氏名:深田 裕哉
東京大学 大学院農学生命科学研究科
2023年より、東京大学 大学院農学生命科学研究科 博士課程在学中。日本学術振興会特別研究員(DC1)。2019年東京理科大学工学部工業化学卒業。2021年東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2021年-2023年太陽ホールディングス株式会社。2024年-2025年 VTT Technical Research Centre of Finland 訪問研究員。
氏名:岩田 忠久
東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授
1989年京都大学農学部林産工学科卒業。1992年フランス国立科学研究センターに留学。1994年京都大学博士(農学)。1995年日本学術振興会PD特別研究員。1996年-2006年理化学研究所研究員・副主任研究員。2006年現所属助教授。2012年より現職。専門は高分子材料学、生分解性バイオマスプラスチック、高分子構造学。2006年 繊維学会賞、2010年 ドイツイノベーションアワード ゴッドフリード ワグネル賞、2014 矢崎財団 矢崎学術賞、2014 長瀬財団 長瀬研究振興賞、2018年 高分子学会賞、2021年 文部科学大臣表彰(科学技術分野、研究部門)。
現代の通信は、携帯電話に代表される電波による無線通信と、光ファイバーに代表される光による有線通信によって成立している。これらの通信装置において、石油合成プラスチックは、金属回路の絶縁材や光の導波路として唯一無二の役割を果たしている。一方で、二酸化炭素削減の観点から、バイオマスプラスチックの利用が求められている。しかし通信装置への適用は極めて限定的である。そこで我々は、再生可能資源である多糖から、先端通信装置に利用できる性能を有するプラスチック材料の開発を目指している。本稿では、高周波基板の絶縁材を志向した高耐熱性かつ低誘電特性を有する多糖エステルフィルムと、光ファイバーとして利用できる高透明で高強度な多糖繊維について紹介する。
プラスチックは軽量で成形性に優れ、私たちの生活に欠かせない素材である。その生産量は年々増加し、世界全体で年間約4億トンに達している1。その大部分は石油を原料とするため、焼却時には二酸化炭素を放出し、地球温暖化の原因となる。バイオマスプラスチックは再生産可能なバイオマス資源を原料とするため、焼却時に排出される二酸化炭素は、光合成により再固定され、大気中に蓄積しない。特に、リサイクルが困難で焼却せざるを得ないプラスチックは、バイオマスプラスチックへの転換が有効である2,3。
プラスチックは用途に応じて多様な性能が求められる。これまでに包装材や繊維など幅広い用途を志向したバイオマスプラスチックが開発されてきた。その中でも本稿では、通信機器に使用されるプラスチックに着目している。
人類の長距離の情報伝達手段は18世紀まで、紙の物理的な交換(手紙)に限られていた。19世紀に電信や電話といった電気通信が発明され、情報伝達速度は飛躍的に向上した。この時代から、電気を安全に扱うための絶縁材としてプラスチックが利用され始めた。
近年、モノのインターネット化(IoT)や人口知能(AI)の急速な普及に伴い、世界の通信量は指数関数的に増大している4。これに伴い、通信機器の使用量と廃棄量も増加している。2022年には世界で6200万トンを超える電子廃棄物が発生し、2030年には8000万トンに達すると予測されている5。しかし電子廃棄物は金属などの無機材料とプラスチックが複雑に混ざり合っているため、プラスチック部分のリサイクルは非常に困難である6。したがって、現代の通信技術に対応できる性能を有するバイオマスプラスチックの開発が必要である。
現代の通信を支えるのは、二つの電磁波技術である(Fig. 1)7。第一に、電波を用いた無線通信である。電波は300ギガヘルツ(GHz)以下の周波数帯域の電磁波を指す。電波は空気中を伝搬するため、電線が敷設されていない場所でも通信が可能になった。ラジオ放送や携帯電話がその代表例である。電波を送受信する電子機器には金属回路が組み込まれている。金属回路を確実に絶縁しつつ、信号を妨げない性質を有するプラスチックが不可欠である。
第二に、光を用いた有線通信である。通信に使用される光は数百テラヘルツ(THz)という極めて高い周波数を持ち、電波よりもはるかに高密度な情報を伝送できる。しかし光は空気中や真空中を直進する性質を持つため、導波路なしでは長距離の伝送は困難である。そこで、透明性に優れたガラスやプラスチックを繊維状に加工し、光を全反射させながら伝送する導波路、すなわち光ファイバーが開発された8,9。ガラス光ファイバーは大陸間通信などの長距離伝送に利用されている。一方、プラスチック光ファイバーは柔軟性や加工性に優れ、車載ネットワークなどの短距離通信、さらにセンシング用途に広く用いられている。
筆者らは現代の通信装置の根幹をなす上記二種類の高性能プラスチック材料を、バイオマス資源から開発することを目指している。本総説では、(i)多糖エステルによる高耐熱低誘電フィルム及び、(ii)プルランによる高強度光ファイバーの開発について紹介する。

近電子基板用の絶縁材には、高温でも変形しない耐熱性と、高周波の電波信号を妨げない誘電特性が強く要求される。耐熱性については、200 ℃を超えるはんだ付けに耐えられるように、プラスチックが軟化する温度であるガラス転移点(Tg)が200 ℃以上であることが望ましい。誘電特性については、低誘電率(Dk)と低誘電正接(Df)が必要である。Dkは電場に対する分極のしやすさを表し、Dfは分極の遅れに起因するエネルギー損失を表す。DkとDfが高いと信号の伝播速度が遅くなり、信号の伝送損失も大きくなる。また近年、より高速で大容量の通信を実現するため、電波信号の高周波化が進んでいる。信号の周波数と伝送損失は比例関係にある。そこで、高周波信号であっても低損失で伝送できる低Dkかつ低Dfな樹脂への需要が高まっている10。
従来、絶縁材に使用されているのはポリイミドやエポキシなどの石油合成プラスチックである。例えば、ポリイミドは、Tg= 300℃以上で、Dk= 3–4、Df= ~0.010である11。また、ガラス繊維を編んだ布にエポキシ樹脂を含浸させ、熱硬化させた材料(FR-4)はTg= 約200℃、Dk= 3.8-4.3、Df= 0.010–0.020程度である。近年はより低誘電特性をもつ高耐熱プラスチックが様々開発されている。例えば、ポリフェニレンエーテル(PPE)がDk= 2.6-2.8、Df= 0.003-0.007と、Tg= ~200℃を併せ持つことから、実用化が進んでいる12,13。また、フッ素を導入した樹脂は、さらに低い誘電特性を実現できることが知らている14。
しかし上記のプラスチックを焼却すると、二酸化炭素に加えて、ベンゼンやトルエンなどの揮発性有機化合物(BTEX)15、窒素酸化物(NOx)16、ペルフルオロアルキル化合物(PFAS)17などの有害物質が発生する懸念がある。本課題の解決には、耐熱性をもたらす芳香環や低い誘電特性をもたらすフッ素を含まずに、高周波通信に求められる物性 (Tg= 200 ℃以上とDk < 3、Df < 0.010))を実現する必要がある。
そこで非芳香族のバイオマス資源でありながら、耐熱性をもたらし得る環構造を有する高分子多糖類に着目した。多糖はそのままでは熱可塑性や溶剤可溶性に乏しいが、エステル化によってプラスチックに変換できる。例えばセルロースアセテートは液晶ディスプレイの偏光板保護フィルムとして利用されているが、その物性(Tg= ~180 ℃、Dk= ~ 3.9、Df= ~0.030)は、基板用途には不十分である11。
セルロースと同様に、グルコースを構成単位とする多糖であっても、その結合様式が異なると、その誘導体の物性は大きく異なる18。たとえば、ミドリムシから抽出されるパラミロン(β-1,3-glucan)のエステル誘導体はセルロース誘導体に比べ熱流動性が高く、繊維成形に適する19。また、スクロースを原料に酵素によって生合成できるα-1,3-glucanのエステル誘導体はセルロースエステルよりも高い融点(Tm)やTgを持つ20。さらに、α-1,6-glucanのエステル誘導体は、ガラスや木材などの接着材として利用できる21。多糖エステルの側鎖構造も誘導体の特性を大きく左右する。例えば、長鎖エステル基を導入するとTmやTgは低下し、フィルムの柔軟性が増す。また、分岐鎖など、かさ高い側鎖はTgを上昇させフィルムを剛直にする22-24。
我々は、多糖の主鎖構造および側鎖構造が熱物性と誘電特性に及ぼす影響を網羅的に調査した25-27。本項では、電子基板に求められる高耐熱性と低誘電特性を両立する熱可塑性プラスチックの開発例について紹介する。
2-2-1. 多糖エステルの合成
セルロース(β-1,4-glucan)、パラミロン(β-1,3-glucan)、α-1,3-glucanに対しに、直鎖、分岐、環状のさまざまな側鎖を導入した(Fig. 2)。アダマンタンカルボン酸や2,2-ジメチルプロピオン酸のように極めてかさ高い構造は、立体障害によりセルロースへは導入が困難であった。他の多糖の場合は、すべての側鎖構造によって、水酸基は完全にエステル化された。

2-2-2. 熱特性
一般に、多糖エステルの側鎖の炭素数が増加すると、内部可塑剤効果が高まり、Tgは低下する。例えばセルロースプロピオネートのTgは125 ℃、ヘキサノエートは61 ℃であった。同様に、分岐状側鎖のTgも、炭素数の増加に伴い低下したが、直鎖状よりは高い傾向にあった(Fig. 3)。一方で、環状側鎖のTgは異なる挙動を示した。環のサイズが増大すると、Tgは維持、または上昇した。特に、α-1,3-glucan-シクロヘキサンカルボキシレート(CH)のTgは205 ℃に達した。これは、基板の製造に必要な、はんだに耐え得る物性である。

2-2-3. 誘電特性
誘電率(Dk, 1 GHzにて測定)は側鎖の炭素数の増加に伴い低下した(Fig. 4)。例えばセルロース誘導体のDkは、アセテートで3.9、プロピオネートで3.1、ヘキサノエートで2.7であった。この傾向はパラミロンやα-1,3-glucanにおいても共通して観測された。側鎖炭素数の増加によりエステル基など極性基が分子全体に占める割合が、相対的に減少したためであると考えられる。特にC5以上の側鎖を導入した場合、Dkは3.0未満に収束し、従来のエポキシ樹脂やポリイミド(3–4)を下回る値が得られた。一方でDkは、主鎖の結合様式や側鎖の直鎖・分岐・環状といった形状にはほとんど影響されなかった。
注目すべきは、環状の側鎖を導入すると高Tgと低Dkが両立した点である。例えばα-1,3-glucan-CHは、Tg= 205 ℃、Dk= 2.7であった。また、α-1,3-glucan-CHのDfは0.013であり、既存のポリイミドやエポキシに匹敵する値であった。

結晶化度を向上させると双極子配向が抑制され、誘電特性をさらに改善できる可能性がある。そこで、α-1,3-glucan-CH(Tm= 336℃)のフィルムに対して250℃で熱処理を行い、結晶化度を上昇させた。結晶化度の上昇に伴いDkとDfは低下し、それぞれ2.48、0.007にまで改善することができた(Fig. 5)。本誘電特性は、ポリイミドやエポキシより優れおり、高周波基板用樹脂として有望である。

前節では、側鎖に一級水酸基(–CH2OH)をもつ多糖(セルロース、パラミロン、α-1,3-glucan)を議論した。一級水酸基は二級水酸基よりも外部電場に対する配向分極が起こりやすく、MHz-GHz帯にてDfが増加する要因になることが知られている[25]。そこで、側鎖に一級水酸基を含まない多糖のエステル誘導体についても評価を行った(Fig. 6)。本項では、一級水酸基であるグルコースのC6位がグリコシド結合で占有されるデキストラン(α-1,6-glucan)及び、単糖骨格自体に一級水酸基を持たないキシラン(β-1,4-xylan)のエステル誘導体の熱・誘電特性を紹介する。

2-3-1. 熱物性
α-1,6-glucanでは、三つの水酸基に、プロピオン酸(Pr)およびシクロヘキサンカルボン酸(CH)をそれぞれ導入できた。一方、キシランはプロピオン酸のみしか導入できなかった。
α-1,6-glucan-Pr のTgとTmはそれぞれ、121℃、275℃であった。α-1,6-glucan-CHのTgとTmは、それぞれ141℃、255℃であった。Tgは目的としていた200℃には及ばないものの、Tmは250℃以上であり、はんだ付けに耐えられる可能性はある。対照的に xylan-PrのTgは、68℃であり、高温での寸法安定性に乏しかった。他樹脂とのブレンドや架橋基の導入によって改善の余地はある。
2-3-2. 誘電特性
まずはDkについて考察する。プロピオネート同士の比較では、xylan-PrのDk(2.52)は、α-1,6-glucanPr(2.97)やcellulose-Pr(3.08)より低かった。グルコースは3つの水酸基をもつが、キシロースの水酸基数は2つである。したがってxylan-Prは、極性基であるアシル基数が相対的に少なく、Dkが低くなったと考えられる。一方、α-1,6-glucan-CHのDk(2.58)はcellulose-CH(2.61)と同等であった。以上から、側鎖の炭素数に加え、多糖を構成する単糖の水酸基の数が、Dkに大きな影響を及ぼすことが示唆された。
次いでDfについて着目する。α-1,6-glucan-Prとxylan-Prはともに0.008で、cellulose-Pr(0.015)の半分程度であった。α-1,6-glucan-Pr と xylan-Prは、一次水酸基に由来するエステル側鎖を有さないため、MHzからGHz帯の配向分極が小さく、Dfが低くなった可能性がある。さらに、α-1,6-glucan-CHのDf(0.003)はcellulose-CH(0.019)より大幅に低く、従来の多糖エステルのなかで最も低い値であった。
α-1,6-glucan-CHの誘電特性(Dk= 2.58, Df= 0.003)は、ポリイミドやエポキシに比べ、大幅に優れているだけでなく、非フッ素系ポリマーとして最高レベルの低誘電特性を有するシクロオレフィンポリマー(COP, Dk= 2.5, Df= 0.003)に匹敵した(Fig. 7)。しかしCOPは、非晶性であり、なおかつ芳香環を有さないためTgは130 ℃程度にとどまり、耐熱性に課題がある。他方、α-1,6-glucan-CHのTgは141℃であり、COPと同等であるが、結晶性(Tm= 255℃)があるため、より高い温度での寸法安定性が期待できる。つまり、α-1,6-glucan-CHは、非芳香族かつ非フッ素系の樹脂として、最高水準の耐熱性と低誘電特性を両立しており、高周波基板用の絶縁材として有望である。

プラスチック光ファイバーは、非晶性で高透明な石油合成プラスチックである、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を熱で流動させ繊維状に成形することで製造されている。ガラス光ファイバーに比べて柔軟で機械的衝撃に強く、複雑な配線にも適応可能であり、さらに比較的低コストであることから、短距離通信やセンシング用途で広く普及してきた8,29。
しかしPMMAファイバーにはいくつかの課題がある。まず、PMMAは約100 ℃で軟化するため、化学プラントの配管や自動車システム(150–200 ℃)といった高温環境では使用できない30,31。高耐熱性プラスチックをコーティングすれば、使用できる温度域を拡大できるが、複数の材料が組み合わされた繊維のリサイクルは困難であり、使用後は焼却せざるを得ない30,31。また、屋外で使用される場合は、意図せずに流出し、物理的に破砕され、マイクロプラスチックとして環境中に残留するリスクがある34-36。よって、光学性能と耐熱性を併せ持つ、環境負荷の小さい光ファイバーの開発が必要である。
ビスコースレーヨンに代表される再生セルロース繊維は、低コストで高強度な素材として、1世紀以上にわたり利用されてきた37。近年再生セルロース繊維が、光ファイバーとして利用できることが報告された。例えば、再生セルロース繊維に、セルロースアセテートを反射層(クラッド)としてコーティングすると光を導波できることが報告されている38-40。また、カルボキシメチルセルロース繊維においては、クラッドを作らずとも、光が繊維内部で全反射し、信号を伝送できることが実証された41。さらに、それらのセルロース繊維は熱可塑性を示さないことから、PMMAが変形してしまう100℃以上の温度域でも形状を維持できる。
しかし、光学特性には大きな課題がある。セルロースは結晶性であり、光が散乱するため、繊維は白く濁っている。それゆえセルロース繊維の導波距離は10 cm程度に限られている。また再生繊維の製造過程では、アルカリへの溶解、二硫化炭素による化学修飾、そして酸による凝固浴が必要である。その過程で、セルロース分子の一部が酸化され、わずかに黄変してしまう。その結果、黄色の補色である青色の光は繊維内にて吸収され、ほとんど導波できない42。
そこで、非晶性で水溶性の多糖であるプルランに注目した(Fig. 8 (a))。プルランは、Aureobasidium pullulans が分泌する、マルトトリオースがα-(1→6)結合によって連結した水溶性多糖である。プルランはガスバリア性に優れることから食品包装や経口薬カプセルに広く利用されてきた43。また、そのアセチル化フィルムの複屈折はゼロに近く、高い透明性を示すことが報告された44。さらに私たちは最近、有機溶剤や強酸、強塩基、熱処理を必要としない新しい紡糸法によって、強靭で透明なプルラン繊維を得ることに成功した45。本項では、その手法と得られた繊維の光ファイバーとしての性能について紹介する。
多糖は分子内外で多数の水素結合を有するため熱可塑性に乏しく、繊維化には湿式紡糸が主流である。一方で多くの多糖は、濃アルカリやイオン液体などの特殊な溶剤にしか溶解しない。よって廃棄溶剤の処理に伴う環境負荷や、繊維の着色が課題となっている。プルランは水に可溶であることから、本課題の解決が期待できる。
しかし、プルラン水溶液を、エタノールなどの貧溶媒で固化しようとすると、凝固が遅く、空隙が生じ、白濁してしまう。そこで超高分子量ポリエチレンなど、熱可塑性や溶剤可溶性に乏しいポリマーの紡糸に適用されるゲル紡糸に着目した46。
具体的には、20-40 wt%のプルランを5 wt%ホウ砂水溶液中で攪拌することで無色透明なゲルを得た(Fig. 8 (b))。ホウ砂が水中でホウ酸イオンとなり、プルランの水酸基と可逆的な架橋構造を形成したと考えられる。そのゲルをシリンジから押し出して1 m超の繊維状のゲルを作製した。そのゲル繊維の両端を固定し、室温で24時間乾燥させると、無色透明な繊維が得られた(Fig. 8 (c))。作成した繊維の表面や断面に欠陥は観察されなかった(Fig. 8 (d))。また、広角X線回折では結晶由来のピークは観察されず、プルラン自体と同様に非晶性であることが分かった。セルロース繊維とは異なり、結晶界面が存在しないため、繊維は高い透明性を示していると考えられる。
本紡糸法においては、凝固浴は不要で、有機溶剤や強酸・強塩基も用いない。水のみを蒸発させれば繊維が完成するため、工程が簡潔である。本紡糸法は、プルラン以外の水溶性多糖や水酸基を有する多糖誘導体にも拡張可能であり、あらたな多糖系繊維の開発が期待される。

一般に非晶性のプラスチックは、結晶性プラスチックに比べ、力学強度、溶剤耐性、耐熱性などに弱点があることが多い。ところがプルラン繊維は無色透明な非晶性でありながら、これらの観点おいても優れた性能を示した。
まずプルラン繊維の引張強度は約200 MPaに達した(Fig. 9 (a))。これは、レーヨンなどの結晶性多糖の繊維に匹敵し、光ファイバーとして利用されるPMMA(70 MPa)やポリカーボネート(PC, 150 MPa)を上回っている11,47。また、ホウ砂比率がプルランに対し、多いほど架橋点が増え、繊維は剛直になった。
プルラン繊維は、水には数時間で溶解してしまう。よって、水に曝される用途には、疎水性コーティングが必要である。例えば、プルランよりも屈折率が低い疎水性の樹脂を用いれば、クラッドとしても機能し、光伝送性能の向上も期待できる。一方で、プルラン繊維は、PMMAが溶解するクロロホルムへは一切溶解しなかった。クロロホルムに24時間浸漬させた後も、力学強度を保持することができた。PMMAが使用できない、有機溶剤への暴露がある用途へ応用が期待される。
耐熱性について、プルラン繊維は、200℃に至るまで軟化しなかった(Fig. 9 (b))。よってプルラン繊維は、これまでPMMAが使用できなかった耐熱用途へも展開できる。

プルラン繊維は可視から近赤外(350-1300 nm)まで高い光透過性を示した(Fig. 10 (a))。さらに青色光(405 nm)と赤色光(637 nm)のレーザーを導波すると、クラッドなしでも50 cmを超える距離を光伝送できた(Fig. 10 (b) (c))。繊維をループさせても、空気との屈折率差による全反射で光が閉じ込められていることが分かる。一方で、プルランは吸湿性があるため、1400 nm以降には水の強い吸収が観察された。
既報の再生セルロース繊維は青色光を全く導波できない。また最も効率よく伝送できる波長であっても5.9 dB/cmである38。一方でプルラン繊維の伝送損失は、青色光(405 nm)で1.15 dB/cm、赤色光(637 nm)で1.42 dB/cmであった。つまりプルラン繊維は、多糖繊維として初めて青色光を伝送でき、それ以外の波長の光の伝送効率もセルロース繊維を大幅に上回る水準であった。この要因として、プルランは非晶性であり、結晶によるレイリー散乱が生じないこと、紡糸過程が温和であるため糖の酸化反応によって発色団が形成されず、着色が抑制されていることが挙げられる。
青色光の導波が可能になると、新しい応用展開が期待できる。例えば、青色光や紫外光は、バイオセンシング・バイオイメージング・光触媒反応に不可欠である48-50。また、感光性ポリマーへの微細露光や、大容量の短距離通信を担う材料としても有望である51-52。

ところで、市販PMMAの伝送損失は、10-3 dB/cmオーダーであり、現状のプルラン繊維より大幅に優れている。一方で、理論的には、セルロース繊維であっても、外因的散乱・吸収を取り除けば、PMMAやPCに匹敵する伝送損失を実現できるとの報告がある53。プルランは、セルロースと同様にグルコースから構成され、なおかつ非晶質であることを考慮すると、プルラン繊維は、PMMAと同等かそれ以上の伝送性能を得られるポテンシャルがある。伝送損失を改善する方法として、気泡や不純物を完全に除去すること、繊維断面を真円に近づけること、クラッド層をコーティングすることなどが挙げられる。
光学特性と、機械・熱物性を総合して考える。プルラン繊維は非晶性繊維としては非常に高い強度を示し、青色から近赤外の光を導波でき、200 ℃に至るまで形状を保持できた(Fig. 11)。PMMAは青色から近赤外の光伝送が可能であるが、100 ℃付近で軟化してしまう。ポリイミドやポリアミドイミドなどの芳香族ポリマーは機械物性や耐熱性に優れるが、芳香環などのπ共役や、電荷移動錯体の形成によって、青色付近の光は吸収され、伝送できない。また再生セルロース繊維は、結晶散乱と酸化による黄変のため青色光の伝送が困難である。つまりプルラン繊維は、これまで共存が困難であった機械物性、耐熱性、光学特性を高水準で実現している。
応用例として、従来PMMAが使用できなかった、100 ℃以上の温度に達しうる、自動車・航空エンジン周辺のネットワークが挙げられる。また高温かつ有機溶剤雰囲気を伴う医薬・化学品の製造ラインの監視システムなどへも展開が期待できる。また、プルランは吸水性があるため、1200 nm付近や1400 nm以降に水の吸収ピークが観察される。この吸湿応答性を逆手に取れば、光学式湿度センサーとしても利用できる可能性がある。

本稿では、多糖の化学構造の違いに着目し、化学修飾や成形方法を工夫することで、既存の通信機器に使用されるプラスチックに匹敵、またはそれを上回る性能の材料を得られることを紹介した。
(ⅰ)第一に、電波の送受信回路の絶縁材に必要な、高耐熱性低誘電プラスチックの開発を目指し、多糖エステルの主鎖と側鎖の組み合わせを網羅的に検討した。特に、炭素数が大きく、かさ高い環状の側鎖を多糖へ導入すると、高耐熱性と低誘電特性を両立できた。例えば、α-1,3-glucan-CHは、最も高いTg(205 ℃)とエポキシ樹脂などより優れた誘電特性(Dk= 2.65, Df= 0.013)を併せ持っていた。結晶化度を上昇させると、誘電特性をさらに改善できた(DDk= 2.48, Df= 0.007)。
また、配向分極しやすい一級水酸基を側鎖に有さない多糖(α-1,6-glucan、キシラン)のエステル誘導体は、より優れた誘電特性を示した。特にα-1,6-glucan-CHは、多糖エステルの中で最も優れた誘電特性(Dk= 2.58, Df= 0.003)を示した。これは非フッ素系ポリマーとして最高水準の低誘電特性をもつCOPに匹敵した。
(ⅱ)第二に、光ファイバーとして利用できる透明な繊維を、非晶性多糖のプルランから作製した。プルランをホウ砂でゲル化させ、繊維状に成形し、乾燥させると、透明なプルラン繊維を得られた。本手法により得られた繊維は、PMMAより高い引張強度(200 MPa)・と熱安定性(200℃まで軟化しない)を示した。さらに、紡糸プロセスが温和であるため、酸化による着色は生じず、多糖繊維として初めて、青色から近赤外までの光を伝送することができた。クロロホルムなどの有機溶剤にも安定であり、これまでプラスチック光ファイバーが利用困難であった、高温かつ有機溶剤環境を伴う工業用途への展開も期待される。
AIの急速な利用拡大に代表されるように、今後も通信量の急増、それに伴う通信装置の利用拡大が想定される。通信に使用するエネルギーだけでなく、装置に使用される材料にも、環境負荷が小さいことが求められる。その解決策となり得る素材として、多糖の研究開発の進展が期待される。
本研究は、JSPS 科研費 23KJ0700(特別研究員奨励費)、東京大学GAPファンドプログラム(第17期)の支援を受けて実施されました。また、本研究において、プルラン光ファイバーの開発および特性評価に関して共同研究のご協力を賜りました、フィンランド VTT 技術研究センターの Hannes Orelma 博士、Ari Hokkanen 博士、Aayush Kumar Jaiswal 博士に深く感謝申し上げます。