山田 修平
学部学生のときに、菅原一幸先生のもとでグリコサミノグリカンの研究を開始し、約30年間グリコサミノグリカン、プロテオグリカンの研究に携わっている。神戸薬科大学、北海道大学を経て、2012年より名城大学薬学部教授。研究テーマとしては、様々な分析機器を利用したグリコサミノグリカンの構造解析の研究からスタートし、その機能研究、生合成酵素の研究、分解酵素の研究を行ってきた。最近では、生合成酵素の先天的欠損による難病の発症機構に注目して研究を進めている。
令和元年9月29日〜10月3日にかけて、金沢の石川県立音楽堂で第11回プロテオグリカン国際会議が開催されました。
この国際会議は2年に一度、西暦の偶数年に、プロテオグリカン研究分野の第一人者たちが集まって、その成果を発表し、議論し、交流を深める場となっています。
今回は約170名の参加で、口頭発表が53件、ポスター発表が84件ありました。
第1回プロテオグリカン国際会議は1999年に日本で開催されました。日本発祥の学会とも言えます。プロテオグリカンに関するレギュラーな国際会議はそれまでゴードン会議しかなく、ゴードン会議は参加者数に制限があるため、学生の参加や同一の研究室から複数のスタッフが参加することは困難でした。そこで、木全弘治先生(愛知医科大学)と柳下正樹先生(東京医科歯科大学)が、誰でも参加できるプロテオグリカンの国際会議を、ということで始められた、と伺っています。プロテオグリカンのゴードン会議は、西暦の奇数年に米国で開催されるため、米国以外の地で、西暦の偶数年に開催されています。第2回は英国、第3回はイタリア、第4回はスウェーデン、第5回はブラジル、第6回はフランス、第7回はオーストラリア、第8回はドイツ、第9回は韓国、第10回はイタリアで開催されています。最近は、ヨーロッパとヨーロッパ以外で交互に開催されています。
今回の本会議における各セッションの分野は、以下の通りです。
初日(9月29日)は16時にJeff Esko博士(米国California大学San Diego校)のGenome-wide analysis of heparan sulfateというタイトルのPlenary Lectureから始まりました。その後、門松健司先生(名古屋大学)やVives博士(フランスCNRS-IBS)らの招待講演があり、初日から神経軸索再生におけるコンドロイチン硫酸の機能やヘパラン硫酸のエンドスルファターゼに関する最新の研究成果を聞かせていただきました。 その後のWelcome Receptionでは、海外の旧友、共同研究者たちと、酒を酌み交わしながら、大いに親交を深めることができました。
2日目は生合成と代謝のセッションが中心であり、Passi博士(イタリアInsubria大学)、Hascall博士(米国Cleveland Clinic)、Bollyky博士(米国Stanford大学)、Day博士(英国Manchester大学)、Kjellén博士(スウェーデンUppsala大学)という、プロテオグリカン分野では大物ばかりの錚々たるメンバーの招待講演が続きました。 お昼はお弁当が用意され、食べ終わった方から三々五々ポスターセッションが開始されました。ポスター発表は月曜と水曜に分けて発表されました。ポスター発表の方は半分弱が日本人によるもので、多くの日本研究者の参加がありました。そこかしこで、日本語、英語でポスター内容の議論が交わされておりました。14時半から17時まではフリータイムということで、金沢市内の観光に行かれる方もいらっしゃれば、ホテルで休憩される方、色々であったと思います。17時から新しい分析技術に関するセッションが開始されました。このセッションでは、座長を担当させていただきました。Hung博士(台湾Academia Sinica)によるヘパラン硫酸糖鎖の化学合成の話、Merry博士(英国Nottingham大学)による幹細胞を使った病気のモデル系作成の話は大変興味深く聞くことができました。さらに、Noborn博士(スウェーデンGothenburg大学)は、若手研究者ですが、質量分析を利用した新しい分析技術でグリコサミノグリカンオリゴ糖の画期的な解析結果を報告されていました。彼ら以外にポスター発表から選抜された若手による3演題も極めて興味深いものでした。
3日目の午前中は、細胞内シグナル伝達に関わるセッションでした。中でも、Turnbull博士(英国Liverpool大学)の発表は、長年この分野を牽引してきた研究者らしく、極めて面白いものでした。ヘパラン硫酸オリゴ糖の機能発現におけるグルコサミン3-O-硫酸構造の意義を議論しており、新しい視点を感じました。また、ポスター発表から選抜された口頭発表のうち、三井優輔博士(基礎生物研究所)によるアフリカツメガエル胚発生過程でのヘパラン硫酸の機能に関する研究では、ヘパラン硫酸に2つのタイプがあることを示し、新しい概念の導入であったため、活発な議論が続いて止みませんでした。
3日目の午後、ポスター発表はなく、サンドイッチを持ってExcursionでした。世界遺産の五箇山、白川郷を巡るバス旅行でした。五箇山では和紙の作製法をビデオ視聴しただけですが、皆さん、和紙のお土産のお買い物の方が楽しそうでした。白川郷では、合掌造りの集落を散策し、日本の原風景ともいうべき美しい景観を楽しみました。五平餅やソフトクリームなどを購入して、食べながら歓談している方々も多く見られ、楽しいひと時を過ごすことができました。
4日目の学会は2日目と同じパターンです。午前中は発生、癌のセッションがあり、Apte博士(米国Cleveland Clinic)、Filmus博士(カナダSunnybrook Research Institute)、Whitelock博士(オーストラリアNew South Wales大学)による招待講演が行われました。彼ら以外に8演題がポスター発表から選抜された口頭発表でした。発生、癌のセッションはやはり、ヘパラン硫酸に偏りがちの内容でしたが、極めて興味深いものでした。個人的には、エーラスダンロス症候群のゼブラフィッシュモデルの解析を行ったDelbaere博士(ベルギーGhent大学)、シンデカンのノックアウトを使って細胞質カルシウムイオン濃度への影響を示したGopal博士(オーストラリアMonash大学)による発表が印象的でした。 昼はポスター発表、休憩時間を挟んで、17時から夕方のセッションとなりました。Schaefer博士(ドイツGoethe大学)、Hippensteel博士(米国Colorado 大学Denver校)、岡田保典博士(順天堂大学)らによる、炎症、免疫のセッションでした。沢山の活発な議論が行われ、大いに盛り上がった後、場所を移動して、ホテル日航金沢でConference Dinnerが執り行われました。料理は洋風でしたが、大変上品で美味しく、海外からの皆さんも大いに堪能できたのでないかと思っています。また、石川の地酒も4、5種用意され、私自身も海外の皆さんに日本酒を勧めてまわり、多くの外国人の方に日本酒の美味しさを分かっていただけたのではないかと思っています。
学会、最終日です。午前中のみでしたが、神経生物学のセッションと再生医療に関係するセッションがあり、大橋俊孝博士(岡山大学)、Katagiri博士(米国NIH)などの発表があり、最後まで活発な議論が交わされていました。Closing Remarksのまえに、優秀な発表をした若手研究者に与えられるTravel Awardの発表があり、上述した三井博士、Delbaere博士、Gopal博士を含む10名が受賞しました。
学会は、最後の渡辺秀人先生の言葉で閉められました。今回の開催は、愛知医科大学の渡辺秀人先生を中心に、8名の国内メンバーと10名の海外メンバーが主催しましたが、非常に多くの部分を渡辺先生に取り仕切っていただき、大変感謝しております。海外からの参加者からも、非常にホスピタリティーの高い学会であった、今までの中でベストであった、とお褒めの言葉を多くいただき(お世辞も入っていると思いますが)、成功裏のうちに無事に終了したことが大変うれしく思われます。また、事前の予報では台風のせいで雨続きと考えられていましたが、学会期間中は雨に降られることもなく、天候も味方してくれた学会でした。プロテオグリカンの分野は、非常にアットホームな雰囲気があり、2年後のJeremy(Turnbull博士)の主催する本学会への参加が今から楽しみです。少しでもプロテオグリカンに興味をお持ちの方、プロテオグリカンを少しでもかじったことのある方は、非常に実りの多いものになると思います。雰囲気もよくウェルカムな会合ですので、ぜひご参加ください。