ポリロタキサンとは、多数の環状分子の空洞部に線状高分子鎖を貫通させ、その両末端にかさ高い封鎖基を導入して、環状分子が脱離しないようにしてある超分子の総称である。したがって、ポリロタキサンは高分子量体であるが、多数の環状分子と線状高分子鎖とのあいだには共有結合が存在せず、これら分子同士は機械的に連結しているとみなすことが出来る。そして、過去数十年にわたるポリロタキサン設計に用いられてきた環状分子の一つが、シクロデキストリンの名で親しまれてきた環状オリゴ糖である。
筆者らは、1993年にシクロデキストリンを一成分とするポリロタキサン骨格を用いて新たなバイオマテリアル機能を設計すべく研究を開始し、これまでに数多くの機能創発を報告してきた。いずれも機械的連結様式をもったポリロタキサンならではの特徴に裏付けられた機能であり、分子同士が共有結合で連結している従来高分子とは全く異なる新世界の広がりと深みを示すことが出来たものと自負している。本稿では、筆者らのポリロタキサン研究の中でもとりわけ重点的に取り組んできた①分子可動性ポリロタキサン表面による細胞機能調節と②分解応答性ポリロタキサンによる難治性代謝疾患治療応用の可能性について紹介していきたい。 ...and more
シクロデキストリン(CD)は、ᴅ-グルコースがα-1,4結合で環状につながったオリゴ糖である(図 1A)。このうち特に、ᴅ-グルコースが6、7、8個からなるシクロデキストリンはα-、β-、γ-CDと呼ばれ、広く用いられている。これらのCDはサブナノメートルサイズの空洞をもっており、この空洞の形と大きさに合う分子を取り込む性質をもつ。この性質を‘包接’と呼び、CDの包接能は触媒やセンサー等として学術的に研究されるとともに、食品、化粧品、医薬品など工業的に広く利用されてきた。一方、CDはその環の上下に存在する水酸基間での水素結合形成あるいはゲスト分子とのホスト-ゲスト相互作用を通して分子間で規則的に集合することもできる。このCD分子の集合により形成されるナノおよびマイクロ構造体の研究が、超分子化学ならびに材料科学の分野で注目されている5,6。本稿では、CD分子の集合能を利用した超分子構造体の創製とそれらの形態制御について紹介する。 ...and more
環状オリゴ糖であるシクロデキストリン(CD)は、水中でさまざまな物質を内包するホスト分子として、基礎研究だけでなく食品添加物などにも一般的に広く利用される物質である。ブドウ糖が環状に連なった構造をもつCDは、そのもの自体でも大変興味深い物性を示すが、有機化学的な手法を用いて、水酸基にさまざまに化学修飾を施すことが可能である。筆者らはCDをO-メチル化および二量体化することで、水中でヘム鉄のモデルとなるポルフィリン誘導体を包接させ、水中および生体内で機能する人工ヘモグロビンhemoCDを創成した。本稿では、このhemoCDの分子デザイン指針および特性から医療応用への挑戦について述べる。 ...and more
シクロデキストリン(CD)は、α-1,4-D-グルコピラノシドの環状オリゴマーで、分子の中央にある空孔が小分子を包摂する機能を有し、環状6〜8量体(CD6—8)が広く応用されている。大きなCDではCD数百まで知られている一方で、小さなCDではCD5の化学合成が報告されているのみであった。さらに小さなCD4とCD3は分子サイズがあまりに小さく、ピラノース環が安定なイス型配座を取ることができないため、これまで合成されたことがなかった。本稿では、CD4とCD3両方の化学合成について記述する。合成に成功した主要因は、D-グルコースの3位と6位酸素を架橋する官能基の開発である。すなわち本架橋基によって、CD4とCD3の合成に必要な立体選択的グリコシル化反応とピラノース環の立体配座の柔軟化が実現した。 ...and more