氏名:三善 英知
大阪大学大学院医学系研究科 生体病態情報科学講座 教授
医学博士
1986年大阪大学医学部を卒業。消化器内科(肝臓)を中心とした臨床研修後、大学院から糖鎖の研究を始める。2007年6月から現職。2014-5年医学部保健学科長。2015年〜保健学専攻ボーダレスデザイン医学研究センター長
2020年 医学部保健学科長
研究テーマと抱負:糖鎖の病態生化学に関する研究で、多くの基礎・臨床の教室と共同研究を続けている。糖鎖研究の力で、難治性消化器疾患の治療法を開発することが大きな夢である。
再生医療は、トランスレーショナルリサーチの最先端を行く現代医療の一つと言える。細胞治療まで含めると、その歴史はかなり古い。もともとは発生学に携わってきた研究者が、再生医療というキーワードに乗り換え、大きく学問的な発展をとげた。そして、2006-2007年のiPS細胞の発見によって、再生医療研究は現実的な医療の1つになったと言って過言ではない。再生医療を国民が迅速かつ安全に受けるための総合的な施策の推進に関する法律として、平成26年に再生医療等安全性確保法と医薬品医療機器等法の改正が行われた。これによって、再生医療を迅速かつ円滑に、多くの製品をより早く供給することが可能になった。
糖鎖はタンパク質、核酸に次ぐ第3の生命鎖として、その学問的な進歩と臨床応用が期待されてきた。実際に臨床検査に用いられている多くの腫瘍マーカー、血清バイオマーカーは、糖鎖に関連したものである。筆者らも以前に、当時話題を集めていた肝臓の幹細胞を、グライコミクスの手法を使って単離しようと試みた1。劇症肝炎を自然発症するLECラット2の肝臓からE4-PHAというレクチンを用いて単離した細胞は、肝臓の前駆細胞のような形質を持っていた。その後、グライコミクスの手法によってがん幹細胞の糖鎖マーカーの探索も行った3,4。一連の研究からわかったことは、糖鎖はまさに“細胞の顔“であり、特定の細胞を簡単にかつ包括的に捉えることができるということである。
実際に糖鎖を神経の再生医療に応用しようという研究は、名古屋大学の門松健治教授らのグループによってなされた。この研究は、現代の医学では治療法がない脊椎損傷に対する糖鎖科学の挑戦と言える。また、ショウジョウバエからES細胞、iPS細胞と幅広い対象で幹細胞と糖鎖の包括的な研究を展開されたのが、創価大学の西原祥子教授らのグループである。こうした基礎的な研究だけでなく、レクチンを使って実際のiPS細胞の再生医療に糖鎖科学を応用したのが、産業技術総合研究所の舘野浩章主幹研究員のグループで、まさにレクチン医療の一つと言えよう。再生医療に関する代表的な我が国の糖鎖研究として、この3つを紹介させていただいた。
本サイトでは、まず再生医療を大きく変えたiPS細胞の発見から今後の展開に関して、京都大学の山中伸弥教授のグループにご紹介いただいた。そしてiPS細胞の臨床応用研究として、眼の再生医療、パーキンソン病に対する再生医療を、それぞれ大阪大学の辻川元一教授、京都大学の高橋 淳教授にご紹介いただいた。グライコグライコフォーラムの特徴上、どの項も要約した内容になるが、6つの異なる総説を一連のものとして楽しんでいただきたい。深くご興味のある方は、ぜひ原著を熟読して欲しいと思う。