Proteoglycan
Japanese












ショウジョウバエのグリコサミノグリカン

 プロテオグリカンはコアタンパク質とグリコサミノグリカンから構成される分子で,細胞外マトリックスと細胞表面に存在している。最近まで,グリコサミノグリカンは主に脊椎動物を用いて研究されていた。しかしながらショウジョウバエを用いた遺伝学的な実験によって,グリコサミノグリカンがこの無脊椎モデル生物の正常な発生に必要であることが明らかにされた(1)。

われわれは,酵素消化によって特異的に生成する二糖をHPLCで分離定量する,ショウジョウバエや線虫グリコサミノグリカンの構造解析法を報告した(2)。両者から,コンドロイチン硫酸とヘパラン硫酸から生じる二糖が検出されたが,この実験でΔDi-HAは検出することができなかった。ショウジョウバエのグリコサミノグリカンのコンドロイチナーゼ消化では,非硫酸化と4-O-硫酸化の不飽和二糖が生成し,線虫からは硫酸化を受けていない不飽和二糖のみが検出された。このことは,ほとんどの二糖単位が4あるいは6-O-硫酸化されている,様々な動物の軟骨に見いだされるコンドロイチン硫酸とは対照的である(Fig. 1)。さらに,コンドロイチナーゼABCとACIIおよび,ACIIの単独消化によって等しい量の不飽和二糖が生成することから,ショウジョウバエや線虫にはデルマタン硫酸は存在しないか非常に少ないレベルであることが示唆された。また,ショウジョウバエのコンドロイチン硫酸から生じる不飽和二糖の組成が,血漿に存在するインター-α-トリプシンインヒビターファミリーの構成成分であるビクニンの場合と似ていることは非常に興味深い(Fig. 1)。
図1 コンドロイチン硫酸由来不飽和二糖のクロマトグラム
ヘパリナーゼによるショウジョウバエおよび線虫グリコサミノグリカンの消化によって,脊椎動物と同様の,N-, 2-O-, 6-O- 位が硫酸化された,non-, mono-, di-, tri- 硫酸化の不飽和二糖が生成した(Fig. 2)。グリコサミノグリカンの際立った特徴の一つは,組織の相違に応じて見られる構造多様性である。そこでショウジョウバエがヘパラン硫酸の構造と機能を研究するモデルシステムとなり得るかどうかを調べるために,われわれは,異なる発生段階と組織のヘパラン硫酸を分析した(2)。実際に,ショウジョウバエは組織および発生段階特異的なヘパラン硫酸の変化を示した(Fig. 3)。例えばΔUA-GlcNS6Sの割合は,幼虫や成虫に比べて胚で相対的に高くなっている。グルコサミンの6-O-硫酸は,発生を通じて成長因子のシグナル伝達を制御するため非常に重要である(3)。
図2 ヘパラン硫酸由来不飽和二糖のクロマトグラム
図3 組織および発生段階の相違におけるショウジョウバエ ヘパラン硫酸の比較
コンドロイチナーゼ消化後に2-アミノベンズアミドを用いた標識を行うことによって,ショウジョウバエのグリコサミノグリカンの結合領域が単離された(4)。コンドロイチン硫酸由来の結合領域四糖は -GlcA-Gal-Gal-Xyl(2-O-phosphate)- の単一構造であった。これに対してヘパラン硫酸では,-GlcA-Gal-Gal-Xyl- と-GlcA-Gal-Gal-Xyl(2-O-phosphate)- の比率が73:27であることが明らかにされた。

最近,脊椎動物のグリコサミノグリカン合成に関与する酵素に相同性を持つタンパク質をコードする,ショウジョウバエの三つの遺伝子がWnt,TGF-, Hedgehog, 繊維芽細胞増殖因子によるシグナル伝達に影響を及ぼすことが示された(1)。酵素消化とHPLCを組み合わせた方法により,これら三つの遺伝子に変異のあるハエのグリコサミノグリカンが詳細に分析された(5)。UDP-グルコース脱水素酵素の相同タンパク質をコードする sugarless の変異体では,UDP-グルクロン酸産生の異常から予想されるようにコンドロイチン硫酸とヘパラン硫酸の両方の合成が阻害されていた。脊椎動物のN-脱アセチル化/N-硫酸転移酵素に相同性を持つタンパク質をコードするsulfateless の欠損の場合は,コンドロイチン硫酸は質的・量的に変化していなかったが,ヘパラン硫酸から生じた不飽和二糖の組成が変化しており,硫酸化された二糖単位が消失して硫酸化を受けていない二糖に完全に置き換わっていた。脊椎動物のEXT1(本シリーズB08),すなわちヘパラン硫酸伸長酵素に関連するtout-velu の変異では同様に,コンドロイチン硫酸合成に影響はなかったが,ヘパラン硫酸が検出限界以下に減少していた。以上のことは,グリコサミノグリカンの機能をin vivoで研究するモデル生物としてのショウジョウバエの有用性を示している。
豊田英尚(千葉大学大学院薬学研究院)
References (1) Selleck, S.B. (2000) Trends Genet. 16, 206-212
(2) Toyoda, H., Kinoshita-Toyoda, A., and Selleck, S.B. (2000) J. Biol. Chem. 275, 2269-2275
(3) Nakato, H., and Kimata K. (2002) Biochim. Biophys. Acta 1573, 312-318
(4) Yamada, S., Okada, Y., Ueno, M., Iwata, S., Deepa, S.S., Nishimura, S., Fujita, M., Die, I.V., Hirabayashi, Y., and Sugahara, K. (2002) J. Biol. Chem. 277, 31877-31886
(5) Toyoda, H., Kinoshita-Toyoda, A., Fox, B., and Selleck, S.B. (2000) J. Biol. Chem. 275, 21856-21861
Dec.19, 2002

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