Feb. 03, 2020

肝臓と糖鎖【第6回】

肝臓の線維化と糖鎖バイオマーカー
(Glycoforum. 2020 Vol.23 (1), A1)
DOI: https://doi.org/10.32285/glycoforum.23A1J

鎌田 佳宏 / 三善 英知

鎌田 佳宏

氏名:鎌田 佳宏(かまだよしひろ)
現職:大阪大学大学院医学系研究科 機能診断科学講座 准教授
学位:医学博士
1995年大阪大学医学部卒。内科全般、なかでも消化器内科を中心とした臨床研修後、1999年より大阪大学分子制御内科学(松澤佑次教授)、2005年より消化器内科(林紀夫教授、竹原徹郎教授)で肝疾患の基礎的・臨床的研究に従事。2011年より機能診断科学(三善英知教授)で、糖鎖の手法を取り入れた研究を始め、現在に至る。

三善 英知

氏名:三善 英知(みよしえいじ)
現職:大阪大学大学院医学系研究科 機能診断科学講座 教授
学位:医学博士
略歴:1986年大阪大学医学部を卒業。消化器内科(肝臓)を中心とした臨床研修後、大学院から糖鎖の研究を始める。2007年6月から現職。2014-5年医学部保健学科長。2015年〜保健学専攻ボーダレスデザイン医学研究センター長
研究テーマと抱負:糖鎖の病態生化学に関する研究で、多くの基礎・臨床の教室と共同研究を続けている。糖鎖研究の力で、難治性消化器疾患の治療法を開発することが大きな夢である。

正常のヒト肝臓は、肝細胞の配列によって肝小葉構造をとり、中心静脈を中心に六角柱状の構造をとる(図1A)。肝小葉の間には小葉間結合組織が存在し、肝臓の線維化とはこの領域が拡大すること、肝臓の障害によって肝細胞が死滅し線維組織に置き換わることを意味する(図1B)。病理学的には、肝臓の線維化はF0からF4の5段階に分類され(Fはfibrosisの意味)、F4は正常の小葉構造が完全に破壊され、偽小葉が形成された状態を意味する1。肝障害の末期にあたるF4の病態が、イントロダクションで紹介した肝硬変にあたる。肝臓の線維化がF4まで進行していても、比較的肝臓の機能が保たれた状態を代償性の肝硬変と言う。これに対して、腹水や肝性脳症などの臨床症状を伴う病態を非代償性肝硬変と言う。肝硬変の病態に関しては、生化学的検査と臨床症状を加味したChild分類が有名で、AからCまでの3段階に分類される。

図1A
図 1 A. 肝小葉構造
図1B
図 1 B. 肝線維化進展模式図

一般的に線維化は、炎症に続く生体反応として、理解される2。正常の肝臓に、いきなり線維化が起こることは、まず考えにくい。通常は肝炎ウイルスなどによって肝細胞が障害を受けると様々な免疫細胞が肝臓のグリソン梢に浸潤し、様々な免疫反応起こす。このとき、肝類洞に存在するクッパー細胞(肝臓に存在するマクロファージ)と肝星細胞が活性化する。肝星細胞(Hepatic Stellate Cell)は、伊東細胞とも呼ばれ、ビタミンAを貯蔵する細胞としても知られている。正常の肝臓では、肝星細胞は静止期にあるが、炎症に伴う刺激によってTransforming growth factor β(TGFβ)という、線維化に最も関連が深い増殖因子を分泌する。さらに、TGFβによって肝星細胞の活性化が進むというpositive feedbackな反応がおこる。TGFβの作用によって肝細胞からコラーゲンの産生が誘導され、線維化組織が形成される。実際には、線維化反応を抑制するプロテアーゼが産生され、TGFβの作用とのバランスによって線維化が進展するのか、あまり進展しないのか決定される。

TGFβを肝臓の線維化バイオマーカーとして利用できればいいのであるが、一般的にサイトカインや増殖因子は半減期も短く、測定系そのものも安定していない。このため臨床的に用いられている肝臓の線維化マーカーとしては、ヒアルロン酸、タイプIVコラーゲン7S、血小板数、Fib4 indexなどが用いられる。肝臓の線維化に伴って門脈圧が亢進すると脾臓が腫大し、そこで血小板の破壊が亢進する。また肝硬変に伴い、機能低下した肝細胞からのトロンボポエチン産生低下が起こることもあいまってさらに血小板数が減少する。血小板数低下は肝臓線維化の進展程度を反映する簡易なバイオマーカーである。Fib4 indexは、C型慢性肝炎患者を対象とした臨床研究により、Sterlingらによって提唱された年齢、血小板数、AST、ALTの組み合わせから、簡単な計算式で求められる慢性肝疾患肝線維化進展予測のスコアリングシステムである3。その簡便さから、日常臨床の場で用いられることが多い。近年増加の一途をたどっている非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者ではFib4 indexのカットオフ値が少し違う4。その他有用性の高い肝線維化予測スコアリングシステムとしてELF score5、AST/ALT比(AAR)6、AST/血小板比(APRI)7が臨床でよく用いられている(表1)。血液マーカーだけでなく実際の臨床の場では、腹部エコー検査やMRI検査と併用して評価されることが多く、最近は超音波検査やMRI検査のエラストグラフィーも一部保険収載され、用いられるようになっている8, 9

表 1. 有用性の高い慢性肝疾患肝線維化予測スコアリングシステム 表1

肝臓の線維化糖鎖マーカーとして、近年日本で開発され、臨床応用されているのがMac2-binding protein glycosylation isomer (M2BPGi)である。M2BPGiは産業総合研究所の成松久教授によって発見された糖鎖バイオマーカーで、シスメックスのHISCL(high-sensitivity chemiluminescence enzyme immunoassay)を使ったハイスループットなAssay系で臨床検査として保険収載された。M2BPGiは、平成18-23年度に行われたNEDO:糖鎖機能活用技術開発プロジェクトの中から生まれたものである。培養細胞株からがん糖鎖バイオマーカーを探索する中で、Mac2-binding proteinがグライコプロテオミクスの手法によって同定されWFA(Wisteria floribunda agglutinin)という他の血清タンパクと反応しにくい(ノイズが少ない)レクチンとのレクチンー抗体ELISAを測定原理としている10。特にC型慢性肝炎では、F1-F4と肝線維化が進行すると段階的にM2BPGiが上昇し、特にF4で数値が高くなる。非常に面白いことに、同じF4の肝硬変であってもM2BPGi値が高い症例では、肝臓がんの発症率が高い11図2)。近年開発されて、C型肝炎ウイルス(HCV)に対する経口薬(DAA; direct-acting antivirals)によってHCVが消失すると、急速にM2BPGiも低下することから、肝線維化バイオマーカーではないという意見もあるが、肝臓の線維化に関連した免疫反応を反映したマーカーと理解している。M2BPGiの弱点としては、C型慢性肝炎以外の慢性肝炎では数値が大きく異なることである12-15

図2
図 2. C型慢性肝炎の肝発がんと血中M2BPGi値
A M2BPGi値別の累計肝がん発生率(C型肝炎患者全体)
B M2BPGi値別の累計肝癌発生率(肝硬変症例のみ)

例えば非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の場合、糖鎖の違いを見るのではなく、Mac-2 binding protein(Mac-2bp)タンパクそのものを測定した方が、NAFLDからNASHを早期に拾い上げるのには適している16。510名の肝生検を行ったNAFLD患者の血清Mac-2bp値は、非常によく肝臓の線維化を反映している(図317。また驚いたことに人間ドックを受診した脂肪肝をもつヒトの25%がNASHのF3相当であった。ただ図2の検討では、F4の症例が少ないので、F4症例を増やした場合はM2BPGiの方が適しているという結果になるかもしれない。

図3
図 3. NAFLD患者の血中Mac-2 binding protein値

NEDOプロジェクトのがんバイオマーカー開発研究の中で、肝臓の線維化マーカーが見つかった理由としては、線維化は1.5kgの肝臓全体に起こった病態であるためと考えられる。またMac-2bpとM2BPGiで、どちらが優れたバイオマーカーであるのか、客観的に評価すべきである。Mac-2bpは、慢性肝疾患の肝細胞で強染色される。血中M2BPGiを産生する細胞は、本当に肝星細胞だけなのか18、今後検討していく必要がある。WFAはLacdinacという構造を認識すると言われているが19、本当にM2BPGiはこの糖鎖構造をもつMac-2bpだけを捉えているのか、血中での複合体形成こそがレクチンの認識に重要ではないかも明らかにしなければならない。


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