氏名:梅村 研二
京都大学生存圏研究所 教授 博士(農学)
1996年京都大学大学院農学研究科林産工学専攻博士後期課程修了、日本学術振興会特別研究員(PD) などを経て、2003年京都大学木質科学研究所(当時)助手、2004年京都大学生存圏研究所助手、2010年同准教授、2020年より現職。木材用接着剤や木質材料の開発に従事。2017年日本接着学会学会賞受賞。
木質材料は、木材などのリグノセルロースを原料として製造されるため、環境に優しい材料として注目されている。しかし、現状の製造では、原料どうしをくっ付けるために合成樹脂接着剤が多用されている。合成樹脂接着剤は、主として化石資源由来の原料を用いているため、今後はその使用量の抑制が求められている。その代替として、動植物由来の原料を用いたバイオベース接着剤の研究が活発に進められている。我々は、化石資源への依存をできる限り抑えたバイオベース接着剤の開発や、被着材となるリグノセルロースの特徴を活かした新たな接着技術の開発を進めている。本稿では、木質材料や木材用接着剤について概説するとともに、糖を活かした木材接着技術について紹介する。
一般に、木質材料とは木材を細分化した原料(エレメント)を接着剤によって再構成した材料の総称である。エレメントの種類やその配向によって、合板、パーティクルボード、配向性ストランドボード(OSB)、ファイバーボードといった面材料として利用するものや、集成材、単板積層材(LVL)などの軸材料として利用するものがある(図 1)。木質材料の種類によっては、廃棄された木材や木質材料を粉砕し、それを原料として使用しているものがある。また、木材以外にも草本系植物など種々のリグノセルロースを原料とする場合もある。
木材は、光合成によって大気中の二酸化炭素を取り込み生長した樹木を伐採して得ている。そのため、木質材料は大気中の二酸化炭素を固定していることになり、地球温暖化の抑制に貢献している。木質材料を長い間使い続けると老朽化し、いつかは廃棄、焼却され、その際に二酸化炭素を放出することになるが、使用中に新たに植林すれば、二酸化炭素を取り込み生長する。したがって、木材はカーボンニュートラルな資源であり、それを用いた木質材料も、環境負荷の少ない材料とみなされている。FAO(国際連合食糧農業機関)の最近の報告1では、合板やパーティクルボード、ファイバーボードの世界的な生産量は2050年にかけて増加するとされており、今後さらに有用な材料になると予想される。
しかし、木質材料の製造ではエレメント同士をくっ付ける必要があるため、基本的には接着剤が必須である。現状では、各木質材料の用途によって様々な合成樹脂が用いられている。例えば、ホルムアルデヒド系接着剤には、レゾルシノール樹脂接着剤やフェノール樹脂接着剤(図 2)、ユリア樹脂接着剤(図 2)などがあり、レゾルシノール樹脂接着剤やフェノール樹脂接着剤は構造用接着剤として、ユリア樹脂接着剤は内装用接着剤として使用されている。合成樹脂接着剤は、ナフサや天然ガスといった化石資源由来の物質を原料として合成される場合が多く、昨今の脱化石資源の流れを踏まえると、今後はその使用量を抑制することが望まれている。そのため、動植物由来の原料を用いたバイオベース接着剤の開発が活発化している。
もともと、バイオベース接着剤は、合成樹脂接着剤が開発される以前に使用されており、接着剤の古書には様々な種類の接着剤が紹介されている2。しかし、合成樹脂接着剤が開発されると、バイオベース接着剤に比べて接着性能や生産性、経済性などに優れているため、大部分が合成樹脂接着剤に置き換えられ現在にいたっている。バイオベース接着剤は糖類系接着剤、タンパク系接着剤、芳香族系接着剤、オイル系接着剤などに大別される(図 3)。糖類系接着剤は、デンプンを原料として検討されることが多いが、最近では後述するようにスクロースといった低分子量の糖類を用いた研究も報告されている。タンパク系接着剤は、大豆タンパクを利用した研究が多く、膠やカゼインを利用した研究も行われている。芳香族系接着剤は、リグニンやタンニンを利用した研究が多い。リグニンを利用した研究は1950年代にはすでに行われており、タンニンについても古くから研究が行われてきた。これらは、その化学構造からフェノールの代替としてフェノール樹脂に用いられることが多く、現在ではリグニンフェノール樹脂接着剤が日本でも実用化している3。オイル系接着剤は、植物油とバイオオイルに大別される。植物油では、ひまし油をウレタン樹脂接着剤のポリオール原料として利用する研究が多く行われている。バイオオイルは、バイオマスの熱化学プロセスにより得られ、ホルムアルデヒド系接着剤の原料としての研究が多い。これらバイオベース接着剤の代表的な研究手法としては、①合成樹脂接着剤の原料の一部をバイオ由来物質に置き換える方法、②バイオ由来物質を主成分として、化学修飾や架橋剤によって接着剤化する方法、さらには①と②を組み合わせた方法がある。
この他、フェノールやホルムアルデヒドといった合成樹脂接着剤の原料をバイオナフサやバイオエタノールから調製する方法も開発されている4。この場合、出発物質が化石資源からバイオマスに置き換わっただけで、従来と同じ原料で同じ接着剤が得られるためメリットが大きく、新たなバイオベース接着剤として期待される。
クエン酸はライムやレモンなどの柑橘系植物に多く含まれ、工業的にはデンプンや糖を微生物で発酵させて生産されている生物由来物質である。一般には食品や洗剤などに使われ、よく知られた物質である。我々の研究室では、このクエン酸が木材などのリグノセルロースに対して接着剤として機能することを見出した5。現在までに、様々な研究者がクエン酸を接着剤として用い、木材、ソルガムバガス、竹、樹皮、ニッパヤシの葉、チガヤ、サトウキビバガスなどを原料として、パーティクルボードやファイバーボード、合板、成形体の製造を試みている6。一例として実験室でのパーティクルボードの製造方法を紹介すると、接着剤としてクエン酸水溶液を調製し、これをパーティクルに噴霧塗布する。一旦乾燥させたのち、パーティクルをマット状に形を整え、200℃程度のホットプレスで熱圧するとパーティクルボードが得られる(図 4)。木材とクエン酸との接着機構をNMRを用いて調べた結果、木材中のヒドロキシ基とクエン酸のカルボキシ基とがエステル結合していることを確認し7、被着材の木材と接着剤のクエン酸とが化学結合により接着していることを明らかにした。一般に、合成樹脂接着剤による木材接着では、被着材と接着剤との化学結合による接着はほとんど起こらないと考えられており、この点において新たな木材接着の可能性が期待されている。
このクエン酸接着において、その接着性能の向上を目的としてスクロースの添加を試みた。スクロースは砂糖の主成分であり、飲食物に含まれる安全性の高い物質である。クエン酸とスクロースの比率を変えてパーティクルボードを製造し、その物性を調べた結果、クエン酸とスクロースの比率が1:3で最も優れた接着性を示し、スクロースの寄与が大きいことが見出された。この接着機構を調べたところ、ホットプレスによる熱圧中にスクロースがクエン酸よってフラン化合物に変化するとともに、クエン酸のエステル結合との相乗効果によって高いボード物性が発現することを明らかにした8。また、クエン酸やスクロースといった生物由来物質による接着では、シロアリや腐朽菌に対する抵抗性が懸念されたため、クエン酸とスクロースを接着剤としたパーティクルボードの防蟻性能試験や防腐性能試験を実施した。その結果、合成樹脂接着剤を使ったパーティクルボードとほぼ同等の性能を示すことを明らかにした9。
クエン酸とスクロースによる接着機構を踏まえると、スクロースを酸触媒下で加熱すれば熱変性によって硬化し、接着性が発現すると考えられる。そこで、基礎的研究としてスクロースにリン酸二水素アンモニウム(ADP)を添加し、加熱することでスクロースの物理的、化学的変化を調べた10。ADPの添加量や加熱温度、加熱時間を変えて検討したところ、ADPを10wt%添加し180℃で10分加熱すると、スクロースはフラン化合物に変性し、沸騰水に対して不溶性を示すことを明らかにした。そこで、スクロースとADPの混合水溶液を接着剤としてパーティクルボード(図 5)の製造を試みた11。固形分塗布量を20wt%、プレス時間を10分とし、スクロースとADPの比率やプレス温度を変えて目標密度0.8g/cm3のボードを作成し、物性を調べた。その結果、スクロースとADPの比率を85:15とし、プレス温度を200℃として製造したボードが優れた物性を示し、スクロースを接着剤として利用できることを見出した。
次に、この接着剤による合板の製造について検討した。パーティクルボードの製造では、接着剤をパーティクルに噴霧塗布する必要があるため、接着剤粘度を低く抑える必要がある。一方、合板の製造では単板に塗布するため、染み込みを防ぎ接着層を形成する必要があり、ある程度の粘度が求められる。そこで、あらかじめスクロースとADPの混合水溶液を所定の温度と時間で加熱し、プレポリマー化することで粘度を高め、それを接着剤として合板を製造した12。その結果、スクロースとADPの比率90:10とし、90℃で3時間加熱して得られたものを接着剤として、熱圧条件170℃、7分で製造すると最も優れた常態強度と耐水性を示した。接着剤の化学構造を調べたところ、フラン、ピラン、ケトンの存在が確認され、ADPによるスクロースの加水分解と変性が認められた。
スクロースの接着発現機構を考えると、被着材となる原料中にスクロースやグルコース、フクルトースといった糖類が多く含まれる場合、それらを接着剤成分として木質材料が製造できる可能性がある。そこで我々は、アブラヤシの樹幹に着目した(図 6)。アブラヤシはパームオイルを得るために東南アジアを中心に広大なプランテーションが行われている。このアブラヤシは25年ほどで伐採更新を行う必要があり、その際に大量の樹幹が排出されるが、ほとんど利用されていないのが現状である。アブラヤシの樹幹は、糖などの抽出成分を含む柔細胞と呼ばれる部分が多く含まれ、木材に比べると密度が低く強度性能に劣る。特に、樹幹の内側部分は柔細胞の割合が高いため、材としての利用価値は極めて低いとされている13。そこで、あえて柔細胞を多く含む樹幹の内側部分を原料として、接着剤を使わずにパーティクルボードの製造を試みた。すなわち、原料パーティクルにADP水溶液を噴霧塗布し、一旦乾燥後に180℃、10分間のプレス条件で目標密度0.8g/cm3のパーティクルボードを製造した。その結果、ADPの添加率を10wt%とした場合、ボードの曲げ性能やはく離強度、寸法安定性が最も優れ、特に寸法安定性については著しく高くなることを見出した。この原因を検討したところ、原料中の水溶性の糖成分がADP存在下の加熱によって熱水不溶性のフラン化合物に変化して接着性が発現したと考えられた14,15。そこで、ボード性能の向上を目指し、ADPとともにスクロースを添加してパーティクルボードを製造したところ16、ADPのみのボードに比べて曲げ性能は1.7倍以上、はく離強度は3倍以上の向上が認められ、スクロースの添加がボード物性の向上に効果的であることを明らかにした。さらに、このパーティクルボードの防蟻性能試験や防腐性能試験を行ったところ、合成樹脂接着剤を用いた場合と同等の結果が得られ、シロアリや腐朽菌に対する抵抗性も良好であることを明らかにした。
木質材料の製造に必須の接着技術について、木質材料や木材用接着剤について概説するとともに、スクロースを利用したバイオベース接着剤の開発や、被着材中の糖成分を接着剤成分として活かした新たな接着技術について紹介した。脱炭素やカーボンニュートラルといった言葉があふれるなか、木材などのリグノセルロースは将来的に極めて重要な資源である。これを効率的かつ持続的に使うためにはカスケード利用が望ましく、植えて使うという資源循環も求められる。その中で、木質材料としての利用は、使用期間が長いために有効であるものの、接着技術については将来を見据えた新たな方法が求められている。我々は、今回紹介した技術の他にも糖アルコールに着目した新たな研究も進めており17、化石資源にできる限り依存しない接着技術を模索している。木質材料を真の持続可能な材料とするために今後も研究を発展させたい。