Proteoglycan
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癌抑制遺伝子(EXT)ファミリーメンバーはヘパラン硫酸を合成する糖転移酵素をコードする

  EXT1EXT2遺伝子は遺伝性多発性外骨腫(HME)の発生と関連している。HMEは常染色体優性遺伝し、長骨の骨端近傍に頻繁に発生する良性腫瘍である(1)。HMEは二つの相同遺伝子、EXT1EXT2、の一方の変異によって引き起こされる。これら二つの遺伝子とさらに三つの遺伝子(EXTL1EXTL2およびEXTL3)はEXT遺伝子ファミリーを形成している(2)(図1)。EXTとEXTLタンパク質は相同性が高く、特にC-末端でその傾向が著しい。しかし、EXTL遺伝子の欠損がHMEを引き起こす証拠はないので、これらはEXT様(EXT-like)と名づけられている。外骨腫由来のコンドロサルコーマやオステオサルコーマで、EXT1EXT2の残る一方のalleleの変異も観察されているので(loss of heterozygosity)、これらは癌抑制遺伝子と考えられている。染色体上のEXT-like遺伝子の位置は、それらも癌抑制遺伝子である可能性があることを示唆している。
図1. ヒトEXT遺伝子ファミリーのクローニングされた5つのメンバーの比較。すべてのメンバーがHS/Hep合成に恐らく関与する糖転移酵素の活性をコードしている。推定膜貫通ドメインはグリーンのバーで示し、保存あるいは強く保存されている領域はブルーと赤のバーでそれぞれ示してある。タンパク質はC-末端で有為な相同性を示し、サイズの違いはN-末端側の長さの違いに依っている。
 二つの独立した研究によって、ヘパラン硫酸(HS)合成に関わる糖転移酵素とEXT遺伝子ファミリーの関係が明らかになった。EXT1はHS欠損細胞株にHS合成能を回復させる遺伝子として同定された(3)。また、ウシ血清から精製されたHSポリメラーゼのペプチドシークエンシングによって、その酵素がEXT2ホモログであることが分かった(4)。この頃、ショウジョウバエのEXT1 orthologであるtout velu (ttv)が、恐らくグリコサミノグリカン(後にHSと判明)に依存した胚発生でのプロセスにおいてHedgehogの拡散に関与することも示唆されていた(5)。より最近の研究によって、組み換え体EXT1とEXT2タンパク質が実際に1,4GlcNAc転移酵素(GlcNAcT-II)と1,4GlcA転移酵素(GlcAT-II)の活性を有することが確認された(6)。これらの酵素はHS鎖の伸長に必要な酵素で、タンパク質への結合領域に最初のGlcNAc残基やGlcA残基を転移するGlcNAcT-IとGlcAT-Iとはそれぞれ異なる酵素である(図2)。EXT1あるいはEXT2のどちらかが欠損するとHMEになることは、EXT1もEXT2もHS合成に必須の糖転移酵素であることを示している。
図2. HS生合成に関与する5つのEXT遺伝子ファミリーメンバーの重複するが互いに異なる糖転移酵素活性。グリコサミノグリカン-タンパク質四糖結合領域の合成がGlcAT-I(EXT遺伝子ファミリーには属さない)によって完成された後に続いて、HS/Hep鎖がこの結合領域の上にEXTファミリータンパク質によって合成される。EXT1とEXT2はGlcAT-IIとGlcNAcT-IIの両活性を有するポリメラーゼである。EXTL1はGlcNAcT-II活性を示し、EXTL2はGlcNAcT-I活性を示す。EXTL3はGlcNAcT-IとGlcNAcT-IIの両方の活性を有している。
 EXTL1、EXTL2、EXTL3もまた、恐らくHS合成に関与していると思われるGlcNAc転移酵素をコードしている(7,8)。N-末端の膜貫通と予想されるドメインと細胞内ドメインを欠いた組み換え体EXTL1、EXTL2、EXTL3タンパク質が一過性にCOS-1細胞で発現され、1,4GlcNAc転移酵素活性をもつことが示された。EXTL2タンパク質は、グリコサミノグリカン-タンパク質結合領域(GlcA1-3Gal1-3Gal1-4Xyl1-O-Ser)の人工アナログであるGlcA1-3Gal1-O-naphtalenmethanolに1,4GlcNAcを転移するので(7)、結合領域上にHSやヘパリン(Hep)の合成を開始する鍵酵素(GlcNAcT-I)の有力な候補である。この酵素は、同じ結合領域上へのコンドロイチン硫酸やデルマタン硫酸の合成からHS/Hep合成を分離する機能も果たしている。切り株型のEXTL1は、伸長しつつあるHS鎖の代用品であるN-アセチルヘパロサンオリゴ糖[GlcA1-4GlcNAc1-(4GlcAβ1-4GlcNAc1-)n]に1,4GlcNAcを転移するGlcNAcT-II活性をもつ(8)。切り株型のEXTL3は、N-アセチルヘパロサンオリゴ糖だけでなく、HS/Hep合成開始ためのGlcNAcT-Iのもう一つの合成基質であるGlcA1-3Gal1-O-C2H4NHCbzを基質とするので、GlcNAcT-IとGlcNAcT-IIの両方の活性をもつといえる(8)。EXTL1もEXTL3もグルクロン酸転移酵素活性はもたない。従って、EXTL1はHSと恐らくHepの鎖の伸長にのみ関与し、EXTL3は多分鎖開始と伸長の両方に関与するのだろう。このように、5つのファミリーメンバーの受容体特異性は重複しているが、EXT1とEXT2の特異性が同じである点を除けば、特異性は互いに異なっている。換言すれば、5つのすべてのクローン化されたヒトEXT遺伝子ファミリータンパク質はHSとHepの合成に恐らく貢献している糖転移酵素の活性を有しているのである。
 
 HS/Hep鎖の選択的アセンブリ−に決定的な役割を演じる鍵酵素GlcNAcT-Iの活性を有する二つの異なる分子種、EXTL2とEXTL3、が存在することの説明としては、これらの酵素がアミノ酸配列を識別して異なるコアタンパク質上にHSやHepの合成開始を司ることが考えられる。EXTL1のGlcNAcT-II活性あるいはEXTL3のGlcNAcT-II活性がHS/Hepの重合反応を行うにはパートナーとしてグルクロン酸転移酵素(GlcAT-II)が必要であるが、どのようにそれぞれの役割を果たしているのかも今後明かにせねばならない。EXT1あるいはEXT2のどちらがEXTL1やEXTL3と繰り返し二糖単位の合成、すなわち糖鎖の重合において共同作業するのかは不明である。ヒトEXT1とEXT2は安定な複合体を形成しゴルジ装置に蓄積する(6,9,10)。複合体はEXT1あるいはEXT2単独よりはかなり高い糖転移活性を示し、生物学的意義をもった酵素型のようである(6,9)。この点では、EXT1とEXT2のヘテロ複合体について、HS鎖重合の酵素活性がin vitroでは示されていないことを思い返すべきである。従って、他のタンパク質をも含んだ多酵素複合体が存在する可能性もある。他の可能性として、EXTL1とEXTL3によるGlcNAc残基単独の転移は糖鎖伸長のプロセスを壊し、実際には糖鎖合成の停止のメカニズムとして機能するのかも知れない。
 
 EXTとEXTLタンパク質は線虫やショウジョウバエから高等脊椎動物に至るまで高度に保存されており、最近のショウジョウバエの遺伝学はHS合成酵素が発生過程において必須の役割を果たしていることを強く示唆している(11)。マウスにおけるEXT1遺伝子の破壊は胚性致死を招く(12)。HSは実際に線虫(13,14)やショウジョウバエ(14)に存在していることが示されている。Ttvは760アミノ酸からなり、ヒトEXT1タンパク質と56%のアミノ酸同一性を示す(5)。Ttv遺伝子変異体において、Hedgehogのシグナル伝達のみが選択的に影響を受け、FGFとWinglessのシグナル伝達が影響を受けないという事実は(5)、他にもEXT遺伝子が存在していることを示唆している。TtvはHSポリメラーゼをコードしていると推定されているが、ttvやショウジョウバエの他のEXTタンパク質の触媒活性はまだ報告されていない 。 線虫には rib-1rib-2と名付けられた二つのEXT遺伝子が存在しており、 814アミノ酸からなるrib-2タンパク質はGlcNAcT-IとGlcNAcT-IIの活性をもち、rib-2 EXTL3のorthologであることが示されている (15)。HSの重合反応に関与するグルクロン酸転移酵素の活性はどちらのタンパク質にも示されていない。
菅原 一幸(神戸薬科大学生化学教室)
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2001年 6月 15日

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