ショウジョウバエ細胞膜プロテオグリカン | ||||||||||||||
(Update Issue: March.2, 2007) | ||||||||||||||
近年、遺伝学的研究に有用なモデル生物、ショウジョウバエ (Drosophila melanogaster) の発生においても、脊椎動物と同様に、プロテオグリカンやこれに結合する糖鎖、グリコサミノグリカンが重要な役割を果たしていることが示されている。遺伝学的研究と全ゲノム配列の決定により、この生物が3つの細胞膜結合型ヘパラン硫酸プロテオグリカン遺伝子を持つことが明らかになっている。これらは、1つのシンデカン遺伝子、および、2つのグリピカン遺伝子、division abnormally delayed (dally)とdally-like (dly)である(本シリーズA02)。 ショウジョウバエシンデカンは、これまでに知られているシンデカンファミリーと同様に、ヘパラン硫酸鎖を有し、細胞膜に局在することが示されている。しかし現在のところ、この分子の生体内における詳細な機能解析については報告されていない。 dallyはショウジョウバエ視覚神経系の細胞分裂が異常となる突然変異体として同定された。dally変異体の幼虫中枢神経系や複眼原基では、細胞周期G2期からM期への移行に異常がみられる。dally変異体を用いた遺伝学的解析により、複眼、触角、生殖器の発生過程で、dally 遺伝子がDecapentaplegic (Dpp; ショウジョウバエのTGF-β/BMPホモログ) シグナルを伝達していることが示されている。一方、初期胚表皮においては、dally は Dpp シグナル系には関与せず、Wingless (Wg; ショウジョウバエ Wntファミリーメンバー) シグナル系の一成分として機能している。DallyはDpp、およびWgに対する細胞応答を選択的に調節している。以上の知見は、Dally が両細胞増殖因子の補受容体として機能し、その活性を調節している、とする仮説を支持している。 最近になり、もう一つのグリピカン遺伝子が同定され、dally-like (dly)と名付けられた。RNA干渉法によるdlyの機能阻害実験により、Dallyに加え、DlyもまたWgシグナル系に必要であることが示された。Dlyの過剰発現により細胞外のWgがトラップされるという観察から、DlyがWgタンパク質の細胞外の分布を調節しているという可能性が示唆されている。 ショウジョウバエでは、ヘパラン硫酸の生合成に関与する酵素群の突然変異体もすでにいくつか同定されている。今後、発生過程におけるプロテオグリカン機能の解明にショウジョウバエ遺伝学が有力な手段となることが予想される。 | ||||||||||||||
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中藤博志(東京都立大学・理学部) | ||||||||||||||
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2001年 3月 15日 | ||||||||||||||
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