Immunity & Sugar Chain
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CD22(Siglec-2)のリガンド発現制御

CD22とは?

CD22(Siglec-2)はB細胞に発現し、その細胞内ドメインに細胞内シグナル伝達を負に制御することが考えられるITIM(Immuno-receptor tyrosine inhibitory motif)配列を持つ。CD22のITIMがリン酸化されると、主にシグナル伝達を負に制御するチロシンフォスファターゼのSHP-1をリクルートする。CD22はSHP-1活性を介して、B細胞抗原受容体からの抗原刺激シグナルに応じたB細胞でのカルシウムイオンの動員の負の制御を行っていると考えられている。一方、CD22はI型膜貫通タンパク質であり、細胞外ドメインにレクチンドメインを持ち、I-タイプレクチンのうちシグレックファミリーに属する(1)。CD22はレクチンドメインを介してα2-6結合したシアル酸を認識するが、主に同じ膜上のシスリガンドと結合していると考えられている(図1)。


図1

CD22の糖鎖リガンド

CD22は糖鎖末端に存在するシアル酸がラクトサミンにα2-6結合した(Sia α2-6 LacNAc)構造を認識するレクチン活性を持つ。この糖鎖リガンドの生合成にはB細胞に発現するST6Gal Iが関わっており、この酵素はシアル酸をα2-6結合でガラクトースに転移する活性を持つ。CD22をはじめとするSiglecファミリー多くのメンバーは同じ膜上で隣り合わせる糖鎖リガンドとシス結合と呼ばれる様式で結合することが想定されている。マウスのCD22はα2-6結合したシアル酸分子種のうちN-グリコリルノイラミン酸をシアル酸として持つ糖鎖に高い親和性で結合する。これはマウスB細胞でN-グリコリルノイラミン酸が主要なシアル酸分子種である事と合致する。一方、ヒトのCD22にはシアル酸のα2-6結合特異性はあるものの、N-グリコリルノイラミン酸に対するシアル酸分子種特異性はなく、N-アセチルノイラミン酸を持つシアロ糖鎖とも結合する。また、シアル酸の別の部位におこる修飾のうち9-O-アセチル化によってCD22の結合が阻害される(2)。また、最近、CD22のリガンド糖鎖のキャリアータンパク質はCD22であることも示唆されている(3)。これらのことから、CD22リガンド糖鎖の発現制御には、リガンド糖鎖キャリアータンパク質の発現、糖転移酵素、シアル酸修飾および脱修飾の活性等、様々な形でその発現が制御される可能性を持つ。

活性化B細胞でのCD22リガンド発現抑制

前述のようにCD22は、B細胞に豊富に存在するシスリガンドと通常結合していることが考えられ、そのリガンド発現がB細胞の状態の変化に伴い変化するのかについては、あまり研究が進んでいなかった。最近、T細胞依存性抗原で免疫されたマウスの胚中心に存在する活性化B細胞ではCD22のリガンド発現が特異的に抑制されていおり、CMP-Neu5Ac水酸化酵素の発現低下に伴うNeu5Gcの発現が抑制されていることが明らかになった(4)。この結果は、B細胞上で比較的恒常的に発現するCD22に対して、CD22のリガンド発現は、一様におこっているわけではなく、in vivoで活性化された胚中心において、シアル酸の分子種を変化させることで、ダイナミックでかつ特異的にその発現が抑制されていることを示唆する意義深いものであると考えられた(図2)。ヒトのB細胞活性化をin vitroで誘導するとCD22が同じ膜上でシスリガンドから離れ、膜外の(トランス)リガンドとの結合を許容するunmaskingという現象の報告もあり(5)、非活性化成熟B細胞と活性化B細胞でCD22の糖鎖リガンドの発現量はCD22の機能を調節するように発現制御されていると考えられる。


図2

CD22リガンド機能

CD22の糖鎖リガンドの機能はリガンドを生合成するのに必要なSt6gal1遺伝子ノックアウトマウスおよびCD22のリガンド結合ドメインを変異・欠損させた変異型Cd22のみを発現できるように遺伝子改変されたノックインマウスを用いた系で検証されてきている。この両者の表現型およびCd22欠損マウスの表現型は必ずしも一致せず、現時点でCD22のリガンドの機能については必ずしも完全なコンセンサスが得られているわけではない。St6gal1の遺伝子欠損で見られるBCR刺激時のカルシウムイオンの流入の減弱(6)がCD22とのダブルノックアウトマウスにおいてCd22欠損で見られるカルシウムイオン流入の亢進する表現型にそろうため、CD22の糖鎖リガンドの生理的機能はCD22のB細胞抗原受容体からの抗原シグナルの調節にあると報告された。(7)。ただし、遺伝学的に考えると、両者の表現型のうちCD22の作用点が下流であり、表現型が優性であるともとれ、培養細胞レベルでは異なる表現型が報告されていることからも、さらなる別の系での解析が求められる。一方、CD22の糖鎖認識部位に変異を入れたノックインマウスの報告によると、CD22の糖鎖認識能力の有無により、明らかなカルシウム流入の変化は見られなかった(8)。CD22が糖鎖リガンドを介する細胞機能に関しては、さらなる多面的で詳細な解析が必要であると思われる。

竹松 弘(京都大学大学院生命科学研究科)
References (1) Crocker, P. R. & Varki, A. (2001) Siglecs in the immune system. Immunology.,103, 137-45.
(2) Sjoberg, E. R., Powell, L. D., Klein, A. & Varki, A. (1994) Natural ligands of the B cell adhesion molecule CD22 beta can be masked by 9-O-acetylation of sialic acids. J Cell Biol.,126, 549-62.
(3) Han, S., Collins, B. E., Bengtson, P. & Paulson, J. C. (2005) Homomultimeric complexes of CD22 in B cells revealed by protein-glycan cross-linking. Nat Chem Biol.,1, 93-97.
(4) Naito, Y., Takematsu, H., Koyama, S., Miyake, S., Yamamoto, H., Fujinawa, R., Sugai, M., Okuno, Y., Tsujimoto, G., Yamaji, T., Hashimoto, Y., Itohara, S., Kawasaki, T., Suzuki, A. & Kozutsumi, Y. (2007) Germinal Center Marker GL7 Probes Activation-Dependent Repression of N-Glycolylneuraminic Acid, a Sialic Acid Species Involved in the Negative Modulation of B-Cell Activation. Mol Cell Biol.,27,3008-22.
(5) Razi, N. & Varki, A. (1998) Masking and unmasking of the sialic acid-binding lectin activity of CD22 (Siglec-2) on B lymphocytes. Proc Natl Acad Sci USA.,95, 7469-74.
(6) Hennet, T., Chui, D., Paulson, J. C. & Marth, J. D. (1998) Immune regulation by the ST6Gal sialyltransferase.Proc Natl Acad Sci U S A.,95, 4504-9.
(7) Collins, B. E., Smith, B. A., Bengtson, P. & Paulson, J. C. (2005) Ablation of CD22 in ligand-deficient mice restores B cell receptor signaling.Nat Immunol.,7, 199-206.
(8) Poe, J. C., Fujimoto, Y., Hasegawa, M., Haas, K. M., Miller, A. S., Sanford, I. G., Bock, C. B., Fujimoto, M. & Tedder, T. F. (2004) CD22 regulates B lymphocyte function in vivo through both ligand-dependent and ligand-independent mechanisms. Nat Immunol.,5, 1078-87.
2007年5月11日

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