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オリゴ糖シグナル受容体

 オリゴサッカリンと呼ばれるオリゴ糖は、どのような機構で高等植物に細胞応答を誘導するのだろうか。 

 生体防御反応を誘導するエリシターのうち、特定の構造を持ち低濃度で作用するものは、受容体を介したシグナル伝達経路が存在すると考えられている。事実、結合試験や親和性標識によって、いくつかのエリシター結合蛋白質が受容体候補として同定されている。
 最もよく調べられているダイズ細胞膜上のヘプタβ-グルコシドエリシター結合蛋白質は、分子量75kDaのシングルポリペプチドで、単一に精製されcDNAクローニングによりアミノ酸配列が決定されている。ヘプタβ-グルコシドに対する親和性はエリシター活性に必要な濃度と良く一致し(Kd=0.8-3nM)、ヘプタβ-グルコシドの構造アナログをいくつか化学合成して調べると、エリシター活性と結合阻止活性に良い相関関係があることから、この蛋白質は受容体として機能していると考えられている。しかし既知の蛋白質とホモロジーがなく、シグナル伝達過程における役割の解明は今後の課題である。
 キチンオリゴ糖に対する結合部位は、トマトとイネの細胞膜上で同定されている。イネの結合蛋白質はキチンオリゴ糖などに対する結合親和性と特異性がエリシター活性と良く一致するので、一連の細胞初期応答や生体防御反応に至るシグナル伝達の受容体として機能していると考えられている。分子量(75kDa)がヘプタβ-グルコシド結合蛋白質と似ていることから、この二つは関連性の高い蛋白質である可能性もある。現在この蛋白質のクローニングが進められている。
 キトサンオリゴ糖は比較的高濃度でエリシター活性を示すため、受容体を介してよりはポリアニオンとして細胞膜に直接作用すると考えられている。
 酵母細胞壁由来の糖ペプチドエリシター、gp8Cの結合蛋白質はトマト細胞膜上で同定されているが、サプレッサーであるgp8Cオリゴ糖はアンタゴニストとしてgp8Cのこの蛋白質に対する結合を阻止することが明らかとなった。この結合蛋白質は部分精製されている。
 エリシター・受容体相互作用は植物の病原菌に対する抵抗性の決定に重要な役割を果たしていると考えられる。糖質エリシターの結合蛋白質は、いろいろな植物種に存在することから品種特異的な抵抗性よりは広範囲の基本的な抵抗性に関与していると考えられる。

 宿主に根粒形成を誘導するリポキチンオリゴ糖(Nod-factor)の作用機構の研究は緒についたばかりであるが、低濃度で作用することから受容体が関与している可能性が大きい。Nod-factorに対する高親和性結合部位は今のところアルファルファの細胞膜でのみ見いだされており、この結合にはオリゴ糖骨格だけでなく非還元末端糖残基の特定の置換基も必要であることなどが明らかになった。この結合蛋白質の根粒形成における役割や宿主特異性の決定との関係などは今後の課題である。

 オリゴガラクツロン酸は生体防御から形態形成までいろいろな応答を誘導するが、それぞれの系で活性に必要な最小濃度や重合度など作用の仕方が異なり、オーキシンの効果を阻害することにより作用すると考えられる場合も多い。タバコ組織切片における形態形成誘導の系ではnMレベルで作用を示すので、受容体の関与が示唆されている。オリゴガラクツロン酸結合蛋白質の同定、オーキシンの作用との関係などが今後の課題である。
 キシログルカンオリゴ糖もそれぞれの系ごとに作用機構が研究されている。オーキシンによるエンドウ上胚軸の伸長を阻止する系ではキシログルカンオリゴ糖はnMレベルで作用し、特定のフコース残基が活性に必須なため、受容体の関与が示唆されている。しかし結合蛋白質の存在は報告されていない。
 
 オリゴ糖シグナル受容体の下流におけるシグナル伝達機構および、細胞応答につながる遺伝子発現調節の研究については次項を参照していただきたい。
Figure 1. Microbial elicitors of plant defense responses
伊藤 ユキ(農水省農業生物資源研究所・生物工学部)
References (1) P, Albersheim et al., Oligosaccharins: Oligosaccharide Regulatory Molecules, Accounts of Chemical Research, 25, 77-83, 1992
(2) T, Boller, Chemoperception of microbial signals in plant cells., Ann. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol., 46, 189-214, 1995
(3) MG, Hahn, Microbial Elicitors and Their Receptors in Plants, Ann. Rev. Phytopathol., 34, 387-412, 1996
(4) F,Gressent et al, Ligand specificity of a high-affinity binding site for lipo-chitooligosaccharidic Nod factors in Medicago cell suspension cultures, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 4704-4709, 1999
(5) 伊藤ユキ、渋谷直人、エリシター受容体、蛋白質・核酸・酵素、 44、2322-2330, 1999
2000年 3月 15日

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