Proteoglycan
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プロテオグリカンを介する接着分子とサイトカイン

(First version published: 2000年12月15日)

 サイトカインは、拡散性と流動性に富み、多彩な作用を有する液性因子である。しかし、IL-8やMIP-1等のケモカイン、FGFやHGF等の成長因子、IL-3やIL-7等のインターロイキン、GM-CSF等のコロニー刺激因子を含むヘパリン結合性を有するサイトカインは、細胞膜上または細胞外基質に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカン(HS-PG)に結合して固相化されることにより、機能すべき特定箇所に集積し、非拡散性因子としても機能する。Syndecan-1〜4やGlypican-1〜6などのいわゆるフルタイムHS-PGの多くが、サイトカイン結合能を有する1)

 これらのサイトカインは、HS-PGに結合することにより立体構造の変化や多量体化を介して活性化されたり、不活化されたりする。また、血流によるずれ応力等の物理的刺激や組織内での消化酵素による分解等の化学的刺激から保護される。例えば、ケモカインの多くはHS-PGに結合してはじめて機能活性を獲得し、ヘパリン結合部位を除去すると逆にドミナントネガティブに作用する。さらに、HS-PG上に゛固相(配置)″されたサイトカインは、競合的に解離してより親和性の高い各々の特異的サイトカイン受容体に゛転送(提示)″される2)。また、HS-PGはサイトカイン受容体、さらに、インテグリンやセレクチンなどの細胞表面分子と結合して、より強い情報伝達を可能とする立体構造を形成する。このように、サイトカインは、HS-PGに結合後にシグナル受容体に転送され、流動性と拡散性を超越して、より効率的な細胞間情報伝達の誘導に関与する。

 大部分のサイトカインは通常、ある細胞より産生・分泌されると、別の応答細胞に発現する受容体に結合し、paracrine機能としての細胞間情報伝達を媒介する。例えば、FGFは、細胞表面に発現するHS-PGと低親和性の結合をした後、FGFシグナル受容体に提示されて高親和性に結合する。この際HS-PGは、FGFや受容体と多量体を形成し、より効率的な情報伝達を齎す。即ち、FGFとFGF受容体の関係は、サイトカインのparacrine機能発現にHS-PGが関与する代表例である1,3)


図1. ヘパラン硫酸プロテオグリカンを介するサイトカインと接着分子のクロストーク
ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HS-PG)は、ヘパリン結合性サイトカインを固相化して特定部位に集積し、最も適切な分子複合体立体構造を形成し、paracrine、autocrine、juxtacrine、matricrine刺激機構を効率よく誘導する。

 一方、サイトカインが同一細胞膜上の受容体に結合して機能発現する機構をautocrineと呼ぶ。成人T細胞白血病(ATL)は、急性期にはATL細胞の著明な臓器浸潤傾向を呈する。ATL細胞では、自発的に産生するケモカインの受容体への結合を介してインテグリンの持続的活性化と恒常的なインテグリン依存性の血管内皮細胞との接着をもたらす。その際、ATL細胞に特徴的に過剰発現するHS-PGは、ケモカインを結合して血流による希釈から防御し、同一細胞上の受容体に転送する。HS-PGが、サイトカインのautocrine刺激機構を媒介する好例である。

 また、サイトカインが接着する対象細胞上の受容体に転送されて機能発現する事をjuxtacrine機構と呼ぶ。炎症組織には、T細胞などの炎症性細胞が集積し、免疫応答を司る。末梢循環血中の白血球は、セレクチンとシアロムチンを介して後毛細管細静脈の内皮細胞上に接触した後に、白血球表面に発現するインテグリンを介して内皮細胞と接着して組織内へ遊出する。白血球のインテグリンは、炎症組織内より産生されたケモカイン等によって活性化されて接着性を獲得する。この際、炎症部の内皮細胞は、HS-PGを特徴的に高発現し、HS-PGはケモカインを結合して血流による希釈から防御し、白血球上の受容体に転送することによってケモカインの機能発現に関与する。HS-PGが、サイトカインのjuxtacrine刺激機構を媒介する好例である2)

 細胞外基質や基底膜に存在するHS-PGは、サイトカインを結合して保蔵庫としての役割を担う。HS-PGは、結合したサイトカインを近傍の細胞上の受容体に転送、或いは、炎症部で産生されるヘパラナーゼによって遊離して、細胞外基質間とのmatricrine刺激機構にも関与する。その結果、血管内から基底膜を経て組織へのリンパ球遊出、血管新生、組織修復などを齎す。

 以上、HS-PGは、ヘパリン結合性サイトカインを固相化して特定部位に集積し、多様な細胞間刺激伝達機構、即ち、paracrine、autocrine、juxtacrine、matricrine刺激機構を効率よく誘導し、サイトカインを介する情報伝達を精巧にする(図1)。また、HS-PGは、その多様性に依存して特異的なサイトカインと結合することから、その結合は最も適切な分子複合体を形成するという意味を有する。さらに、一部のsyndecanの発現はIL-1などの炎症性サイトカインによって誘導される。かような概念は、炎症病態の形成やリンパ球再循環の機序・制御のみならず、白血病細胞の浸潤や癌細胞転移の過程を考える際に新たなる機軸を齎すものと期待される。

田中良哉(産業医科大学・医学部第一内科学)
References(1) Parish CR (2006) The role of heparin sulfate in inflammation. Nat Rev Immunol 6, 633-643.
(2) Tanaka Y, Adams DH, Hubscher S, Hirano H, Siebenlist U, Shaw S (1993) T-cell adhesion induced by proteoglycan-immobilized cytokine MIP-1β. Nature 361, 79-82.
(3) Nakano K, Okada Y, Saito K, Tanaka Y. (2004) Fibroblast growth factor-2 induces receptor activator of nuclear factor kappa B ligand expression and osteoclast maturation by binding to heparan sulfate proteoglycan on rheumatoid synovial fibroblasts. Arthritis Rheum 50, 2450-2458.
2007年 4月 17日

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