Dec. 7, 2004

ヒアルロン酸レセプター、CD44 -Update-(2004 Vol.8, A10) Original Issue (Sep. 15, 1998)

Warren Knudson / Cheryl B. Knudson

Dr. warren

氏名:Warren Knudson
Warren Knudsonは、Dr. Edward Conradの研究室在籍中の1981年にIllinois大学で博士号を取得した。その後、Dr. Bryan Tooleの研究室での博士研究員時代にヒアルロン酸に興味を持ち始めた彼は、1985年にシカゴにあるRush Medical Collegeに移った。現在は、Rush大学Medical Center生化学教室のAssociate Chairman兼冠Professorを務めている。Knudson博士の興味は、ヒアルロン酸の代謝全般である。彼の研究室では、関節軟骨細胞およびいくつかのモデル細胞株における、ヒアルロン酸合成酵素、ヒアルロニダーゼおよびヒアルロン酸レセプターCD44の発現と機能を研究している。これら研究のほとんどの目的は、変形性関節症に関連するヒアルロン酸の代謝異常の原因を突き止めることである。現在研究室の関心は、CD44によるヒアルロン酸の取り込みと分解についてで、この機構がどのように制御されているのか、そしてこの機構がどのようにしてCD44シグナリング、ヒアルロン酸合成酵素活性そしてリソソームにおけるヒアルロニダーゼ発現と調整しているのかを追究している。Dr. Cheryl B. Knudsonとは、主にCD44と細胞−細胞外マトリックス相互作用に関して共同研究をしている。

Dr. cheryl

氏名:Cheryl B. Knudson
Cheryl B. Knudsonはカリフォルニア州ClaremontのPomona大学で学士号を、Southern California大学で博士号を取得した。Dr. Stephen Meierと取り組んだ学位論文では、頭蓋神経冠細胞の分節的移動とその分布から中胚葉パターンへの関与を示した。また、神経冠細胞移動におけるヒアルロン酸の役割についても研究したことが、ボストンTufts大学のDr. Bryan Tooleの研究室で博士研究員として研究するきっかけとなった。Toole教授とは肢芽発生におけるヒアルロン酸-細胞相互作用の役割に関して研究し、軟骨形成過程で発現されるヒアルロン酸レセプター活性を報告した。1985年、シカゴのRush医科大学の生化学講座の教室員となり、現在は、生化学教室の Ralph and Marian C. Falk のProfessorである。ピア・レビューにも積極的で、minority studentsのための夏の研究プログラムを指導し、Rush大学の大学院のコアカリキュラムの管理者である。研究の関心は、細胞周辺のマトリックス形成におけるヒアルロン酸−細胞相互作用と皮質細胞質における細胞内事象の制御である。現在研究の着目点は、細胞外マトリックスの構成に依存した、成長因子に対する細胞のさまざまな応答と軟骨分化、加齢、疾病おけるヒアルロン酸とCD44の相互作用である。

1. はじめに

ヒアルロン酸(以下HA)が多くの関心を集める理由のひとつは、それが明らかに細胞活動に影響を及ぼすからである。この能力は、HAが極めてよく水和された細胞外マトリックスを形成する際に重要な役割を果たすことと、HAが直接細胞に作用することによる。もっとも広範に発現し、もっとも多くの研究がなされてきたHAレセプターはCD44である。ヒト11番染色体の短腕上にある単一遺伝子がCD44をコードしているのであるが、20エクソンのうち12のエクソンに対する選択的スプライシングにより、複数種類のmRNAが転写される。エクソン5からエクソン16が直接スプライシングされることで、一般的にCD44Hと呼ばれ、造血細胞における主要な型である標準型CD44が生成される。異なったエクソンの異なる組み合わせによって、無数のCD44アイソフォームが形成される可能性がある。細胞外ドメインにはHAとの結合で主要な役割を果たす領域とエクソンの選択に使われる領域がある。膜貫通ドメインはよく保存されており、細胞内ドメイン(エクソン20)には、細胞骨格およびシグナリングタンパク質と相互作用する能力のあるタンパク質モチーフを持つ。他の膜貫通型糖タンパク質と同様に、CD44アイソフォームはグリコシル化やリン酸化などの多くの翻訳後修飾を受ける。CD44は、HAレセプターである時もあれば、シグナリングに関与する時もあり、アクチン細胞骨格の再構成に関わることもある。つまり、CD44はドッキングタンパク質や補助レセプターとしてだけでなく、核内転写因子としても機能することができる。グリコサミノグライカン鎖を付加すると、CD44が時として内在性膜プロテオグライカンとなることもわかっている。こうしてはっきりしてきたCD44の役割は、1)形態形成、血管形成、腫瘍浸潤と転移時における細胞の移動、2)HAの豊富な細胞外マトリックスの保持、形成およびエンドサイトーシス、3)リンパ球の接着と遊走の仲介、そして4)細胞の生死のバランスをとるマトリックスシグナルの調整である。このアップデートでは、いくつかの構造的・機能的特性を含めた、CD44生物学の進展の一部を選んで総説する。それは、ひとつのタンパク質が、構造や発現様式のわずかな変化で多様な仕事を果たすようになることを、進化の過程がどのようにして許容してきたかを明らかにすることだろう。

2. コード配列へのイントロン配列の使用

A. v4とv5の間の選択的スプライシング
我々の前の総説1で、CD44のmRNAに関連したエクソンの使用と選択的スプライシングについて述べた。20エクソンから構成され、そのうちの10が可変エクソンとされるCD44遺伝子のモデルは、CD44が多種多様な細胞に発現する理由とされ続けている。しかしながら、この数年のCD44 pre-mRNAのスプライシング 変異の報告により、このモデルは拡張されてきた。一例として、リウマチ性関節炎(RA)患者の関節の滑膜細胞に発現しているCD44が挙げられる。これらの細胞に発現しているmRNAは、CD44v3-10へパラン硫酸プロテオグライカンアイソフォーム2のv4とv5との間に3つのヌクレオチドが挿入されている。著者たちは、RA特異的なCD44v3-10の変異体としてCD44vRAという名を提案している。この配列をもつ転写物はv4とv5エクソンの間のイントロン配列を選択的に使用することで生じる(Fig. 1A)。このスプライシングでは、読み枠を妨害することなくアラニン残基の付加に至った。このRA特異的CD44v3-10変異体は、RA患者30人を解析したうちの23人の線維芽細胞からみつかった。CD44v3-10あるいはCD44vRAを発現している細胞は、そのヘパラン硫酸鎖上にFGF2(basic FGF)を結合させる。実験をさらに進めると、リコンビナントCD44vRAをトランスフェクトした細胞(あるいは初代RA滑膜細胞)は、CD44v3-10を発現しているコントロール細胞に比べ、前もってFGF-2と結合させておくことにより、可溶性 FGFレセプター-1に結合することが示された。つまりCD44vRAを発現している細胞は、よりFGF-R1の活性化が進むこと示唆している。

fig1

Fig. 1 CD44の選択スプライシング
A. CD44vRA2は、可変エクソン4と5の間に3つのヌクレオチドがコードされたmRNAから生成される。CD44vRAタンパク質はアラニン残基が付加されており、読み枠に影響しない。

B. v9とv10の間の選択的スプライシング
YuとToole3は、“可溶性”CD44と名付けた別のCD44アイソフォームを報告した。この新しい一連のCD44 mRNA変異体は、ハツカネズミの胚性筋肉組織と胚性軟骨組織から単離されたRNAで発見された。CD44v8、CD44v8+9、CD44v8-10に加え、新たに4つのCD44v8-10変異体が検出された。これらは、v9とv10の間のイントロン配列を使ったことにより、付加的なコ-ディング配列を持っている。4つのマイナー転写物のうち、2つはv9の拡張を含み(Fig.1B)、残りの2つは新しい小さなエクソンを含んでいた(Fig.1C)。著者たちは、今までv9(エクソン14のこと)とされていたのは、大きなエクソンの5'側半分だけであったと示唆している。YuとToole3はさらに、この新しいエクソンをv10(もしくはエクソン15)と名づけ、その結果生じるCD44遺伝子のエクソン番号のシフトも提唱した。この名称が受け入れられれば、v10はv11となり、CD44遺伝子は20ではなく全部で21のエクソンを持つこととなる。元のv9-v10の間にこれらのイントロン配列が包含されている場合によく見られるように、この4つの転写物も終止コドンを持っている。そのため、これら4つのmRNAのどれを翻訳しても、膜近接細胞外ドメインで切り取られている。これらmRNAのクローニングと発現をおこなったところ、著者たちは、この4つのタンパク質が膜貫通ドメインと細胞内ドメインを欠きながらも合成され、正しく加工されたことから、“可溶性 CD44”として分泌されることを発見したのである。

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B. 2つのCD44mRNAは、隣接するイントロンのコード配列を持った拡張v9エクソンを持つ。これら2つの転写物は終止コドン(Ψ)を持っているので、翻訳すると可溶性 CD44が生成される。典型的なスプライシングによるv9とv10を持ったCD44 mRNAは、膜近接細胞外ドメインを持った膜貫通型タンパク質となる。

fig1

C. 2つのCD44mRNAは、今まではイントロン14と呼ばれていたイントロンにあるコード配列を持つ、新しい小さなエクソンを含む。YuとToole3はこのコード配列のことをエクソン15と呼ぶことを提案している。それは、イントロン14をイントロン14と15に分け、エクソンの番号をずらすこととなる。この新しいエクソンを含む転写物には終止コドン(Ψ)があり、ひとつは主要な可溶性 CD44アイソフォームとなる。

C. CD44機能解明ツールとしての稀なCD44変異体アイソフォームの有用性
可溶性 CD44の構造は、次の研究で役に立つこととなった。さまざまな腫瘍細胞における可溶性 CD44アイソフォームの過剰発現と分泌は、これらの細胞表面の内因性CD44とHAとの結合を阻害する4。つまり、可溶性CD44は、内因性HAのすべての結合可能な部位に結合する囮レセプターの役割を果たしたのだ。ただし、これらのアイソフォームが自然に細胞内で発現した場合も同様の囮機能を持つかどうかは、まだわかっていない。それでもなお、可溶性 CD44アイソフォームの発現が、HAと細胞表面の特異的な相互作用が、CD44との相互作用に依存していることを証明する重要な分子ツールとなることは間違いない。

選択的スプライシングにより生成される別のCD44アイソフォームもまた、CD44機能を確認する上で有用なツールとなる。以前の総説で、われわれはエクソン19を含むCD44 mRNAについて述べた5。このエクソンはエクソン20の代わりに発現し、CD44の細胞内ドメインを切り取る形でCD44が翻訳される。エクソン20は細胞内に72アミノ酸をもたらすが、エクソン19は初期終止コドンを持っているため、細胞内に5アミノ酸しかない。その後、われわれは、HAと結合することもHAを取り込むこともない、CD44 exon-19 mRNAのリコンビナントホモログpCD44Δ67を発見した6。だが、ここでさらに興味深いのは、短縮した細胞内ドメインのアイソフォームであるpCD44Δ67を完全長ヒトpCD44HとともにCOS-7にトランスフェクトしたところ、HA結合機能の阻害がみられたことである。牛の関節軟骨細胞の初代培養にpCD44Δ67をトランスフェクトして発現させてみると、細胞は細胞周辺のマトリックスを保持できなくなり6Fig. 4G)、HAとの結合もHAを取り込むこともできなくなり7Fig. 4F)、やがてSmad1経由でシグナルを送ることもできなくなった8。その結果、細胞内ドメインの短縮されたCD44アイソフォーム(CD44exon19) は、ドミナントネガティブレセプターとして働き、特にそのリガンドであるHAとのCD44を介した相互作用を阻害する。多くの細胞からわずかしか産出されないこのアイソフォームではあるが、リコンビナントの形でCD44が関与する細胞機能を推測するツールとして有用である。

3. 細胞シグナル伝達におけるCD44

A. 直接的なCD44シグナリング
細胞外マトリックスの構成要素が、レセプター複合体との相互作用を通じて細胞挙動に影響力を持っていることは間違いない。だが、シグナリングにCD44が直接参加しているかどうかは意見の分かれるところである。理論上、細胞内ドメインをもつ膜貫通マトリックスレセプターであるCD44には、 シグナリングとして機能するのに必要な基本構造を持っているはずである。にもかかわらず、CD44の細胞内ドメインは、本来のレセプターキナーゼ活性もホスファターゼ活性も示さない。CD44を介したシグナリングを簡単に説明すると、インテグリンシグナリングと類似している;つまり、CD44の細胞内ドメインに結合するシグナリングタンパク質を介した、細胞外マトリックスの情報の間接的な伝達である。これらの機能的シグナリング複合体は、主にアンカータンパク質と細胞骨格分子によって組織される。何が、CD44が関与するシグナリング現象の「活性化」もしくは「誘発」を引き起こすのかは、正確にはわかっていない。有核血液細胞や、遊走性の胚細胞、内皮細胞あるいは悪性細胞において、空いているCD44レセプターはHAの結合によって「活性化」され、それによりCD44の細胞外クラスター化が始まる(Fig. 2A、B)。CD44の細胞外クラスター化により、RhoとRacだけでなくc-SrcとFAKなどのキナーゼの活性化などの細胞内現象が起こり9-11、続いてCD44のアクチン細胞骨格複合体への会合が強化され、またその他のシグナリングパートナーの補充と活性化が起こることで、結果的に細胞移動を引き起こす。Srcキナーゼファミリーの一員であるLck、Fyn、LynおよびHckがCD44と免疫共沈降し、この会合は主にリピッドラフトで顕著である12

HA-CD44相互作用はまた、v‐Srcをトランスフォームした細胞で、MAPキナーゼとAktのリン酸化を増強する13。RANTESの場合は、通常Gタンパク質結合ケモカインレセプターを介してシグナルを送る。しかしながら、RANTESによるp44/p42 MAPキナーゼの活性化は主としてCD44に仲介されるために、まずRANTESがそのような鎖を持つCD44変異体のグリコサミノグリカン鎖と結合する必要がある14。Lckの活性化、その活性化が起こすZAP-7015のチロシンリン酸化15、あるいはTリンパ球におけるPky2のリン酸化12などといった、モノクローナル抗体架橋結合用いてはじまるCD44媒介シグナリングは、細胞外でのCD44がクラスター化こそが誘導事象であることの加的証拠にほかならない。したがって、“外から内”へのCD44シグナリングは、アクチン細胞骨格および結合シグナリングタンパク質パートナーと、CD44との相互作用に変化をもたらす、細胞外マトリックスの指示によるレセプターの構築とみなすことができる。

HAがより広汎に豊富に存在するほかの組織では、高分子HAと多価的に結合してクラスター化されたCD44レセプターの存在が、細胞が静止期に入っていることを示す。このような状態の細胞には、CD44シグナリングがHA-CD44相互作用の中断により開始される(Fig. 2C, 2D)。この中断が発生する要因としては、HAの分解16、17、HAに対する競合因子として働く可溶性 CD44の存在4、CD44細胞外ドメインの切断18、19、あるいは小さなHAオリゴ糖の存在および競合20-22などが考えられる。この場合には、細胞外の構造的制約の解除もしくは高分子HAによる強制的クラスター化からの解放のいずれかがシグナルを誘導すると考えられる23

変性疾患の病因には、多面的なアポトーシス経路が関与してきた。そして、最近のデータでは、細胞の生存とアポトーシスに対する感受性に、HA-CD44相互作用が強い影響を及ぼすことが示された。細胞の生存は、細胞-マトリックス相互作用の維持と直接的または間接的に成長因子(IGF-1やBMPs)から影響を受ける。HAオリゴ糖を軟骨細胞などの多くの細胞に投与すると、一酸化窒素(NO)が放出される24、25。ここで興味深いのは、NO自身は軟骨細胞においてPI-3キナーゼを下方制御し、アポトーシスを誘発することができるが、このプロセスは、細胞生存サイトカインIGF-1の投与により反転される26。HAはanti-Fasに誘導された軟骨細胞のアポトーシスを抑制する27。これらの結果を総合し、HA-CD44相互作用(安定した細胞-マトリックス相互作用)の中断は、CD44とCD95の両方のクラスター化を解放することにより、アポトーシス経路のFasリガンド活性化に向けて細胞表面を準備する、という仮説を導いた。

HAオリゴ糖が誘導するアポトーシスは、乳癌および肺癌細胞株のほかにも神経膠腫細胞にも見られた22、28。このことはまた、HA-CD44相互作用の喪失がアポトーシスの誘導を招く可能性を示唆している。その後の研究によって、HAオリゴ糖によるアポトーシスの誘導は、PI-3キナーゼの阻害に起因し、これがBADとFKHRのリン酸化と同様にAktリン酸化の阻害につながることが明らかになった。このリン酸化のいずれもがBcl-2とカスパーゼ-3の活性化に影響する22。この研究では、PI-3キナーゼの阻害はPTENのHAオリゴ糖刺激によりさらに増幅された。PTEN とは、PI-3キナーゼの産物であるホスファチジルイノシトール3-リン酸を脱リン酸化するホスファターゼのことである。HAオリゴ糖のほかにも、anti-CD44中和抗体の使用により、PI-3キナーゼ活性に対する同様の阻害が見られた。これらの研究は、HA-CD44相互作用がなければ細胞生存経路が維持されず、アポトーシス経路の活性を招く可能性を示した。

fig2

Fig. 2 HA結合によるCD44の活性化、またはHA-細胞相互作用の中断
A and B. いくつかの細胞では、結合していないCD44レセプター(A)は、HAと結合することで活性化され、CD44の細胞がクラスター化を開始し、細胞質内シグナリングパートナーを集め活性化する(B)。シグナルはピンク色の矢印で示されている。

fig2

C and D. HAと結合しクラスター化されたCD44レセプターは、他の種類の細胞では静止期を表している可能性がある(C)。HA-CD44相互作用の中断はCD44のクラスター化を解き(黒い矢印)、シグナルを誘導すると考えられる(D)。シグナルはピンク色の矢印で示されている。

B. CD44とアクチンアダプタータンパク質
CD44と、細胞骨格ERM(エズリン/ラディキシン/モエシン)および/またはアンキリンアダプタータンパク質との会合は、CD44のリン酸化により一部制御されている29。Morrisonらは、CD44と細胞骨格複合体との動的会合は、ERMタンパク質と、それとは別のアダプタータンパク質であるmerlinのリン酸化状態の変化により制御されうるという機構を提案している30。merlin(腫瘍抑制遺伝子NF2としても知られている)もまたband 4.1スーパーファミリーの一員である。しかしERMとは異なり、merlinにはアクチン細胞骨格との結合能も、CD44がERMの仲介でアクチン細胞骨格に連結することを競合的に阻害する機能もほとんどない。リン酸化ezrinはCD44に結合するが、merlinは脱リン酸化によりCD44のERM結合部位に結合する。その結果、merlinのリン酸化/脱リン酸化制御が、細胞増殖にどのCD44-HA相互作用が影響するかという制御スイッチとして機能することが考えられる30。他の研究者は、ankyrin-CD44相互作用の制御におけるband 4.1タンパク質の重要性31と、ankyrinとIP3レセプターのような他の構成要素を含む細胞内複合体の形成においてCD44-HA結合が果たす役割を強く主張してきた32

C. トランスアクチベーターとしてのCD44の細胞内ドメイン(ICD)
最近になり、直接CD44が仲介する新しいシグナリングの機構が報告された:2段階からなるプロセスで、まず細胞外ドメインが切れ、γ-セクレターゼにより膜貫通ドメインが切断され、CD44細胞内ドメイン(ICD)が解き放たれる。ICDは、Notchレセプター35と同じように核内に移行し、転写因子の機能をもつ18、31、34。CD44-ICDは、転写を活性化するためにp300/CREB結合タンパク質(CBP)と共にトランスアクチベートを亢進させるのだが、その同定された標的遺伝子のひとつはCD44それ自身であった18。ICDの解放は、膜に結合しているMMP36、特にMT1-MMP37もしくはADAM1011による、CD44の細胞外ドメインの切断によって始まる。この切断は、腫瘍細胞の浸潤と遊走時のHAからの細胞分離の制御にある程度加担していると考えられる。このステップが、MMPが直接CD44と結合することにより促進されていることも十分考えられる。そうなると、CD44のMMP/γ-セクレターゼによる2段階にわたる切断が、ドッキングタンパク質そして補助レセプターとしてのCD44の役割を調整すると推測することができる。この2段階切断は、CD44と複合体を形成するチロシンキナーゼレセプターであるErbB4にも影響を及ぼす。ヒト膵臓癌細胞に小さなHAオリゴ糖を処置したところ、CD44の細胞外ドメインの切断を招いた。これはおそらくMT1-MMPの作用によるものであると考えられ19、CD44-ICD生成の開始の一例となるかもしれないことは、興味深いことである。

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Fig. 3 シグナリングとCD44
A. HAとの結合による直接的なCD44 シグナリングの証拠はほとんどない。
B. CD44は古典的なシグナリングレセプターと物理的に結合することで補助レセプターとして働く。
C. CD44は、MMPsといった細胞周辺タンパク質やキナーゼ、Smad1、アクチン結合タンパク質やほかのアダプタータンパク質のような細胞質タンパク質のドッキングタンパク質として働き、結果としてシグナリングを活性化する(ピンク色の矢印)。
D. 2段階タンパク質切断(赤の雷印)は、CD44の細胞内ドメイン(ICD)を解き放ち、ICDは核内へ移行し転写を活性化する機能を示す。

4. CD44の細胞における機能

CD44は、HAシグナリングを仲介する役割と密接に関係する補助的な役割も果たしている。

A. 補助レセプターとしてのCD44 の機能
最初に、CD44はレセプター型チロシンキナーゼ39、40のErbBファミリーの一員であるc-Met38や、TGF-βR141-43等の古典的なシグナルレセプターと物理的に結合することで補助レセプターとしての機能を果し、その過程でシグナリングの細胞内仲介物質の会合を促進する。同族レセプターc-Metによる肝細胞増殖因子 (HGF)シグナリングは、c-Metリン酸化のために、HGF-c-Met-CD44v6複合体の形成を必要とする。このCD44v6との相互作用は、へパラン硫酸の存在によるものではない。c-Metの下流シグナリング(MEKとErkのリン酸化)には、完全なCD44細胞内ドメインが必要であるが、 CD44v6Δ67(細胞内ドメインが欠如している変異体)は、CD44存在下ではドミナントネガティブの働きをする38。別の研究では、3.5 kDaのHA断片(とはいえ高分子HAではない)が、ヒト軟骨肉腫細胞HCS-2/8におけるc-Metチロシンリン酸化を促すことが観察された44

B. マトリックスメタロプロテアーゼのアンカーとしてのCD44の機能
CD44は、MMP-945、MMP-740、MT1-MMP46を含むマトリックスメタロプロテアーゼのドッキングタンパク質としての機能を持つ。CCD44とクラスターを形成することにより、MMP-9のタンパク質分解活性が細胞表面に維持され、IV型コラーゲンの分解と腫瘍細胞の浸潤が促進された45細胞内ドメインを欠如したCD44切断変異体の発現は、MT1-MMPが葉状仮足への局在化を阻止した。これは、CD44がMT1-MMPとアクチン細胞骨格との結合に一役買っていることを示す46

C. シグナリングを増強するへパラン硫酸プロテオグライカンとしてのCD44
へパラン硫酸グリコサミノグライカン鎖を有するCD44v3アイソフォームは、ヘパリン結合性上皮成長因子様増殖因子 (HB-EGF)や線維芽細胞成長因子(FGF)といった塩基性成長因子を結合する支持体となることができる47。Shermanら48は外胚葉性頂堤(aer)の細胞から成長中の肢芽の下層にある間葉細胞への成長因子に関する新しい機構モデルを発表した。彼らの研究は、上皮細胞上のへパラン硫酸のついたCD44は、FGF-8(これもまたaerによって合成されている)と結合し、隣接する間葉細胞上のシグナルを発するFGF-Rに提示したことが実証した。Yuら40は別の方法で、pro-HB-EGF 前駆タンパク質とヘパラン硫酸プロテオグライカンCD44v3との相互作用が、MMP-7によってプロセッシングを促進することを発見した。MMP-7もCD44v3を介して細胞表面に結合し、成長因子の活性型を生み出すためにpro-HB-EGFを切断する。その後、活性化HB-EGFは、CD44と共に安定複合体にあるErbB4 へ提示される。このMMP7/HB-EFG/ErbB4/CD44複合体は、分娩後の子宮や乳汁分泌乳腺の退縮に関与している。

D. リンパ球ローリングにおけるCD44の機能
活発な研究対象となっているもう一つのCD44の機能は、リンパ球ローリングと炎症部位におけるリンパ球浸潤へのCD44の関与である。リンパ球は、インテグリンを介して血管内皮壁との強固な接着を形成する前は、細胞ローリングに特徴付けられるようにより弱い接着状態にある。リウマチ性関節炎において、HAは、滑膜血管の内皮細胞と同様に、関節の滑膜組織においても増加する。プロテオグライカンに誘導されるリウマチ性関節炎動物モデルにおいて、Mikeczらは、anti-CD44中和抗体をマウスに全身投与することにより、すべての腫張と 白血球の浸潤を排除することに成功した49。抗体処置の結果、CD44は血中リンパ球と滑膜細胞から迅速に除去されたのである。Clarkらの研究では、培養されたヒト扁頭ストローマ細胞表面の剪断応力下での扁頭リンパ球のローリングは、HA-CD44相互作用に依存しているということを実証された50。リンパ球ローリングは、anti-CD44モノクローナル抗体、可溶性 HAそしてヒアルロニダーゼ処理をすることで阻害される。急性移植片対宿主病の皮膚反応は、真皮ではHAの強い染色が見られたものの、リンパ球の接着は、リンパ管内皮ではなく、血管内皮に限局された51。適切なリンパ球のCD44‐皮膚内皮HAの相互作用も、こうした炎症部位へのリンパ球のホーミングを招く。これらの研究は、炎症領域におけるホーミングにはHAと白血球の相互作用が必要という長く知られてきた概念を証明した52。IL-1とTNF-α等の炎症性サイトカインは、内皮上のHAの保持力を高めることで表面に不動化したHAを増やし、これがリンパ球ローリングを促す。このHAは内皮細胞上のCD44につなぎとめられ、血流の剪断力に抵抗する53
TNF-αも、もう1つのHA結合タンパク質であるTSG-6の分泌を促進する。最近の研究で、HA単独よりもTSG-6-HA複合体の方が、リンパ球ローリングおよび接着の増強を見せた54。このような現象は、TSG-6との結合によるHAの構造の変化、もしくはリンパ球上のCD44のクラスター化の促進のいずれかに起因する、リンパ球CD44とTSG-6-HA複合体のHAとの相互作用を介して起きると推測される。したがって、CD44-HA相互作用は、炎症部位における白血球の接着を亢進するために、リンパ球と内皮との初期相互作用とリンパ球ローリングに重要な役割を果たしているのである。

E. HA結合タンパク質の取り込み時におけるCD44の機能
我々の以前の総説1では、マクロファージや軟骨細胞などのCD44を発現している細胞による、HAのエンドサイトーシスについて論じた。部分的に切れたプロテオグライカンの断片は、HAと結合し続け、加齢とともに組織内に蓄積する。このことが慢性退行性疾患の進行に関与している可能性がある。ヒト関節軟骨において、リンクタンパク質とアグリカンN末断片の蓄積が、修復期における軟骨で新たに合成されたアグリカンの保持のために必要な、潜在的なHA結合部位をブロックすることも考えられる。最近の研究でわれわれは、軟骨細胞にはCD44を介してHAに結合し続けるアグレカン断片を内部に取り込む能力を持っているという結論に達した。CD44を発現するようにトランスフェクトされたCOS-7は、HA結合とエンドサイトーシスの能力を得る6。FITC-HAと結合したビオチン化されたアグリカン断片は、ウシ関節軟骨細胞とCD44をトランスフェクトされたCOS-7に同時に取り込まれ、ライソソームに対する蛍光プローブで染色された細胞内小胞から検出された7 (Fig. 4A, B, C, D)。しかし、天然型アグリカン/HA複合体は、細胞表面に結合したものの、取り込まれることはなかった。アグレカン断片の取り込みは、機能的CD44の存在のほかに、HAの存在にも依存していた(Fig. 4E、F)。細胞内ドメインを切断した変異体アイソフォームであるCD44v6Δ67をトランスフェクトした関節軟骨細胞は、この摂取をブロックした。このことは、軟骨細胞におけるCD44ドミナントネガティブ変異体の過剰発現は、アグリカンとリンクタンパク質断片のついたHAの結合と取り込みを阻害することを示唆している(Fig. 4G)。これらの結果を総合すると、HAに結合したプロテオグライカン断片の代謝回転は、細胞に近接する細胞外マトリックスに限定されていると考えられる。

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Fig. 4 エンドサイトーシスと細胞周辺マトリックスの保持のためのCD44-HA相互作用
A と B. ウシ関節軟骨細胞とアグリカン断片(bHABP; テキサスレッド蛍光)で修飾されたFITC-HA(fl-HA)との結合が細胞外マトリックス(e)の染色として視覚化される。核は青DAPI蛍光で視覚化されている。
C と D. アグリカン断片で修飾されたFITC-HAを関節軟骨細胞と3時間培養し、細胞外成分をトリプシンで取り除くとfl-HA(パネル C)とアグリカン断片(パネル D)がともに取り込まれていることがわかる。核は青DAPI蛍光で視覚化されている。
E. 関節軟骨細胞のHAと結合しているアグリカン断片(テキサスレッド)の取り込み(i)
F. 希釈したストレプトミセスヒアルロニダーゼの存在下で軟骨細胞(青い核)を培養すると、アグリカン断片の取り込み(i)は見られない。したがってこの取り込みはHAに依存すると結論される。
G. トランスフェクションにより細胞内ドメインを切り取られたドミナントネガティブなCD44Δ67を過剰発現している軟骨細胞ではアグリカン断片の取り込み(i)はない。左の細胞は赤と青のチャネルで視覚化されたものでbHABP-テキサスレッド取り込みはない。同じ細胞が右側では3色蛍光で視覚化され、野生型CD44を背景にCD44Δ67の発現を示すGFP の共発現を示す。アグリカン断片の取り込みは機能的CD44の存在に依存している。パネルAからGについてはW. Knudson 研究室のJennifer J. Embry博士に特別に感謝する。
H. 軟骨細胞周辺マトリックスの保持は機能的CD44の存在に依存している。成体関節軟骨細胞の細胞周辺マトリックスは粒子排除アッセイによって視覚化された1。ドミナントネガティブなCD44Δ67を過剰発現しているトランスフェクトされている軟骨細胞(矢印で示したGFP陽性細胞)は細胞周辺マトリックスを保持していない。C. Knudson研究室での夏の高校実習でこの実験を行ったMiss Gabriela Lobatoに特別に感謝する。

5. 結語

多くの細胞の細胞周辺のマトリックスの形成と保持には、CD44-HA相互作用を必要とする。CD44レセプターは、HAの主要なレセプターとして、細胞にHAと接着する、そしてHAの変化を感知する機構を提供し、細胞−細胞と細胞-マトリックス相互作用を仲介する。また、CD44は細胞周辺のマトリックスや皮質細胞質のその他の分子をまとめるドッキングタンパク質でもある。われわれは最近、HA-細胞相互作用の変化のうち、何がBMPへの細胞応答性を調節するのかを発表した8。CD44とSmad1間の相互作用は、BMPシグナリングカスケードとCD44-HA相互作用を結びつける。機能的CD44の発現とCD44-HAの結合は、Smad1のリン酸化と核移行が始まることによって、BMP-7への強い細胞応答を促進する8。HAとCD44の結合が阻害されると、BMPの応答性が弱まる。これらの研究は、HAに依存した細胞外マトリックスの変化がシグナリング、分化の完結、疾病そして組織恒常性を調節するという考えを支持するものである。


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