プロテオグリカンを介する接着分子とサイトカイン | ||||||||||||||
(Update Issue: April.17, 2007) | ||||||||||||||
サイトカインは、拡散性と流動性に富み、多彩な作用を有する液性因子と理解される。しかし、IL-8やMIP-1等のケモカイン、FGFやHGF等の成長因子、IL-3やIL-7等のインターロイキン、GM-CSF等のコロニー刺激因子を含むヘパリン結合性を有するサイトカインは、細胞膜上または細胞外基質に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカン(HS-PG)に結合して固相化されることにより、機能すべき特定箇所に集積し、非拡散性因子としても機能する。また、これらのサイトカインは、HS-PGに結合することによって、立体構造が変化して活性化、または不活化したり、血流によるずれ応力等の物理的刺激や組織内での消化酵素による分解等の化学的刺激から保護されたりする。さらに、HS-PG上に゛固相(配置)″されたサイトカインのHS-PGへの親和性は、シグナルレセプタ-に対する親和性よりも低いために、競合的に解離して各々の特異的サイトカインレセプターに゛転送(提示)″される。また、サイトカインレセプターなどの細胞表面分子は、HS-PGと結合してより強い情報伝達を可能とする立体構造を形成する。即ち、サイトカインは、HS-PGに結合後にシグナルレセプターに転送され、流動性と拡散性を超越して、より効率的な細胞間情報伝達の誘導に関与する1)。 サイトカインは通常、ある細胞より産生・分泌されると、別の応答細胞に発現するレセプタ-に結合し、paracrine機能としての細胞間情報伝達を媒介する。例えば、FGFは、細胞表面に発現するHS-PGと低親和性の結合をした後、FGFシグナルレセプターに提示されて高親和性に結合する。この際HS-PGは、FGFやレセプターと多量体を形成し、より効率的な情報伝達を齎す。即ち、FGFとFGFレセプターの関係は、サイトカインのparacrine機能発現にHS-PGが関与する代表例である。 | ||||||||||||||
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一方、サイトカインが同一細胞膜上のレセプターに結合して機能発現する機構をautocrineと呼ぶ。成人T細胞白血病(ATL)は、急性期にはATL細胞の著明な臓器浸潤傾向を呈する。ATL細胞では、自発的に産生するケモカインのレセプターへの結合を介してインテグリンの持続的活性化と恒常的なインテグリン依存性の血管内皮細胞との接着をもたらす。その際、ATL細胞に特徴的に過剰発現するHS-PGは、ケモカインを結合して血流による希釈から防御し、同一細胞上のレセプターに転送する。HS-PGが、サイトカインのautocrine刺激機構を媒介する好例である2)。 また、サイトカインが接着する対象細胞上のレセプターに転送されて機能発現する事をjuxtacrine機構と呼ぶ。炎症組織には、T細胞などの炎症性細胞が集積し、免疫応答を司る。末梢循環血中の白血球は、セレクチンとシアロムチンを介して後毛細管細静脈の内皮細胞上に接触した後に、白血球表面に発現するインテグリンを介して内皮細胞と接着して組織内へ遊出する。白血球のインテグリンは、炎症組織内より産生されたケモカイン等によって活性化されて接着性を獲得する。この際、炎症部の内皮細胞は、HS-PGを特徴的に高発現し、HS-PGはケモカインを結合して血流による希釈から防御し、白血球上のレセプターに転送することによってケモカインの機能発現に関与する。HS-PGが、サイトカインのjuxtacrine刺激機構を媒介する好例である3)。 なお、細胞外基質や基底膜に存在するHS-PGは、サイトカインを結合して保蔵庫としての役割を担うが、サイトカインを結合し近傍の応答細胞上のレセプターに転送することによって、サイトカインによる細胞-細胞外基質間のmatricrine刺激機構にも関与する。 以上、HS-PGは、ヘパリン結合性サイトカインを固相化して特定部位に集積し、多様な細胞間刺激伝達機構、即ち、paracrine、autocrine、juxtacrine、matricrine刺激機構を効率よく誘導し、サイトカインを介する情報伝達を最も精巧にする(図1)。さらに、HS-PGは、その多様性に依存して特異的なサイトカインと結合することから、その結合は最も適切な分子複合体を形成するという意味を有する。かような概念は、白血病細胞の浸潤や癌細胞転移の過程のみならず、炎症病態の形成やリンパ球再循環の機序・制御を考える際に新たなる機軸を齎すものと期待される。 |
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田中良哉(産業医科大学・医学部第一内科学) | ||||||||||||||
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2000年 12月 15日 | ||||||||||||||
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