GALECTIN
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海産無脊椎動物におけるレクチン

(First version published:1998年3月15日)

 海産無脊椎動物のC型レクチンのうち,これまでにホヤ(Polyandrocarpa misakiensis)レクチンTC14 (1) やグミ(ナマコ類;Cucumaria echinata)レクチンCEL-I (2)の立体構造がX線結晶解析から明らかになっている。これらはC型糖認識ドメイン(carbohydrate-recognition domain; CRD)が2個会合した構造をとっているが,CRDの基本構造は哺乳類のマンノース結合レクチンMBLと大変類似している。また,それぞれのCRDにおいて,結合した糖のOH基とCa2+イオンが配位結合するとともに近くのアミノ酸残基と水素結合ネットワークを形成している点でもMBLと共通の糖結合様式であることがわかった。一般にC型CRDの糖結合部位にはGln-Pro-Asp(QPD)またはGlu-Pro-Asn(EPN)モチーフが含まれており,これらはそれぞれガラクトース及びマンノース特異性に重要であることが示唆されている。実際にCEL-Iの糖結合部位にはQPD モチーフが存在し,そのGalNAc/Gal特異性と一致しているが,TC14についてはGal特異性を示すにもかかわらず,Glu-Pro-Ser(EPS)という,むしろEPNに類似した配列をもっている。これは,TC14がMBLやCEL-Iなどとは3位と4位のOH基に関して逆の配向でガラクトースを結合すること,またガラクトースの疎水面をトリプトファン残基の側鎖が固定していることよるものと考えられる。一方,CEL-IはN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)に対する極めて高い特異性を示すが,これは,GalNAcのアセトアミド基を水素結合やvan der Waals接触によって強く認識するためであることがわかっている。このように海産無脊椎動物のC型CRDは哺乳類のC型CRDと基本的な構造や糖認識機構は似ているが,糖結合部位内のアミノ酸残基の種類と配置を変化させることによって,多様な糖結合特異性を生み出しているものと考えられる。

 グミにはCEL-IのようなC型レクチン以外に,溶血性レクチンCEL-IIIが存在する。このレクチンは細胞表面に糖鎖を介して結合した後に、細胞膜に直接傷害を与えることによって強い溶血作用や細胞傷害性を現わす。CEL-IIIの立体構造もX線結晶解析によって明らかにされ,N-末端側の2つの糖結合ドメイン(ドメイン1,2)とC-末端側の1つの会合性ドメイン(ドメイン3)から成ることがわかった (3)。ドメイン1, 2はリシン型(R型)CRDから成り,それぞれ3つのサブドメインが擬似3回対称性を示すβ-トレフォイル(三つ葉形)構造を持っている。しかしながら,その糖結合様式はむしろC型CRDと非常に類似しており,それぞれのサブドメインに存在するCa2+に糖のOH基が配位結合するとともに,近くのアミノ酸側鎖との水素結合ネットワークを形成することによって糖を認識している。このように,CEL-IIIはR型レクチンとC型レクチンの双方の特徴を有している点でも興味深い。一方,ドメイン3は伸びたβシートを含み,疎水性領域も存在することなどから,膜内で自己会合して膜貫通ポアを形成する領域であることが示唆されている。CEL-IIIは2つの糖結合ドメインで細胞表面糖鎖と結合した後に立体構造変化を起こし,C末端側ドメインが標的細胞膜中でポアを形成するものと考えられ,細菌由来のタンパク質毒素との共通点も多い。

図の説明
グミレクチンCEL-IIIとGalNAcとの複合体。赤はヘリックス,黄色はβシート,紫の球はCa2+イオン,オレンジの球はMg2+イオンを表す。ドメイン1に2個,ドメイン2には3分子のGalNAcが結合している。
畠山 智充(長崎大学・工学部)
References(1) Poget, S.F., Legge, G.B., Proctor, M.R., Butler, P.J., Bycroft, M. and Williams, R.L. (1999) The structure of a tunicate C-type lectin from Polyandrocarpa misakiensis complexed with D-galactose. J. Mol. Biol.290, 867-879.
(2) Sugawara, H., Kusunoki, M., Kurisu, G., Fujimoto, T., Aoyagi, H. and Hatakeyama, T. (2004)  Characteristic recognition of N-acetylgalactosamine by an invertebrate C-type lectin, CEL-I, revealed by X-ray crystallographic analysis. J. Biol. Chem. 279, 45219-45225.
(3) Uchida, T., Yamasaki, T., Eto, S., Sugawara, H., Kurisu, G., Nakagawa, A., Kusunoki, M. and Hatakeyama, T. (2004) Crystal structure of the hemolytic lectin CEL-III isolated from the marine invertebrate Cucumaria echinata: implications of domain structure for its membrane pore-formation mechanism. J. Biol. Chem.279, 37133-37141.
2007年 5月 9日

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