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ポリシアル酸はシアル酸が重合度8-200程度で縮重合したポリアニオンである(1)。最もよく知られている構造はN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)がα2,8結合で縮重合した重合体で、立体構造はN-アセチル基を外側にむけたヘリックス構造をとる。
脳、神経系におけるポリシアル酸構造としては、1982年にトリおよびラット胎仔脳に存在する神経細胞接着分子(NCAM)にその存在が明らかになった。その後、魚類、爬虫類、両生類の発達過程の脳において、その存在が明らかになった。その後、石らは1991年に胎仔脳にのみ存在すると考えられていたポリシアリル化NCAMが、成体脳の非常に限られた部位(海馬と前脳側脳室下帯、ニューロンの新生が成体でも行われている場所)に局在していることを見いだした。1992年には昆虫(ショウジョウバエ)の発達過程の神経系にも検出された。また同じ年には、ラット脳において、電位感受性ナトリウムチャンネルのαサブユニット上にポリシアル酸構造が存在していることも明らかになった。
胎仔から成体へと発生していく過程で、ポリシアル酸は脳・神経系に局在する。NCAMのタンパク質部分は数種のスプライシング変異体を含めて変化しないが、そのポリシアル酸構造のみが胎仔型(ポリシアル酸)から成体型(ジ・モノシアル酸)へと劇的に変化する。このように、ポリシアル酸構造が脳・神経の発達段階特異的に発現調節されているという事実から、最初、ポリシアル酸構造がNCAM同士のホモフィリックな結合を制御している可能性が検証された。これまでのポリシアル酸の機能解析には、細胞表面上のポリシアル酸構造を酵素(Endo-N)により特異的に除去する方法や特異的抗体でエピトープをブロックする方法が主に用いられた。そして数多くの研究から、ポリシアル酸構造はそのかさ高さと負電荷で、細胞と細胞、細胞と細胞外基質の接着を阻害するという抗接着作用を持つことが示された(図1)。従って、ポリシアル酸構造は、NCAM同士だけでなく、他の接着分子の結合を、部位および時期特異的に統合的に制御することによって、神経細胞の移動、軸索ガイダンス、神経繊維の束化、シナプス形成を正常に保つことに深く関わっている分子であると考えられている(2)。また、近年のNCAMのノックアウトマウスの解析により、野生型に比べて、ノックアウトマウスでは嗅球の大きさが減少していること、海馬のCA3領域のLTP(long-term
potentiation, 長期増強)が減少すること、空間認識能力が劣っていること、体内時計が正常に働かないことが示された。その後、ポリシアル酸の機能を直接的に検証するために、NCAM上のポリシアル酸の生合成を担う酵素であるポリシアル酸転移酵素(ST8Sia
II (STX), ST8Sia IV(PST))のノックアウトマウスが作製されている。ST8Sia IVノックアウトマウスでは、脳の広範囲な領域で、ポリシアル酸の発現量が減少し、海馬CA1領域ではLTPやLTD(long-term
depression, 長期抑圧)の減少が見られるが、NCAMノックアウトマウスで見られるCA3領域でのLTPの減少は観察されなかった。またST8Sia
II遺伝子のノックアウトマウスでは、海馬のシナプスの可塑性に変化はなかったが、錐体苔状繊維の誤った誘導により、海馬に異所シナプスが形成されていた。またこのマウスは冒険心が旺盛で、恐怖心が減少していた。ST8Sia
IVとST8Sia IIはその発現場所や発現時期が異なること、またノックアウトマウスの表現系が異なることからも、同じポリシアル酸を合成する酵素でも、担っている役割が異なることが明らかになった。現在ST8Sia
IIとST8Sia IVのダブルノックアウトマウスの解析が進んでいる。なお、電位感受性のナトリウムチャンネル上のポリシアル酸の機能の解析は行われていない。
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References |
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Troy F A II: Sialobiolgy and the polysialic acid glycotope in Biology of the Sialic Acids (Rosenberg A, ed.) Plenum Press, New York and London, pp95-144, 1996 |
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(2) |
Bruses J L, Rutishauser U: Polysialic acid in neural development in Molecular and cellular glycobiology (Fukuda M, Hindsgaul O, eds) Oxford University Press, New York, pp116-128, 2000 |
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(3) |
Sato C: Chain length diversity of sialic acids and its biological significance. Trends Glycosci. Glycotechnol. 16, 331-344, 2004 |
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(4) |
Sato C, Matsuda T, Kitajima K: Neuronal differentiation-dependent
expression of the disialic acid epitope on CD166 and its involvement
in neurite formation in Neuro2A cells.J. Biol. Chem. 277,
45299-45305, 2002 |
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Links
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GP-A03 発生・分化と糖鎖抗原 (福田 穰) |
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GP-B04 オリゴ・ポリシアル酸の生合成 (佐藤ちひろ、北島 健)
ジ・オリゴシアル酸構造の生物学的機能(佐藤ちひろ、北島 健) |
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