細胞表面に提示される糖鎖は、組織特異的に、また、発生段階特異的に発現が制御されており、ステージ特異的胚性抗原(SSEA)など、胚性幹細胞(ES細胞)のマーカーとしても使われている。しかし、幹細胞における糖鎖の役割は、よくわかっていなかった。そこで、我々は、糖鎖を合成する糖転移酵素を主な対象としてマウスES細胞でRNAiスクリーニングを行い、現在までに、ナイーブな多能性状態を維持するために必要な4種の糖鎖構造、(1)LacdiNAc構造(GalNAcβ1,4GlcNAc)、(2)ヘパラン硫酸、(3)O-GlcNAc、(4)ムチン型O-結合型糖鎖の1つであるT抗原(Galβ1,3GalNAc)を明らかにした。これらの糖鎖は、いずれも、ナイーブな多能性状態の維持に必要な白血病抑制因子(LIF)、骨形成因子(BMP)、Wntシグナル、あるいは、分化の出口となるFGF4シグナルのどれかに関与していていた。また、ショウジョウバエから哺乳類まで進化的に保存されている糖鎖構造でもあった。一方、ES細胞とエピブラスト様細胞は、エピブラストへの最初の細胞系譜の決定をin vitroで再現し、多能性状態の遷移の根底にある分子メカニズムの解析を可能にする。両者の細胞の全グライコーム解析を行ったところ、全てのタイプの糖鎖構造が発生の初期段階から劇的に変化することが分かり、この変化には、ポリコーム抑制複合体2による様々な糖転移酵素の発現を同時に制御するネットワークが関与していた。ここでは、これらの我々の研究を中心に、再生医療への応用も含めて紹介する。 ...and more
ヒトES/iPS細胞の最外層を覆う細胞の顔・糖鎖を網羅解析することで、ヒトES/iPS細胞の顔の特徴を明らかにするとともに、ヒトES/iPS細胞に反応するrBC2LCNと呼ばれるレクチンを発見した。そしてrBC2LCNを用いて細胞治療用製品に残存するヒトES/iPS細胞を検出、除去する技術を開発した。さらに最近ではヒトiPS細胞の未分化状態から逸脱した細胞である「逸脱細胞」を検出する技術を開発した。ここでは、筆者らがこれまで開発してきた糖鎖を基盤としたヒトES/iPS細胞品質管理技術についてご紹介したい。 ...and more