Jun 01, 2023

ビフィズスフローラ形成と先住効果:乳児腸内細菌叢の形成過程におけるヒトミルクオリゴ糖と移入順序の重要性
(Glycoforum. 2023 Vol.26 (3), A9)

DOI: https://doi.org/10.32285/glycoforum.26A9J

尾島ミリアム望美

尾島ミリアム望美

尾島ミリアム望美
京都大学大学院生命科学研究科 博士研究員
フロリダ州立大学理学部生物学科・教育学科卒業
ジョージア工科大学大学院 生物学研究科生態学専攻 修士課程卒業
京都大学大学院生命科学研究科 博士後期課程修了

乳児腸内細菌としてのビフィズス菌の役割について生態学的観点から研究を進めており、ビフィズス菌のより効果的なプロバイオティクスとしての応用を目指している。

1. 序文

ヒトの腸内細菌叢の形成は出生直後に始まる。乳児期に形成される細菌叢は宿主の健康に一生の影響を与えることが示唆されているため1–5、プロバイオティクス(一定量を摂取した際に、ヒトの健康に良い影響を与えるとされる生きた微生物)やプレバイオティクス(摂取した際にプロバイオティクスなど宿主にとって有益な微生物の増殖を促進させる成分)を用いた積極的な介入が検討され始めている6–8。しかしながら、プロバイオティクスおよびプレバイオティクスの効果は個人差が大きい。本稿では、これまでの研究成果や臨床研究の結果をもとに先住効果(種の移入順序が群集に及ぼす影響)といった生態学的観点から、乳児期の腸内細菌叢の形成メカニズムやプロバイオティクスやプレバイオティクスの効果について考えたい。

2. ビフィズス菌とヒトミルクオリゴ糖

ヒトの腸内には出生直後から微生物が定着し始める。新生児期は腸内細菌叢の成熟過程において重要な期間であり、ビフィズス菌は成熟初期に定着する菌種として知られている。ビフィズス菌は母乳哺育児の糞便から初めて単離されたグラム陽性の嫌気性細菌であり9、母乳哺育児の腸内では多くの場合その存在割合が70%以上を占めることが報告されている10–12。腸内におけるビフィズス菌の存在は、免疫系の発達13、アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防14、また腸内の炎症抑制15,16などといった様々な健康効果と関連することが報告されているため、早産児における腸内細菌叢の発達を促すためプロバイオティクスとして投与されるケースもある17–19。ビフィズス菌の乳児腸内への定着は、ビフィズス菌が有するヒトミルクオリゴ糖 (Human Milk Oligosaccharides, HMOs) 資化能によって促進されることが知られている20,21。HMOs とは、母乳中に含まれる三糖以上のオリゴ糖の総称であり、現在までに200種類以上の構造が特定されている22。HMOsは母乳中に3番目に多い固形成分でありながらヒトの消化酵素には耐性であるために乳児にとって直接的な栄養とはならないが23、その一方でビフィズス菌などHMOs資化能を有している腸内細菌の特異的な栄養源として機能する20,24,25。これらのことから近年、HMOsはプレバイオティクスとして調整乳に添加されるようになった。

3. 臨床試験における投与のタイミングとビフィズス菌の効果

ビフィズス菌の投与がもたらす乳児への健康効果については、いくつかの臨床研究によって検証されているが、それらの結果は一致しない場合が多い。すなわち、一部の試験では乳児へのビフィズス菌の投与が有益であると報告されている一方で、健康効果がないという報告もある。この相違は、投与のタイミングの違いによるものだと考えられる。乳児腸内は菌叢形成過程の初期段階にあるため大人の腸内と比べて利用可能なニッチが多い環境であり、菌叢形成は種の移入の順序に大きく左右されると考えられる。生態学的理論においては、先に移入してきた菌がそのニッチに早い段階でアクセスできるため、先住効果によって優占種となるとされている。先住効果とは、種(微生物)の環境(腸内)への移入タイミングの違いによって最終的に出来上がる群集構成(腸内細菌叢)が異なる現象を指す26,27。実際にビフィズス菌を用いた臨床試験の結果を見ると、出生後の24時間が特に重要な時機であることが推察される。例えば、早産児に対して出生 44時間後にBifidobacterium breve BBG-001 の投与が行われた試験では壊死性腸炎の予防やビフィズス菌の定着は確認されなかったが28B. breve の投与が産後数時間以内に行われた別の臨床試験6,29,30ではビフィズス菌の定着が確認されており、このことは投与のタイミングが如何に重要であるかを示唆している。早期投与が行われた場合、ビフィズス菌は腸内のニッチを先に占有することで病原菌の増殖の阻害をしたり、他のビフィズス菌の増殖の促進をすることによって健康効果をもたらしたと考えられる31。プロバイオティクス投与のタイミングという観点以外に、プレバイオティクスの同時摂取がビフィズス菌の定着をさらに促進することも報告されている。母乳哺育児にBifidobacterium longum subsp. infantis EVC001 を投与した試験では、出生後1年経過してもビフィズス菌の定着が観察された32。この試験では、先住効果に加えて母乳中のHMOsがビフィズス菌の選択的増殖因子として機能し、長期的な定着に寄与したと考えられる。

4. ビフィズス菌コミュニティーにおける先住効果の実験的検証

上述した通り、近年の研究では腸内細菌叢の形成過程において先住効果が果たす役割や33,34、プレバイオティクスとしてのHMOs が注目されてきている。同時に、ビフィズス菌のHMO資化戦略は種や株ごとに多様であることも明らかとなってきた20,21。つまり、移入順序に加えて、それぞれのビフィズス菌株のHMO資化能の相違も菌叢形成に影響をおよぼすことが予想された。そこで、乳児腸内の代表的なビフィズス菌種としてBifidobacterium bifidum JCM 1254, Bifidobacterium breve UCC2003, Bifidobacterium longum subsp. infantis ATCC 15697T B. infantis), およびBifidobacterium longum subsp. longum MCC10007(B. longum)を使用し、人乳由来の精製HMOsを炭素源として添加した培地で混合培養実験を行った。B. bifidum および B. infantis はほとんどの HMOs を資化することが可能であり、HMOs存在下では高い競争力を有することが予想される。一方、B. breve はフコースなどのHMOs構成糖を利用することができるがHMOs資化能は限られているため、競争力が低いと予想される(図 1)。その結果、それぞれのビフィズス菌株が有する特徴的なHMO利用能が最終的なコミュニティー形成に強い影響を及ぼすことが確認された35

図1
図 1. 代表的なHMOsおよび乳児型ビフィズス菌
HMOsの大半の分子種はフコース修飾(フコシル化)されており、B. bifidum および B. infantis は、これらのほぼ全てのHMOsを資化することができる。B. longum は一部のフコシル化HMOsおよびLNTを資化することが可能な一方で、B. breve の資化能はLNTおよび LNnTに限られているが、B. breve はHMOs構成糖であるフコースを資化することができる。Abbreviations: 2'-FL, 2'-Fucosyllactose; 3-FL, 3-Fucosyllactose; LDFT, Lactodifucotetraose; LNT, Lacto-Ntetraose; LNnT, Lacto-N-neotetraose; LNFP, Lacto-N-fucopentaose; LNDFH, Lacto-N-difucohexaose; Fuc, fucose; Glc, glucose; GlcNAc, N-Acetylglucosamine; Gal, galactose.

B. bifidumB. infantisを最初に培地中に導入した場合は、予想通り、これらの種がビフィズス菌コミュニティーの優占種となった。後から移入してきた種が栄養源として利用可能なHMOs量が限られてしまうためである。しかしながら、 B. breve を先に培地中に導入した場合、予想に反して本菌種が最終的なコミュニティーにおける優占種となった。B. breve のHMOs利用能は限定されてるが、B. bifidumB. infantisが資化過程で産生するHMOs構成糖(特にフコース)を利用することによってコミュニティーを優占したと考えられる。実際、B. bifidumB. infantis のいずれもが、HMOsを分解利用する際にフコースを含む単糖を遊離することが知られている。B. bifidum は菌体外酵素で HMOs を分解するため、フコースとその他のHMOs分解物は細胞外で生じる36B. infantis はHMOsをそのまま取り込み、フコースを含む単糖を一過的に細胞外へ放出することが報告されている37。そのため、早い段階でB. breveがそのニッチに存在していれば、B. breve は他の菌種がつくり出す分解物を利用することで優占種となり得るのである(図 2)。混合培養で観察されたこのような傾向は、in vivo のデータでも確認された。すなわち、ヨーロッパで行われた大規模な乳児コホートの糞便 DNA メタゲノムデータを解析したところ、出生直後にB. breve が検出されていた乳児では、4ヵ月後においてB. breve がビフィズス菌コミュニティーの優占種(50 %以上)となっている確率が有意に高かった38。これらの結果から、菌叢形成過程には先住効果が大きな影響を及ぼしていること、また、その過程はそれぞれの菌種が有する糖利用能によっても大きな影響を受けていることが明らかとなった。

図2
図 2. B. breveがHMOs存在下で示す先住効果の予測図
2′-FL を例とした際のB. bifidum, B. infantis, およびB. breve による糖資化経路。その他のフコシル化HMOsも同様のメカニズムで資化されると推察される。B. bifidumの代謝経路は青、B. infantis ではオレンジ、B. breve では緑で示されている。菌による糖の取り込みは実線、酵素による糖の分解は点線、糖の放出は破線で示す。B. breve の多くの株は単独では2′-FLを資化することはできないが、早い段階でニッチに導入された場合、他の菌種がつくりだす2′-FL 分解物を利用してコミュニティーを優占することが出来る。一方で、導入が遅れると分解物は他の菌種によって消費されてしまうために優占することが出来ない。2′-FL, 2′-fucosyllactose; Lac, lactose; Fuc, Fucose; Glc, Glucose; GlcNAc, N-Acetylglucosamine; Gal, Galactose.

5. おわりに

乳児期に形成される腸内細菌叢はヒトの一生の健康に関わるため、新生児への積極的な介入が検討されている。それにはまず、どのようにプロバイオティクスおよびプレバイオティクスを使用すれば効果的に菌叢を制御できるかを理解することが重要と考えられる。臨床試験やin vitroの研究結果からは、菌叢形成には先住効果が大きな影響を及ぼしていることが示唆されているが、今後、さらにビフィズス菌をプロバイオティクスとして効果的に使用するためには、投与のタイミングに加えて、それぞれの菌株のHMOs資化特性も考慮すべきであろう。

謝辞

この論文の執筆にあたり、建設的なご意見をくださった、片山高嶺先生、Avery Scherer博士、Xiulin Gao博士、Grace Cagle博士に感謝いたします。


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