Proteoglycan
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パートタイムプロテオグリカンの多様性とNGC

  硫酸化グリコサミノグリカンを共有結合しているタンパク質をプロテオグリカンと呼ぶ。しかし、いくつかのタンパク質においては、硫酸化グリコサミノグリカンが結合したプロテオグリカン型と結合していない非プロテオグリカン型の、2つの分子型で存在することが知られている。このようなタンパク質を、パートタイムプロテオグリカンと呼んでいる。

 代表的なパートタイムプロテオグリカンのひとつとして、血管内皮細胞の表面に存在するトロンボモデュリンがある。この分子には、コンドロイチン硫酸を共有結合したもの(β-TM)とそれを結合していないもの(α-TM)が存在する。トロンボモデュリンの生理機能として、血管内皮における抗凝血作用が知られているが、コンドロイチン硫酸側鎖は、その抗凝血活性の制御に関わっていると考えられている。遺伝子導入によりヒトトロンボモデュリンをCHO-K1細胞に発現させ、α-TM画分を単離し、その糖鎖構造を調べたところ、コンドロイチン硫酸糖鎖とコアタンパクを連結する架橋部分のオリゴ糖(GlcAβ1-3Galβ1-3Galβ1-4Xyl)は形成されていたという(1)。このことは、トロンボモデュリンにコンドロイチン硫酸鎖を導入するか否かは、キシロース転移酵素ではなくコンドロイチン硫酸繰返2糖構造を作る最初のN-アセチルガラクトサミン転移酵素の段階で決定することを示している。

 アミロイド前駆体タンパク質(APP)も、一部はコンドロイチン硫酸を結合したプロテオグリカン(アピカンと呼ばれている)として存在する。その割合は、興奮性アミノ酸投与により脳に損傷を与えると増加するといわれている。興味深いことに、アピカンのコアタンパク質は、APP遺伝子のエクソン15が選択的スプライシングにより除外されたmRNAに由来するという(2)。エクソン15が除外されることにより、キシロース転移酵素により認識されるアミノ酸配列が形成されると考えられる。なお、アピカンのコンドロイチン硫酸鎖導入部位のセリン残基は、Aβペプチドを切り出す部位の上流16番目にあり、コンドロイチン硫酸鎖の導入により、Aβペプチドの産生が調節されている可能性がある。

 最近、中枢神経組織に特異的に発現している膜貫通型糖タンパクであるニューログリカンC(NGC)が、マウス小脳の発達に伴い、コンドロイチン硫酸を結合したプロテオグリカン型から、大部分が非プロテオグリカン型に置き換わることがわかった(3)。同様なNGCの構造変化は、ラット網膜の分化過程においても認められた。これまでに、組織の分化に伴いプロテオグリカン型から非プロテオグリカン型へ、またはその逆の構造変化を示すパートタイムプロテオグリカンの報告はない。小脳におけるNGCの分布を免疫組織染色で調べたところ、唯一の出力細胞であるプルキンエ細胞上にのみ検出された。プルキンエ細胞に入力する主な神経線維として登上線維と平行線維があるが、興味深いことに、NGCは登上線維がプルキンエ細胞上でシナプス形成をする部位と時間に一致して検出されるようになる。このことから、分化途上のプルキンエ細胞上に発現しているプロテオグリカン型NGCは、登上線維とプルキンエ細胞の接着およびシナプス形成を仲介し、平行線維とプルキンエ細胞の接着は阻害している可能性がある。

 NGCの細胞外領域には、マウス、ラットおよびヒトで共通に保存されたSer-Gly配列が6カ所あるが、コンドロイチン硫酸が導入されている部位は1カ所のみである。その近傍には、アピカンで見られたような選択的スプライシングは、これまでのところ認められていない。NGCへのコンドロイチン硫酸鎖導入がどういう機構で調節されているのか、また、NGCの構造変化により機能がどのように変わるのかは、今後の興味ある課題である。

生後7日(a)と成獣(b)マウスの小脳におけるNGCのウェスタンブロット分析。小脳破砕物をそのまま(−)あるいはコンドロイチナーゼABC(CHase ABC)消化後(+)、SDS-PAGEで分離し、抗NGC抗体でNGCを検出した。生後7日の小脳では、NGCは分子量150K付近の幅広いバンドとして検出される。この物質は、CHase ABC処理により120 Kの狭いバンドに変わることから、コンドロイチン硫酸鎖を結合したプロテオグリカン型NGCである。一方、成獣小脳では、NGCはCHase ABC処理をしなくても120 Kの狭いバンドとして検出されることから、非プロテオグリカン型で存在することが明らかである。
小脳のプルキンエ細胞に入力する2つの主要な神経線維系。下オリーブ核から発する登上線維は、プルキンエ細胞の樹状突起の太い幹にシナプスを形成する。一方、顆粒細胞の軸索である平行線維は、樹状突起の細い枝にシナプスを形成する。NGCは、分化途上のプルキンエ細胞上では、登上線維がシナプスを形成する細胞体と樹状突起の太い幹に検出される。
大平敦彦(愛知県心身障害者コロニー・発達障害研究所)
References(1)Nadanaka S , Kitagawa H, Sugahara K : Demonstration of the immature glycosaminoglycan tetrasaccharide sequence GlcAβ1-3Galβ1-3Galβ1-4Xyl on recombinant soluble humanα-thrombomodulin. J. Biol. Chem. 273, 33728-33734, 1998
(2) Pangalos MN, Efthimiopoulos S, Shioi J, Robakis NK :The chondroitin sulfate attachment site of appican is formed by splicing out exon 15 of the amyloid precursor gene. J. Biol. Chem. 270, 10388-10391, 1995
(3) Aono S , Keino H , Ono T , Yasuda Y , Tokita Y , Matsui F ,Taniguchi M , Sonta S, Oohira A : Genomic organization and expression pattern of mouse neuroglycan C in the cerebellar development. J. Biol. Chem. 275, 337-342, 2000
2001年 6月 15日

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