天然セルロース(セルロースI)を酸で処理して調製したセルロース微結晶は、幅ナノメートルサイズのウィスカーであり、高強度、高弾性率、低熱膨張率などの特性を有することが知られている。また、反磁性体であるセルロースに磁気異方性があることは古くから知られており、強磁場を利用したセルロースI型微結晶の磁場応答に関するさまざまな研究が行われてきた。一方で、レーヨンなどの再生セルロース繊維の結晶形であるセルロースⅡの磁場応答に関する研究は行われてこなかった。そこで、本稿では、セルロースI型微結晶の磁場配向挙動について概説するともに、セルロースII型微結晶の酵素合成とその三次元磁場配向化に関する最近の我々の取り組みを紹介する。 ...and more
セルロースは天然多糖であり、機能的に構造多糖に分類される。セルロースの優れた強度は複数本の分子鎖が集合し、I型結晶と呼ばれる高い結晶弾性率を示す構造をもつことに起因する。このような高分子集合構造が酵素タンパク質により合成されるという事実から、セルロース生合成は常温常圧水系溶媒下で高分子鎖を制御して最強構造を合成するメカニズムであると言える。通常の汎用高分子の成形において高温高圧あるいは厳しい溶媒条件が使われることと比較すると、セルロース合成酵素は極めて高度な高分子構造制御機構を有していることを意味している。 本稿ではこのメカニズム解明を目指して我々が10年以上取り組んできたセルロース合成酵素のセルロース合成活性を再構成する取り組みを紹介させて頂く。 ...and more