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α-アミラーゼファミリー酵素群の立体構造と作用機作

 α-アミラーゼファミリーに属する酵素は共通の活性に必須な3残基(1つのグルタミン酸と2つのアスパラギン酸)を有している。これまでX線により立体構造が解析された酵素はすべて基本骨格として(β/α)バレルという超2次構造をもっており、活性部位は常に中心β-バレルの第3、4番目のβ鎖のC-末端側に位置している。これらのことから、デンプン加水分解の活性発現機構はファミリー酵素において共通していると考えてよい。立体構造については(β/α)バレルを中心とする主ドメイン以外に、酵素によって特有のポリペプチド鎖の折れたたみと主ドメインとの相対位置を有するいくつかの副ドメインが存在している。副ドメインの役割についてはまだ完全には理解されていないが、生デンプン吸着能のある酵素については一般にC-末端のドメインがその機能を担っているようである。またファミリー酵素における基質結合特異性の差異も、主ドメインに隣接し、これと合わせて活性クレフトを形成する副ドメインの構造が関与しているようである。
 
 活性3残基の役割については最近筆者らによって行われた Pseudomonas stutzeri マルトテトラオース生成α-アミラーゼ(G4-アミラーゼ)の突然変異体と基質との複合体の解析で得られた結果をもとに説明する(1,2)。この機構はα-アミラーゼファミリー酵素一般の活性発現機構と考えてよいだろう。


1.Glu219(Glu230:タカアミラーゼ)

このアミノ酸残基は常にファミリー酵素の間で保存されているが(保存領域3)、その前後に同様に保存性の高い残基がなく、孤立した保存性残基となっている。本残基のカルボキシル基は周囲の環境によってpKa が高められていると推測され、そのため基質結合と同時にプロトンを放出し、グルコシド結合に付加することによって、結合の開裂を起こすと考えられる(acid catalyst)。


2.Asp193 (Asp206:タカアミラーゼ)

本残基のカルボキシル酸素のひとつは切断位の糖(-1位)のC-1原子に非常に近接していることがX線解析から明らかになっている。このことから加水分解反応中間体形成に関与している可能性が示唆される (base catalyst/nucleophile)。反応中間体が糖のカルボニウムイオン型をとるか、本残基の側鎖カルボキシル酸素との間に共有結合を作るかは議論の分かれるところである。最近、共有結合した中間体を単離してX線解析したという報告(3)があるが、安定な単離状態で共有結合が存在したからという理由からでは、真の反応中間体が共有結合型であるとは言い切れないだろう。筆者は反応中間体に関しては、どちらとも言えない中間型、あるいは反応の進行に伴って両型を経過するのではないかと考えている。


3.Asp294 (Asp297:タカアミラーゼ)

本残基の役割については、G4-アミラーゼの活性残基の5種の変異体とマルトテトラオースの複合体の詳細な構造解析により明らかにされた(2)。これによると本残基がアスパラギン酸のままであると、-1位の糖が歪んだ構造をとって酵素に結合しているのが観測されるが、アスパラギン変異体では歪みがとれて、ほぼregular-chair型の糖構造をとること、また本変異体との複合体では、マルトテトラオースの結合が弱くなっていることを示唆する結果が得られた。これらのことから本残基の役割は、-1位の糖の O-2、O-3 に強く水素結合することにより、基質結合力を強め、かつ加水分解反応を誘引するように歪みを与えることであると結論できる (fixer)。
以上をまとめて、加水分解反応への3残基の関わりを示す反応模式図を示す。

松浦良樹 (大阪大学蛋白質研究所)
References (1) Y, Yoshioka et al., J. Mol. Biol. 271, 619-628, 1997
(2) K, Hasegawa et al., Protein Eng., 12, 819-824, 1999
(3) J. Uitdehaag et al., Nature Str. Biol. 6, 432-436, 1999
1999年 12月 15日

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