Apr 01, 2025

希少糖D-alloseの抗癌メカニズムと癌治療への応用に向けて
(Glycoforum. 2025 Vol.28 (2), A6)
DOI: https://doi.org/10.32285/glycoforum.28A6J

阿部 陽平 / 田岡 利宜也 / アクラム・ホセイン / 張 霞 / 杉元 幹史

阿部 陽平

氏名:阿部 陽平
香川大学医学部泌尿器・副腎・腎移植外科 病院助教
2012年香川大学医学部を卒業。主要関連病院にて主に泌尿器癌、腎移植を中心とした臨床研修後、2023年より香川大学大学院医学系研究科博士課程に入学、2024年4月より現職。

田岡 利宜也

氏名:田岡 利宜也
香川大学医学部泌尿器・副腎・腎移植外科 病院准教授
2001年と2005年に香川医科大学、および香川大学大学院医学系研究科博士課程を卒業し、医師免許と共に、炎症メカニズムの研究成果で医学博士を取得。2013-2015年米国テキサス大学MDアンダーソン癌センターの客員助教授を務め、癌幹細胞の研究に従事。現在、希少糖の抗癌効果に着目し、その臨床導入に向けた研究開発に従事。2023年4月より現職。

アクラム・ホセイン

氏名:アクラム・ホセイン
香川大学医学部泌尿器科、研究者
香川大学医学部の研究者であるアクラム・ホセインは、1983 年にバングラデシュのミメンシン医科大学で MBBS を取得し、博士号を取得しました。1995年に香川医科大学で博士号を取得。1997年から2002年まで消化器外科の助教授(研究)を務め、希少糖の研究を開始した。2003 年に公益財団法人かがわ産業支援財団から希少糖の生理機能と安全性を研究する博士研究員の資格を取得し、2008 年に細胞生理学部門の産学官から博士研究員の資格を取得し、この研究を継続しました。2018年以来、彼は薬理学、そして現在は泌尿器科で働いており、臨床使用のための腎がんに対するD-アロースの効果に焦点を当てています。

張 霞

氏名:張 霞
香川大学医学部泌尿器科 助教
1張霞(Xia Zhang)は、日本の香川大学医学部泌尿器科の助教です。彼女は1989年に中国の錦州医科大学を卒業し、医学博士号を取得しました。2003年には香川大学医学系研究科で博士号を取得しました。2004年から2006年にかけて、レアシュガー(希少糖)を対象とした特定研究員として研究を行いました。2007年以降は、香川大学医学部泌尿器科の助教を務めています。現在、希少糖の抗がん作用を解明し、それを臨床応用に結びつける研究に取り組んでいます。

杉元 幹史

氏名:杉元 幹史
香川大学医学部泌尿器科学 教授
1988年と1992年に香川医科大学、および同大学大学院医学系研究科博士課程を卒業し、医師免許と共に、医学博士を取得。現在、多くの国際的な学会にて、前立腺癌分野で重要な役割を演じているほか、希少糖の抗癌効果に着目し、その臨床導入に向けた研究開発に従事。2018年7月より現職。

序文

癌の罹患率・死亡率は近年、急速に増加している。従来の治療法(手術、放射線療法、化学療法や免疫療法)は進化しているが、その有害事象や治療効果の限界などの問題が残る。一方、肥満や2型糖尿病などの代謝異常と発癌リスクとの関連が報告され、高血糖や高インスリン血症が癌の進展に関与することも示唆されている。これらを背景として、代謝制御を介した新たな治療アプローチに注目が集まっている。希少糖は「自然界での存在量が少ない単糖およびその誘導体」と定義され、その一種であるD-alloseは低グリセミック特性や酸化ストレス調節作用を有する。それら生理活性を介して、D-alloseは細胞増殖を抑制し、放射線や化学療法薬との相乗効果を発揮する可能性が示されている。本稿ではD-alloseの抗癌作用に注目し、その分子機序、治療的利点や将来的展望について概説する。

1. 序論

癌の罹患率・死亡率は近年、急速に増加している。2020年度、癌死亡数は世界で約1,000万人に達し、今後の増加も見込まれる1。肥満や2型糖尿病などの代謝異常と発癌リスクとの関連が報告され、高血糖や高インスリン血症が癌の進展に関与することも示唆されている2,3。これらを背景として、高Glycemic Index (GI)食の抑制、そして代謝制御を介した新たな治療アプローチに注目が集まっている4

希少糖は「自然界での存在量が少ない単糖およびその誘導体」と定義され、その一種であるD-alloseはD-glucoseのC-3エピマーで、D-glucoseの約80%の甘味を持ちながら、そのエネルギー量は0.3%と報告されている5。加えて、D-alloseの代謝毒性は低く、その安全性の高さが示されている6。さらに、D-alloseは解糖系阻害、酸化ストレスの誘導、免疫応答への修飾など多面的な生理活性を介して、様々な癌種の増殖・進展抑制効果を示す可能性も報告されている7-9。本稿では、D-alloseのD-glucoseと異なる特異な生理活性、その抗癌効果や既存治療との相乗効果を、今後の展望も交えて総合的に述べる。

2. D-alloseの生理活性

希少糖を分子構造で分類し、ある糖から別の糖にするための酵素反応の経路を図示化した「イズモリング」は、希少糖の大量生産を可能とした10。その一種であるD-alloseの特徴は低GI特性と安全性にある。ラットやヒト対象の試験にて、経口投与されたD-alloseは、その大半が尿中に排泄され、蓄積性や毒性に問題が無いことも証明されている6。加えて、D-alloseは解糖系阻害、酸化ストレスの誘導や免疫応答への修飾など多面的な生理活性を有する9,11,12。これらの特性は、癌治療への応用において有望な基盤となる。

3. D-alloseの抗癌メカニズム

D-alloseの抗癌メカニズムは多面的である(Figure)。主な作用機序として、1)解糖系阻害によるエネルギー利用阻害、2)活性酸素種(Reactive Oxygen Species, ROS)生成促進による酸化ストレスの増強、3)シグナル伝達経路(AMPK/mTOR、p53など)の調節、4)放射線の増感効果、5)オートファジーおよび免疫応答への修飾が挙げられる7–9,13–15。これらの作用により、D-alloseは様々な癌種(肝細胞癌、頭頸部癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、肺癌、白血病など)で腫瘍細胞増殖抑制、アポトーシス誘導、転移抑制や既存治療との併用効果が報告されている7,8,13,16

図1
Figure

4. 解糖系阻害による腫瘍抑制

多くの癌細胞はワールブルク効果として知られる代謝特性により、好気条件下でも解糖に依存して急速な増殖を維持する17,18。D-alloseはこの解糖経路を選択的に阻害し、ATP産生を低下させ、エネルギー欠乏を誘発する。これにより、癌細胞は増殖に必要なエネルギーを確保できず、最終的にアポトーシスが誘導される7,19。一方、正常細胞は解糖系阻害に対して他の代替エネルギー経路を利用可能である。そのため、D-alloseは癌細胞を選択的に標的化でき、有害事象を最小限に抑えつつ、腫瘍細胞の増殖を抑制し得る。

5. 酸化ストレス誘導とミトコンドリア機能障害

D-alloseはROS生成を促進し、癌細胞内の酸化還元バランスを破綻させる8,13。過剰なROSの蓄積は、DNA損傷、タンパク質変性や膜脂質過酸化を引き起こし、アポトーシスを促進する。また、D-alloseはミトコンドリア機能に影響を与え、エネルギー代謝の破綻を介して細胞死を加速させる。一方、放射線治療との併用では、D-alloseが腫瘍抑制因子TXNIPの発現亢進やROS増強を介して、放射線感受性を高め、放射線治療の効果を促進するとの報告がある8。さらに化学療法薬(ドセタキセルなど)との併用でも抗腫瘍効果が増強される可能性が示されている20。一般に、放射線治療や化学療法は腫瘍制御に有効だが、正常細胞への障害が問題となる。この併用効果は、放射線の低線量、あるいは化学療法の低用量下においても治療効果を維持・向上させ、正常組織へのダメージ軽減にも寄与する可能性があり、既存治療の限界を克服するD-alloseの潜在力に注目が集まっている。

6. オートファジーおよび代謝ストレスとの関連

オートファジーは、細胞内成分を分解・再利用するプロセスであり、癌細胞がストレス下で生存するために活性化される21,22。D-alloseはこのオートファジー経路を調節し、癌細胞における生存メカニズムを妨害する作用が示唆されている。オートファジー阻害剤との併用により、D-alloseの抗癌効果がさらに高まる可能性がある16

7. 免疫応答への影響

腫瘍微小環境において、D-alloseは免疫細胞の代謝状態に影響を及ぼす23,24。具体的には、D-alloseが形質細胞様樹状細胞や従来型樹状細胞のサイトカイン産生や抗原提示機能に影響を及ぼし、免疫応答の調節に寄与する可能性が報告されている25。これらは癌免疫療法との併用戦略への応用の糸口となる。

8. 癌治療におけるD-alloseの課題と将来展望

D-alloseは、低毒性、かつ多面的な抗癌メカニズムを有する有望な希少糖である。これまでに様々な癌種に対して、その抗癌効果が報告されている。しかし、その作用機序は未解明な部分が多く、癌細胞に対する最適な送達法や投与量、既存薬との併用を見据えた治療戦略など多くの課題が残る。また、非臨床試験や臨床試験を通じて安全性・有効性の確立が不可欠である。今後は、代謝経路解析やオミクス解析、免疫学的評価など統合的研究アプローチを通じて、D-alloseの抗癌メカニズムをさらに明らかにし、新規治療法開発への道を拓くことが期待される。

謝辞

本稿作成にあたり関係者に感謝する。


References

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