GALECTIN
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ガレクチン:定義と命名の経緯

  1992年に提唱された動物レクチンの一家系に対する総称(1)。ガラクトースに対する結合特異性を有することと、ガレクチン家系を特徴づけるアミノ酸一次配列をもつことがガレクチンとしての条件。一般に、可溶性で、金属要求性はない。細胞質タンパク質としての属性を示し、ジスルフィド結合、付加糖鎖、シグナル配列をもたず、一般にN-末端アミノ酸はアセチル化されている。しかし、発現場所は細胞質内にとどまらず、核、細胞表面、細胞外マトリックスと多彩で、ガレクチン分子の種類、組織、時期によって異なることが多い。分泌機構に関しては不明な点が多く、シグナル配列を介さない新規なモデルが想定されている(2)。現在まで、ガレクチンは脊椎動物をはじめ、線虫、昆虫、海綿動物などの無脊椎動物にも広く分布することが知られているが、最近、真菌類(キノコ)においてもガラクトース結合活性をもったガレクチンの存在が証明されている。ガレクチンの関与する生命現象としては、発生、分化、形態形成、腫瘍転移、細胞死、RNAスプライシング等、多岐に及ぶが、機能発現の機構、特に糖鎖認識との関連については未解決部分が多い。


 現在まで報告されているガレクチンはその分子構築様式にもとづいて、プロト、キメラ、直列反復型の三型に分類できる(図参照)(3)。一方、哺乳類ガレクチンについては、発見順(GenBankへの登録順)に番号を付して呼ぶことが提唱されている。この方式に従い、現在までに10種類以上の哺乳類ガレクチンの存在が確認されている。一方、哺乳類以外のガレクチンについては相互の対応付けが困難な場合が多いことから、この統一番号方式は採用しない(たとえば、「線虫のガレクチン-4」という表現は誤り)。
図
 ガレクチンの発見は1975年、V. Teichbergらが電気ウナギの発電器官をはじめとする様々な動物組織の抽出物中に、βガラクトシドで阻害のかかる低分子量(14-16 kDa)の赤血球凝集素を見出したことによる。以来、類似の性質のレクチン(当時は可溶性βガラクトシド結合性レクチンと呼ばれることが多かった)が、ニワトリ、ウシ、ヒト、ラットなどから多く見つかり、生化学的性質、組織分布、発生・分化との関わり合いが調べられた。


 これらのレクチンは、概して活性の維持にチオール性還元剤が必要であったことから、1988年にK. Drickamerが動物レクチンの一家系であるC-型レクチンと対比させてS-型レクチン(「SH要求性」の意)と呼ぶこととなり、多くの研究者がこれにならった。しかし、J. Wangらがマウス3T3細胞から単離した分子量35kDaのレクチン(当時CBP35と命名、後のガレクチン-3。Mac2抗原と同一分子。)は、cDNAクローニングの結果、先に構造決定された低分子型のレクチン(ガレクチン-1)と同じ家系のタンパク質であることが判明したにも関わらず、チオール性還元剤がなくても高い活性を維持した。一方、ガレクチン-1をシステインの修飾試薬であるモノヨードアセタミドでアルキル化すると、糖結合活性は失われず逆に安定化する、というP. Whitneyらの報告はこの呼称に対する疑問を投げかけた。J. Hirabayashiらは、部位特異的変異法によりヒトガレクチン-1の6つのシステイン残基のいずれかをセリンに置換した変異ガレクチンすべたが結合活性を十分保っていることを示し、ガレクチンが当初想定されたようなSH要求型でないことを証明した。現在では、ガレクチン-1に存在するいくつかのシステイン残基が酸化的環境で異常なジスルフィド結合を形成することで構造変異が起こり、いわゆる酸化的失活を起こすものと考えられている。
平林 淳(帝京大学・薬学部)
References"Recent Topics on Galectins" (1997, ed. J. Hirabayashi) Trends Glycosci. Glycotechnol. 9 (45)
(1) Barondes, S.H., et al.: Galectins: a family of animal b-galactoside-binding lectins. Cell 76, 597-598, 1994
(2) Cooper, D.N.W. and Barondes, S.H. : Evidence for export of a muscle lectin from cytosol to extracellular matrix and for a novel secretory mechanism. J. Cell Sci.110, 1681-1691, 1990
(3) Kasai, K. and Hirabayashi, J. : Galectins : a family of animal lectins that decipher glycocodes. J. Biochem. (Tokyo) 119, 1-8Jun Hirabayashi (Teikyo University, Faculty of Pharmaceutical Sciences)
1997年 12月 15日

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