氏名:Jorge Filmus
Sunnybrook and Women's College Health Sciences Centre, University of Toronto
肝癌は世界中で最もよく見られる癌の一つで、年間50万人以上の人が肝癌のため死亡する。PEIT(経皮的エタノール注入)、RF(ラジオ凝集波)などの新しい効果的な治療法が開発されたとは言え、世界的には外科手術が肝癌の治療の主流である。しかし、10-20%の患者しか、診断がついた時に手術適応がない。それゆえ、肝癌の早期診断が、この癌の予後を改善する重要な目標であり、慢性B型もしくはC型肝炎のような肝癌発症のリスクの高い患者がスクリーニングの対象となる。実際、多くの画像検査が肝癌の診断に用いられている。これらの中には、超音波検査、CT検査、MR検査などが含まれる。しかしながら、これらの検査を駆使しても、肝癌と良性の過形成結節や肝硬変の大結節のような良性病変を完全には鑑別できない。こうした画像検査の進歩にも関わらず、肝癌の早期発見には適当なバイオマーカーが必要である。
血清のαフェト蛋白(AFP)やPIVKA IIは、肝癌の診断に広く用いられている唯一の分子マーカーである。しかし、肝癌が小さな場合は、これらのマーカーはあまり感度が高くない。血清AFP量は、良性の肝臓疾患でも有意に増加する。それゆえ、新しい肝癌の生化学的なマーカーを見つける事は、世界中の多くの研究室の重要な目標である。肝癌は均一な病変ではないので、すべての肝癌が産生する単一の分子マーカーは発見できないだろうと考えられている。そしてより多くのマーカーを組み合わせることが、効率的に肝癌を発見するより良いアプローチと考えられる。
最近、我々の研究室では、グリピカン3 (GPC3)が、肝癌の血清および組織学的マーカーになると報告した1。GPC3のモノクローナル抗体で肝癌組織の免疫染色を行うと、このタンパクは肝癌の72%に陽性像を示すのに対して、正常の肝臓や良性の肝疾患では染色されないことを発見した(図 1 参照)。もっと重要なことには、我々の作成したELISA系を用いて測定すると、GPC3は健常人や肝炎患者の血清中には検出されないが、53%の肝癌患者で血中GPC3が有意に増加していた。それに加えて、肝癌のない肝硬変患者のわずか5%しか、血中GPC3の上昇を認めなかった。興味深い事には、多くの症例においてGPC3とAFPの量は相関がなく、82%の肝癌患者で2つのマーカーのうちの少なくとも1つが上昇していた。このことは、AFPとGPC3を同時に測定することで、AFP単独で測定する事に較べて、有意に肝癌の発見率が上昇するであろうということを示唆する。肝癌のマーカーとしてのGPC3の役割は、最近他の2つのグループによっても確認されている2,3。さらに、これらの検討においても、AFPとGPC3のレベルに重なりがないことを確認している。
図 1 GPC3抗体で染色した肝癌組織
がんの結節だけが陽性像を示す。周囲の非がん細胞は陰性である。