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高等植物におけるstarch synthaseの研究状況

 Starch synthase (SS; EC2.4.1.21)は,グルコースα1,4鎖の伸長反応を触媒し,澱粉合成の中核を担う酵素である.高等植物は複数のSSアイソザイムを有しており,トウモロコシを例にすると, GBSSI, SSI, SSIIa, SSIIb, SSIIIが存在する(Table 1).これらは,C末端側に活性中心を含む互いに相同性が高い領域が存在し,N末端伸長部分の長さは各アイソザイムによって異なる.このうち最も古くから研究されてきたのが,澱粉に強固に結合(granule-bound)しているためにその名が与えられたGBSSIである.この酵素が欠損したwaxy変異体では澱粉がアミロースフリー(モチ)になることから,GBSSIはアミロース合成を行うとされている.他のSSは,アミロペクチン合成に関与し可溶画分に存在するため,SSS (soluble starch synthase)とされてきたが,その後,澱粉結合画分にもある酵素(SSI, SSII)も存在することがわかった.現在では多くの植物では単にSSと称される.近年,変異体や形質転換体の研究を通じて各 SSアイソザイムの機能が解明されつつある.
Table 1
最近、筆者らはレトロトランスポゾンであるTos17を用いたジーンタギング法によってイネのSSI変異体を見出した.この変異体は野生型と比較して種子重に変化はなかったが、アミロペクチンを構成する鎖のうちグルコース重合度(DP)8〜12の鎖が特に減少していた。この結果は、イネのSSIがアミロペクチン分子中の短い鎖(8≦DP≦12)を合成する機能を持っていることを示唆する.

エンドウのrugosus-5変異体はSSIIの変異体である.野生型に比べてアミロペクチンのA鎖の平均鎖長は短く,(A+B1)鎖/(B2+B3)鎖の比は野生型の2倍であったため,エンドウのSSIIがアミロペクチンのB2,B3鎖の形成に関与している可能性が示された(1).一方,ジャガイモのSSIIアンチセンス形質転換体(2)や,SSIIa活性が弱いため独特の糊化特性を示すイネのジャポニカ米(3)のアミロペクチンは,12≦DP≦21の鎖が激減している.このため,これらの植物のSSIIはA+B1鎖を合成していると考えられる.

種子が濁っていることからその名がついたトウモロコシのdull-1はSSIIIの変異体である.野生型に比べて炭水化物含量がやや少なくアミロース含量が高い.また,胚乳澱粉の15%は正常アミロペクチンより低分子で高度に枝分かれしたポリグルカンが占める(4).ジャガイモのアンチセンスSSIII形質転換体のアミロペクチンはB1-B4鎖の割合が減少し,逆にA+B1鎖の割合が増加するとともに澱粉粒の形態が激変し糊化開始温度が低下した.以上の結果は,SSIIIが長鎖長のB鎖の合成に関わることを示唆している.

変異体以外のSSの機能を解明する研究として,GuanとKeeling (1998)(5)はトウモロコシのBEI, BEIIとSSの各アイソザイムを大腸菌で発現させ,生産されたポリグルカンの鎖長分布を調べた.その結果,SSIは6≦DP≦15,SSIIaとSSIIbはそれぞれDP>24と16≦DP≦24をよく合成した.この結果から推察されるSSIとSSIIの機能は,上記のイネのTos17によるSSI変異体およびrugosus-5の結果と一致する.

SSはBEと何らかの親和性をもってアミロペクチン合成を行っている可能性がある(4).今後,遺伝子発現系やin vitro系を用いた実験 ,アミロペクチン構造解析手法の改良,新たな変異体や形質転換体の解析などによって,各アイソザイムのより明確な機能解明と他酵素との相互作用が明確になるであろう.
藤田 直子
(秋田県立大学・生物資源科学部)
References (1) Craig J, Lloyd JR, Tomlinsom K, Barber L,Edwards A, Wang TL, Martin C, Hendley CL, Smith AM, Plant Cell. 10, 413
(2) Edwards A, Fulton DC, Hylton CM, Jobling SA, Gidley M, Rossner U, Martin C, Smith AM, Plant J, 17, 251
(3) Umemoto T, Yano M, Satoh H, Shomura A, Nakamura Y, Theor. Appl. Genet. 104,1
(4) Gao M, Wanat J, Stinard PS, James MG, Myers AM. Plant Cell. 10, 399, 1998
(5) Guan HP, Keeling PL, Trends in Glycosci. Glycotech. 10, 307, 1998
2002年 3月 15日

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