ショウジョウバエヘパラン硫酸プロテオグリカン | |||||||||||
(First version published: 2001年3月15日) | |||||||||||
ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)の細胞間シグナリングにおける機能解析に、遺伝学的解析が有効なモデル生物、ショウジョウバエが重要な役割を果たしている。これまでに、HSPGが補受容体として細胞増殖因子シグナルを調節することが知られていた。しかしこれだけではなく、この分野における近年の大きな進展の一つとして、HSPGがモルフォゲンや軸索誘導因子といった細胞外シグナル分子の組織内分布を調節している、という機能が示された(図1; 1-2)。モルフォゲンは発生の「場」に濃度勾配を形成し、その濃度により異なる細胞運命を規定することのできるシグナル分子である。これらの分子は組織が形作られる際に根本的役割を果たす上、数々の疾病の原因ともなる。このようにモルフォゲンは発生過程において非常に重要な機能を持つが、その濃度勾配がどのように形成され維持されているのか、という点については未だに不明である。ショウジョウバエHSPGコアタンパク質、もしくはHS生合成系酵素の突然変異の解析により、HSPGがDecapentaplegic (Dpp), Wingless (Wg), Hedgehogといったモルフォゲン分子のシグナル伝達や正常な分布に必須であることが示された。例えば、グリピカンファミリーに属するDallyは、翅の発生過程においてDppモルフォゲンの勾配の形を制御している。また、第二のグリピカンであるDally-like (Dlp)はWgタンパク質の分布を調節し、組織内のWgシグナルの及ぶ領域を決定する。 | |||||||||||
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HSPGにより分布が調節される分泌性因子はモルフォゲンだけではない。軸索誘導因子もその一つである(3)。神経発生過程で、中枢神経系の正中線に存在する特殊なグリア細胞から軸索の誘因物質や忌避物質が分泌され、これらが成長円錐の動向を調節する。例えば多くの生物種で、分泌性の忌避因子であるSlitと軸索側に存在する受容体であるRoundabout (Robo)ファミリーの分子群のはたらきにより、軸索の正中線からの距離が決められている。近年、ショウジョウバエシンデカン(sdc)がこの過程で非常に大切なはたらきをしていることが示された。sdcは腹部神経の軸索において発現しており、sdc変異体では軸索が正中線をまたぐ表現型が見られる。さらに、SdcがSlitやRoboと複合体を形成すること、sdc変異体ではSlitの細胞外分布が異常になることが明らかにされた。これらの知見は、Sdcが正中線からの主要な忌避因子であるSlitの分布を調節することにより軸索走行を制御していることを示している。 ショウジョウバエモデルを用いた最近の遺伝学実験はHSPGの作用機作に関するいくつかの根本的疑問についてもアプローチしている。こういったものの一つとして、HSPGの機能はどの程度HS鎖に依存しており、コアタンパク質はどの程度重要なのか、という疑問がある(2)。ある特定のプロテオグリカン分子の生体機能におけるHS修飾の重要性を明らかにするため、HS鎖が付加しないDally変異タンパク質が作製され、そのシグナル活性が調べられた。この変異タンパク質の生体内での発現やレスキュー実験の結果により、HSPG機能へのコアタンパク質の貢献が従来考えられていたよりずっと大きなものであることが示された。 |
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Hiroshi Nakato (Department of Genetics, Cell Biology and Development, University of Minnesota) | |||||||||||
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2007年 3月 2日 | |||||||||||
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