワトリ卵白リゾチームは、またGlcNAc転移活性を有しており、本活性を利用してN-型糖鎖に存在する4-O-β-N-アセチルグルコサミニル-マンノース(GlcNAcβ1-4Man)二糖配列を合成した。本酵素は、(GlcNAc)2供与体とマンノース受容体からの糖転移反応を介して供与体当たり20.9 %の収率でGlcNAcβ1-4Manの生成を触媒した。このことは供与体からN-アセチルグルコサミニル基をもっぱらマンノース残基の4位へのみの転移能を示している。 本酵素反応はまた受容体としてp-ニトロフェニルβ-マンノピラノシドを用いた時のGlcNAcβ1-4Manβ-OC6H4NO2-p合成にも適用できた。本収率は供与体当たり10.5%であった。2)

II. セルラーゼ触媒糖転移反応
我々の関心は、スフィンゴ糖脂質のミミック単位として脂肪族基をβ-グリコシド結合でラクトース単位に結合させる酵素的なアプローチにあった。 一連の脂肪族β-ラクトシドが、水反応系でTrichoderma reesei由来セルラーゼを用いLacβ-pNP供与体から各種1-アルカノール(n=2〜12)受容体へのβ-ラクトシル転移反応により簡便に合成出来ることが判った。本反応でエタノール受容体を用いた場合、供与体当た18%の収率でエチルβ-ラクトシドを生成した。しかしながら、本収率はアルカノール受容体のアルキル鎖の長さがC2〜8へと短くなるにつれて減少した。オクタノールの場合には、オクチルβ-ラクトシドの収率は1%以下であった。この収率の問題は、界面活性剤としてコール酸ナトリウムを用いることで一部解決することが出来た。1-オクタノールと1-ドデカノール受容体をコール酸ナトリウム存在下で反応させたところ転移物としてオクチルβ-ラクトシドとドデシルβ-ラクトシドが供与体当たり13%と5%の収率で得られた。反応系へのコール酸ナトリウムの添加は基質の溶解度を上げるばかりか著しい収率の向上をもたらした>。3)
 本酵素はまたLacNAc転移活性を有していたのでN-型糖鎖のアンテナリーの部分構造を合成するのに利用することが出来た。調製用スケールでの合成がLacNAcβ-pNP供与体とManおよびGlc受容体とを用いて行われた。本酵素はもっぱら供与体からN-アセチルラクトサミン単位をManおよびGlc残基のOH-4位に転移させる活性を有していた。結果、Galβ1-4GlcNAcβ1-4ManおよびGalβ1-4GlcNAcβ1-4Glcを供与体当たりそれぞれ13 %と9 %の収率で得ることが出来た。これら生成物は、簡便に活性炭-セライトカラムによる一段階のクロマト操作により単離出来た。3)
碓氷泰市(静岡大学・農学部)
References (1) T, Usui : Regioselective synthesis of useful oligosaccharide by glycosidase, Trends in Glycosci. Glycotechnol. 4, 116-122, 1992
(2) T, Murata T, Usui : Enzymatic synthesis of important oligosaccharide units involved in N- and O-linked glycans, Trends in Glycosci. Glycotechnol. 12, 161-174, 2000
(3) K, Totani N, Yasutake H, Ohi T, Murata T, Usui : Enzymatic synthesis of aliphatic
β-lactosides as mimic units of glycosphingolipids by use of Trichoderma reesei cellulase, Arch. Biochem. Biophys. 385, 70-77, 2001
2002年 3月 15日

GlycoscienceNow INDEX Return to Top Page