GALECTIN
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生体防御因子コレクチン

  コレクチン(Collectins, Collagen-like lectins)は分子内にコラーゲン様領域(グリシンが3つ目毎に繰り返されるトリプレット配列)と、C型(Ca2+ 依存性)レクチンに共通に保存されている糖認識ドメイン(CRD)をもつ一群の動物レクチンである。コレクチンとしては、1)マンナン結合タンパク質(MBP)(マンノース結合タンパク質、マンナン結合レクチン:MBLともいう)2)コングルチニン 3)コレクチン-43(CL-43)4)肺表面活性物質アポタンパク質A(SP-A) 5)肺表面活性物質アポタンパク質D(SP-D)の5つが知られている。これらのレクチンの糖結合特異性はマンノース、N-アセチルグルコサミン、フコース、グルコースである。SP-Dはマルトースに最もよく結合する。コレクチンは最近、抗体非依存性の先天性免疫に関わる生体防御因子として注目されている(1)。


 コレクチン分子は共通の特徴的なサブユニット構造および三次元構造をもつ。すなわち、1つのサブユニットポリペプチド(30kDa〜45kDa、222〜355アミノ酸残基)はN末端側より、高システイン領域、コラーゲン様領域、ネック領域、糖認識ドメイン(CRD)の4つのドメインから成る。同一のサブユニット(ヒトSP-Aは2種のよく似たサブユニット)3本がN末端におけるジスルフィド結合、コラーゲン様領域での三重ヘリックス、ネック領域のα-ヘリックスによるコイルド-コイルにより束ねられ、構造基本単位となる。この構造基本単位がN末端でさらにジスルフィド結合することにより、3〜6個束ねられた花束型(MBP、SP-A)、4個束ねられた十字架型(コングルチニン、SP-D)分子を形成する(図参照)。この多量体形成によりCRDはクラスターを形成し、糖リガンドと多価の、親和性の高い結合能を得る。


 MBP、コングルチニン、CL-43は肝細胞で合成され、血清中に分泌される。MBPは哺乳類血清中に広く存在し、コングルチニンとCL-43はウシ科動物の血清中にのみ見出されている。SP-AとSP-Dは主として肺胞タイプII細胞およびクララ細胞で合成され、肺胞中に分泌される。血清中のMBP含量は出生後有意に増加し、健常人中でも個体差が大きい。炎症性疾患時に増量し、長く高値を示す。


 コレクチンのゲノム遺伝子構造は共通の特徴をもつ。すなわち、シグナルペプチド、N末端、コラーゲン様領域のうちの数個のGly-Xaa-Yaaが1つのエキソンでコードされ、残りのコラーゲン様領域は1〜4個のエキソンに分かれてコードされ、つなぎ目のネック領域とCRDはそれぞれ別々のエキソンでコードされていることである(2)。ヒトの場合、全コレクチン遺伝子が第10染色体q22-23にクラスターとなって存在している。


 MBPは微生物表面のマンノースを含む糖鎖と結合すると、古典的経路の補体第一成分の主成分C1q(MBPの分子構造はC1qと極めて類似している)の非存在下に、C1r2C1s2と(3)、あるいは新規のC1s様セリンプロテアーゼMASP(MBP-associated serine protease)-1,-2と複合体を形成し、補体を活性化し、殺菌作用や細胞傷害作用を示す(レクチン経路と呼ばれる)。MBPの構造遺伝子の第1エキソンにおける3つの点突然変異が知られている。これらの変異はMBPのオリゴマー形成を妨げ、変異体保有者は何らかの原因で血中MBP濃度が著しく低下し、小児期に(最近、成人例の報告もある)重篤な感染を繰り返す。

図の説明
MBPとコングルチニンの分子構造と生物活性の模式図。
MBPは構造基本単位の3〜6量体を形成している(図には6量体を横から見た場合を示す)。コングルチニンは構造基本単位の4量体として存在し、X字構造を示す。図には示さないが、SP-Aは6量体で、MBPと同様の花束型であり、SP-Dはコングルチニンと同様の4量体X字構造である。CL-43は構造基本単位のみである。MBP、コングルチニン分子の中央底部の茶色の部分は‘hub’様構造を示す。
 コレクチンはいずれも多形核白血球やマクロファージによる微生物貪食作用促進効果を示す。このオプソニン作用には、食細胞上のコレクチンレセプターの関与が示されている。コレクチンレセプターにはC1qレセプターとも呼ばれる56kDa,126kDaのレセプター、SP-Aの210kDaのレセプターなどが知られるが、その働きの実態については今後の解明が待たれる。さらに最近、SP-A遺伝子ノックアウトマウスの作成が報告された。 Streptococcus病原体を投与したところ、肺の浸潤はより重篤であり、肺の菌体量は増加していた。SP-Aが肺の生体防御に働いていることを示している。また、MBP、コングルチニンはin vitroでHIVやインフルエンザウイルスの細胞への感染を阻害する。


 以上のように、コレクチンは細菌や酵母、真菌、寄生性原生動物、ウイルスなどさまざまな微生物の表面に特有の糖鎖構造に結合し、補体依存的に、あるいは直接オプソニン効果によって、標的異物の排除に働き、先天性免疫に重要な役割を果たしている。新しい生体防御因子として、医薬品としての応用、利用も期待される。
川嵜 伸子(京都大学・医療技術短期大学部)
References(1) Lu-J: Collectins: collectors of microorganisms for the innate immune system. BioEssays, 19, 509-518, 1997
(2) Kawasaki, N, Itoh, N, Kawasaki, T: Gene organization and 5'-flanking region sequence of conglutinin: a C-type mammalian lectin containing a collagen-like domain. Biochem. Biophys. Res. Commun. 198, 597-604, 1994
(3) Ikeda, K, Sannoh, T, Kawasaki, T, Kawasaki, N, Yamashina, I: Serum lectin with known structure activates complement through the classical pathway. J. Biol. Chem. 262, 7451-7454, 1987
1998年 3月 15日

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