Glycoprotein
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オリゴ・ポリシアル酸の生合成

   オリゴ・ポリシアル酸はシアル酸(N-アセチルノイラミン酸, Neu5Ac; N-グリコリルノイラミン酸, Neu5Gc; デアミノノイラミン酸, KDN)が縮重合したオリゴ・ポリマー構造の総称である。シアル酸残基間の結合様式はα2→5O glycolyl, α2→8, α2→9, あるいは α2→8/α2→9結合が知られている(図1)。真核生物においてポリシアル酸含有糖タンパク質として同定されているものは数例であるが、1997年以来、重合度が小さいオリゴシアル酸構造をもつ糖タンパク質の存在が多数例明らかにされている(表1)(1)。糖タンパク質においてオリゴ・ポリシアル酸は、その時間的、空間的に限定された発現様式、構造多様性および単糖にないユニークな物理化学的性質から、発生、分化の過程で細胞間コミュニケーションなどを司る機能性分子として注目されている(2)。これらのオリゴ・ポリシアル酸は結合様式(α2→5O glycolyl, α2→8, α2→9)、構成シアル酸(Neu5Ac, Neu5Gc, KDN)の違い、シアル酸の修飾(O-アセチル基、ラクチル基、硫酸基、ラクトン)の有無、さらには重合度の違い(2-100残基)に起因する構造多様性をもつことから、その生合成過程も複雑である。ここでは比較的研究の進んでいるα2→8結合オリゴ・ポリシアル酸の生合成に焦点をあてて紹介する。ポリシアル酸(重合度100-200)は神経に感染するバクテリアの莢膜多糖として、またオリゴシアル酸(重合度2-4)は糖脂質の構成単位としても存在が知られているが、それらの生合成については割愛する。
Figure
(a)O-型糖鎖上のオリゴ・ポリシアル酸
  ニジマス卵中に存在するポリシアロ糖タンパク質(PSGP)上に伸長するオリゴ・ポリシアル酸鎖は以下のような過程を経て生合成される (3)。
Figure
オリゴ・ポリシアル酸鎖の形成はゴルジ装置あるいは表層顆粒中で行われ、α2,6シアル酸転移酵素(α2,6ST), α2,8シアル酸転移酵素(α2,8ST、開始酵素)、α2,8ポリシアル酸転移酵素(α2,8polyST、伸長酵素)の3種類の酵素が関わっている。またオリゴ・ポリシアル酸伸長反応は非還元末端シアル酸残基にKDN 1残基がα2→8 結合で導入されることによって終結する。PSGPのオリゴ・ポリシアル酸鎖上にはアセチル基やラクチル基がしばしば見られるが、それらの構造の生合成に関わる酵素は同定されていない。
 ニジマス体腔液糖タンパク質中のα2→8結合オリゴKDN鎖 (4)およびウニ卵糖タンパク質におけるα2→5O glycolyl結合オリゴ・ポリNeu5Gc鎖(5)の生合成過程は未解明であるが、後者の場合、伸長反応の終結には非還元末端 Neu5Gc残基の9位への硫酸基の導入が関与すると考えられている。


(b)N-型糖鎖上のオリゴ・ポリシアル酸
  神経細胞接着分子(N-CAM)上に存在するポリシアル酸鎖の生合成の研究は、近年、マウス(6)、ハムスター(7)、ヒト(8)から2種類のα2,8-シアル酸転移酵素、ST8Sia II(STX) および ST8SiaIV(PST)(表2)がクローニングされたことによって大きく進んだ 。現在提唱されているN-型糖鎖上のポリシアル酸鎖の生合成経路を以下に示す。
Figure
ここで伸長反応を触媒するα2,8ポリシアル酸転移酵素(α2,8polyST)はST8Sia IIおよび(または)ST8Sia IVであると考えられるが、開始反応を触媒するα2,8STとこれらのα2,8polySTが同一酵素か異種酵素であるかは現時点でははっきりしていない。ST8SiaIIとST8Sia IVの発現に加えて、細胞内のCa2+濃度がN-CAM上のポリシアル酸の生合成を制御することが明らかにされている(9)。また、伸長反応の終結にはシアル酸残基のアセチル化の関与が示唆されている(10)。
 近年、存在がクローズアップされてきたN-CAM以外の糖タンパク質のN-型糖鎖に存在するオリゴ・ポリシアル酸鎖の生合成過程は全く分かっていないが、糖タンパク質上にもシアル酸をα2→8結合で導入するST8Sia III(表2)の関与が示唆される。


 オリゴ・ポリシアル酸鎖の生合成についてはα2→5O glycolyl結合、α2→9結合の形成を触媒する酵素、置換シアル酸の生合成を触媒する酵素、更にはオリゴ・ポリシアリル酸鎖伸長の終結酵素の同定など興味深い課題が残されている。
佐藤 ちひろ(名古屋大学大学院・生命農学研究科)
北島 健(名古屋大学・生物分子応答研究センター)
References (1) C. Sato, H. Fukuoka, K. Ohta, T. Matsuda, R. Koshino, K. Kobayashi, F. A. Troy II, and K. Kitajima: Frequent occurrence of pre-existing alpha2,8-linked disialic and oligosialic acids with chain lengths up to 7 Sia residues in mammalian brain glycoproteins. J. Biol. Chem. 275, 15422-15431, 2000
(2) Troy, FA II : Polysialylation:from bacteria to brains. Glycobiology 2, 5-23, 1992
(3) Kitazume, S, Kitajima, K, Inoue, S, Inoue, Y, Frederic, A, Troy, FA II : Developmental expression of trout egg polysialoglycoproteins and the prerequisite α2,6-, and α2,8-sialyl and α2,8-polysialyltransferase activities required for their synthesis during oogenesis. J. Biol. Chem. 269, 10330-10340, 1994
(4) Kanamori, A, Inoue, S, Iwasaki, M, Kitajima, K, Kawai, G, Yokoyama, S, Inoue, Y : Deaminated neuraminic acid-rich glycoprotein of rainbow trout egg vitelline envelope. J. Biol. Chem. 265, 21811-21819, 1990
(5) Kitazume, S, Kitajima, K, Inoue, S, Troy, FA II, Cho, J-W, Lennarz, W J, Inoue, Y : Identification of polysialic acid-containing glycoprotein in the jelly coat of sea urchin eggs. J. Biol. Chem. 269, 22712-22718, 1994
(6) Tsuji, S : Molecular cloning and functional analysis of sialyltransferases. J. Biochem. 120, 1-13, 1996
(7) Eckhart, M, Muhlenhoff, M, Betth, A, Koopman, J, Frosch, M, Gerardy-Schahn, R : Molecular cloning of eukaryotic polysialyltransferase I. Nature 373, 715-718, 1995
(8) Nakayama, J, Fukuda, MN, Fredette, B, Ranscht, B, Fukuda, M : Expression cloning of a human polysialyltransferase that forms the polysialylated neural cell adhesion molecule present in embryonic brain. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92, 7031-7035, 1995
(9) Bruses, J L,Rutishauser, U : Regulation of neural cell adhesion molecule polysialylation . J.Cell. Biol. 140, 1177-1186, 1998
(10) Kudo, M, Kitajima, K, Inoue, S, Shiokawa, K, Morris, HR, Dell, A, Inoue : Characterization of the major core structures of the α2→8-linked polysialic acid-containing glycan chains present in neural cell adhesion molecule in embryonic chick brain. J. Biol. Chem. 271, 32667-32677, 1996
2001年 4月 15日

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