Sep. 15, 2000

リソソーム病(2000 Vol.04, A9)

桜庭 均

氏名:桜庭 均
東京都臨床医学総合研究所・臨床遺伝学研究部門

細胞内小器官のひとつであるリソソームには、数多くのリソソーム酵素が存在し、複合糖質や脂質などの細胞内基質を分解する役割を担っている。これらのリソソーム酵素やその活性化因子および安定化蛋白質の遺伝的異常により、当該酵素に対応する基質がリソソーム内に蓄積して起こるのが「リソソーム病」である。リソソーム病は、障害を受ける酵素や代謝経路により分類されるが、30種類以上のものが知られている。これらを表1-4に示した。現在、リソソーム病に関連する原因遺伝子のほとんどが同定されている。

1. リソソーム酵素蛋白質に異常を来たす疾患

多くのリソソーム酵素は、その基質の末端残基を段階的に切断する加水分解酵素である。これらの酵素活性の低下により、スフィンゴ脂質、コレステリルエステルおよびトリグリセリド、グリコーゲン、糖蛋白質やムコ多糖などの代謝異常が発生する。これらの疾患に関して、表1にまとめた。

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1) スフィンゴリピドーシス
スフィンゴ脂質の分解代謝に関係するリソソーム酵素の特異的障害によりスフィンゴリピドーシスが発生する。
GM1ガングリオシドーシスは、β-ガラクトシダーゼの活性低下によって起こる常染色体劣性遺伝病である。その典型例では、GM1ガングリオシドやその関連糖脂質および糖蛋白質が進行性に蓄積し、精神運動発達遅延、顔貌異常、骨異常、肝脾腫などの全身症状を示す。
GM2ガングリオシドーシスでは、特に神経細胞中にGM2ガングリオシドの蓄積を生じる。GM2ガングリオシドは、αとβのサブユニットから構成される酵素β-ヘキソサミニダーゼAによって分解を受ける。この酵素の構成成分であるα-サブユニットの異常によって当該酵素活性が失われて起こる疾患がGM2ガングリオシドーシスB異型(Tay-Sachs病)である。この疾患の発生頻度は、アシュケナージ系のユダヤ人に多いことが知られている。一方、β-サブユニットの異常により、β-ヘキソサミニダーゼAとBとが同時に活性低下を来たす(β-ヘキソサミニダーゼBはβ-サブユニットのホモ2量体として存在する)のが、GM2ガングリオシドーシスO異型(Sandhoff病)である。両疾患とも、患者は進行性の精神運動障害や眼底黄斑部のチェリーレッド斑などの症状が出現する。どちらも遺伝型式は、常染色体劣性である。
Fabry病は、α-ガラクトシダーゼの活性低下を伴うX染色体性の遺伝病である。本症では、特に自律神経系、腎および心血管系にグロボトリアオシルセラミドが蓄積する。古典型の男性ヘミ接合体は、四肢末端痛、被角血管腫、腎不全や心血管障害などの症状を伴う。
異染性白質ジストロフィーは、アリルスルファターゼA欠損により起こる常染色体劣性遺伝病である。本酵素はセレブロシド-3-硫酸(スルファチド)を基質とし、その活性低下に伴い、脳白質や末梢神経にスルファチドが蓄積する。本症の古典型患者においては、進行性の神経変性症状が出現する。
Krabbe病(グロボイド細胞白質ジストロフィー)は常染色体劣性の遺伝型式をとる遺伝性神経変性疾患である。本症では、ガラクトシルセラミダーゼ(ガラクトセレブロシダーゼ)の活性低下によりガラクトセレブロシドが蓄積する。本症では、脳内に多くの多核のグロボイド細胞が存在する病理学的特徴があるが、これは消化し切れないガラクトセレブロシドを含むマクロファージに由来する。本症では、当該酵素の基質のひとつであるサイコシンの蓄積がオリゴデンドログリアの変性を惹起すると考えられている。
Gaucher病では、グルコシルセラミダーゼ(グルコセレブロシダーゼ)の活性低下によりグルコセレブロシドの蓄積が起こる。本疾患は、臨床的に3種類の型に分類される。すなわち、慢性非神経型の1型、急性神経型の2型および亜急性神経型の3型である。通常、すべての臨床型で肝脾腫がみられる。Gaucher病第1型は、ユダヤ人の間で発生頻度が高いことが知られている。近年、本症に対する酵素補充療法が開発されている。
Niemann-Pick病のA型とB型は、酸性スフィンゴミエリナーゼの活性低下により生じる。前者は、急速に進行する神経障害と肝脾腫を伴う早期発症の重症型である。一方、後者は、臨床表現型としては、多様性を持つ疾患であるが、多くの患者は肝脾腫を伴い、乳児期又は幼少年期に診断される。
Farber病は、酸性セラミダーゼ欠損を伴う常染色体劣性遺伝病である。主な臨床症状として関節の痛みや変形、嗄声および皮下結節が上げられる。

2) コレステリルエステルおよびトリグリセリド蓄積症
酸性リパーゼの活性低下は、コレステリルエステルとトリグリセリドの蓄積を惹起する。遺伝性の酸性リパーゼ欠損症には、臨床的に異なる2種類の疾患であるWolman病とコレステリルエステル蓄積症が含まれる。前者では、肝脾腫、脂肪便や副腎石灰化などの症状が出現する。後者は、それよりも緩徐で軽い臨床経過をとる。

3) 糖原病II型
糖原病II型 (Pompe病) は、酸性α-グルコシダーゼ(酸性マルターゼ)の活性低下による常染色体劣性遺伝病で、リソソーム内でのグリコーゲン分解が障害される。古典型の患者は、乳児期に発症し、心拡大、巨舌や筋力低下などを特徴とする重症の臨床経過をとる。その他に、晩期発症で緩やかに進行し、骨格筋の症状を伴うタイプが存在する。

4) 糖蛋白質蓄積症
糖蛋白質やオリゴ糖の分解代謝に関係するリソソーム酵素の活性低下が起こると、糖蛋白質の蓄積症を来たす。
フコシドーシスは、α-フコシダーゼの活性低下によって起こる常染色体劣性遺伝病である。本疾患には、臨床的に2種類の型が存在する。すなわち、重症な乳児型とそれよりも軽症な型である。本症の臨床症状には神経障害、粗な顔貌や多発性骨異常が含まれる。
α-マンノシドーシスは、α-マンノシダーゼ欠損によって起こる常染色体劣性遺伝病である。本症の患者においては、通常、知能障害、肝脾腫や多発性骨異常を含む神経身体症状を伴う。
β-マンノシドーシスは、遺伝性β-マンノシダーゼ欠損症である。本症の患者の多くは、精神発達の遅れや顔貌異常を伴う。
リソソーム性ノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)の原発性異常により、常染色体劣性遺伝病である、シアリドーシスが発生する。本症は、臨床的に2つのグループに分けられる。即ち、眼底のチェリーレッド斑とミオクローヌスを伴う第1型と、これらの症状の他に、顔貌や骨異常の存在を特徴とする第2型である。
アスパルチルグルコサミン尿症は、アルパルチルグルコサミニダーゼ欠損により生じる常染色体劣性遺伝病である。この酵素は、オリゴ糖や糖蛋白質のN-アセチルグルコサミンおよびアスパラギン間の結合を切断する働きを持つ。本酵素の活性低下により、当該領域が分解されないオリゴ糖や糖蛋白質がリソソームに蓄積することになり、患者は、易感染や精神発達遅延、粗な顔貌および骨異常などの症状を示す。本症の発生頻度は、フィンランド人の間で高いことが知られている。
Schindler病と神崎病はα-N-アセチルガラクトサミニダーゼの活性低下によって起こる常染色体劣性遺伝病である。本症は、臨床的に多様である。Schindler病は、重度の精神運動発達遅延、視力障害、ミオクローヌス発作など乳児型神経軸索ジストロフィーの症状と類似の臨床症状を呈する。一方、神崎病は、成人期の発症で全身の被角血管腫や軽度の知能障害を含む比較的軽い臨床症状を示す。

5) ムコ多糖症
ムコ多糖症は、グリコサミノグリカンの分解代謝に関係するリソソーム酵素の活性低下によって起こる一連の遺伝病の総称である。障害される酵素の種類に応じて、特異的なグリコサミノグリカンが組織中に蓄積し、尿中に分泌される(表1)。ムコ多糖症の臨床症状は多様であるが、多くの患者は、粗な顔貌、多発性骨異常や内臓腫大を伴う。また、聴力低下、視力障害、心血管障害や精神発達の遅れを伴う場合がある。

2. リソソーム酵素のリン酸化と輸送の異常を伴う疾患

リソソームのマトリックス酵素は、マンノース6-リン酸受容体を介して、ゴルジ装置からエンドソーム/リソソームへと輸送される。UDP-N-アセチルグルコサミン:リソソーム酵素N-アセチルグルコサミン-1-リン酸転移酵素は、リソソーム酵素上のマンノース6-リン酸認識マーカーの合成における第1段階に関係する酵素である。本酵素の異常により、I-細胞病(ムコリピドーシスII)と偽Hurlerポリジストロフィー(ムコリピドーシスIII)が生じる。表2にまとめた様に、前者は、早期発症で重度の精神運動発達遅延、粗な顔貌や多発性骨異常を伴い、後者は、より遅い発症の軽症タイプである。両者とも、間葉系由来の細胞で、リソソームのマトリックス酵素の輸送が障害される。

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3. スフィンゴ脂質活性化蛋白質の異常による疾患

スフィンゴ脂質のリソソームでの分解には、非酵素の糖蛋白質が必要であり、これらは、スフィンゴ脂質活性化蛋白質と呼ばれる。スフィンゴ脂質活性化蛋白質をコードする遺伝子として、2種類のものが知られている。そのうちのひとつは、一連の活性化蛋白質サポシンの前駆体であるプロサポシンをコードする。プロサポシンは、翻訳後の修飾により、4種類の蛋白質サポシンA-Dにプロセスされる。他のひとつの遺伝子はGM2活性化蛋白質をコードする。現在までに、4種類のスフィンゴ脂質活性化蛋白質欠損症が報告されている。これらの疾患とそれに関連する活性化蛋白質の機能について、表3にまとめた。プロサポシンの異常により、サポシンの複合欠損が生じる。この疾患は極めて稀で、報告された第1例では、Gaucher病2型の症状に類似した臨床所見を示した。サポシンB(SAP-1とも呼ばれる)の欠損症では、異染性白質ジストロフィーに似た臨床所見を示す。サポシンC(SAP-2とも呼ばれる)の欠損症の患者は、Gaucher病3型に似た臨床像を呈する。β-ヘキソサミニダーゼAによる生体内でのGM2ガングリオシドの分解にはGM2活性化蛋白質を必要とする。このGM2活性化蛋白質の遺伝子異常は、神経系へのGM2ガングリオシドの蓄積を惹起する。GGM2活性化蛋白質欠損症は、GM2ガングリオシドーシスAB異型と呼ばれ、その臨床像はGGM2ガングリオシドーシスB異型およびO異型のそれに酷似する。

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4. 保護蛋白質/カテプシンAの異常による疾患

保護蛋白質/カテプシンAは多機能性の糖蛋白質である。保護蛋白質/カテプシンAは、リソソーム内でリソソーム性ノイラミニダーゼやβ-ガラクトシダーゼと高分子複合体を形成し、前者を活性化して後者を安定化する機能を持つ(保護機能)。また、この蛋白質は、同時に酸性カルボキシペプチダーゼや中性エステラーゼ/デアミダーゼとして機能する(カテプシンAとしての酵素機能)。保護蛋白質/カテプシンAの異常により、常染色体劣性遺伝病ガラクトシアリドーシスが発生する。本症では、カテプシンA活性低下だけでなく、二次的なリソソーム性ノイラミニダーゼおよびβ-ガラクトシダーゼ活性の低下が起こる。多くの患者は、10-15歳頃に視力低下で発症し、小脳失調、ミオクローヌス、眼底黄斑部のチェリーレッド斑、骨異常や被角血管腫などの症状が現れる。重症例は、乳児期に発症し、胎児水腫、浮腫、腎障害、内臓腫大および粗な顔貌を呈する。乳児晩期発症のタイプでは、内臓腫大、多発性骨異常および心障害を呈する。

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5. その他のリソソーム病

Niemann-Pick病C型は、外来性コレステロールの細胞内輸送障害を伴う常染色体劣性遺伝病である。本症患者の肝臓や脾臓には、非エステル化コレステロール、スフィンゴミエリン、リン脂質や糖脂質の蓄積が見られる(表5)。本症における臨床像は多様であるが、多くの患者で、垂直性核上性眼球運動障害、失調、ジストニアや知能障害などの進行性神経障害がみられる。
多発性スルファターゼ欠損症は、アリルスルファターゼA, BおよびCの同時活性低下を伴う稀な遺伝病である(表5)。本症の患者は、晩期乳児型異染性白質ジストロフィーとムコ多糖症とを合わせた様な臨床像を呈する。

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References

  1. The metabolic and molecular bases of inherited disease, 7th edn., Scriver CR, Beaudet AL, Sly WS, Valle D(eds), 1995, McGraw-Hill, New York
  2. Gieselman V : Lysosomal storage disease. Biochim Biophys Acta 1270,103-136, 1995
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