Immunity & Sugar Chain
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ムチンと免疫応答

免疫応答と関連して、ムチンは主に2つの観点から研究されてきた。すなわち、1)癌患者の免疫療法、2)担癌状態における免疫機構への影響である。

ムチンを用いた癌患者の免疫療法
ムチン上に発現している癌関連糖鎖抗原に対する単クローン抗体は、診断や免疫療法の手段として用いられてきた。最も詳細に研究されているMUC1の場合、通常癌化に伴ってコアタンパク質の低グリコシル化が見られる。癌患者の血清中にMUC1特異的抗体が検出される患者は、経過が良好であることが知られている。近年、細胞性免疫を利用した癌免疫療法のターゲットとしてMUC1分子が詳細に研究されている。MUC1は、MHC非拘束と拘束の2通りの方法でT細胞に認識される。前者では、膵癌や乳癌の患者のリンパ節より、CD3+, CD8+ MUC1特異的細胞障害性T細胞(CTL)が単離され、このCTLは直接MUC1分子を認識した。後者のケースでは、MHCクラスIIによる糖ペプチドの抗原提示について相反するデータが示されている。乳癌や膵癌の患者の腹水より単離されたMUC1は、樹状細胞にプロセスされず、MHCクラスII拘束性T細胞は誘導されなかった。それに対して、Finnらは、樹状細胞に取り込まれプロセスされたMUC1糖ペプチドは糖鎖を除去されることなくMHCクラスII分子上に提示されることを示した。すなわち、糖ペプチド特異的T細胞のレパートリーの存在を示した。O-グリコシル化される部位と構造が免疫応答に重要なのであろう。癌細胞のMUC1の糖鎖は正常細胞のそれと異なり、糖ペプチドエピトープは癌特異的で免疫療法に有効であろう。MUC1由来の糖ペプチドがMHCクラスI分子に結合することも明らかにされている。グリコシル化されたMUC1のタンデムリピートの一部、SAPD(T-GalNAc)RPA、がMHCクラスI(H-2Kb)に結合し、その親和性はペプチド、SAPDTRPA、より約100倍高い。この糖ペプチド特異的CTLは、MUC1を発現している癌細胞に対する障害活性を持つ。

免疫機構へのムチンの影響
一般的にMUC1発現癌細胞をもつ患者は、MUC1を発現していない癌細胞をもつ患者より生存率が悪い。MUC1は、NK、LAK及びCTL細胞の細胞障害活性を抑制する。恐らく、MUC1分子が細胞表面から突出した棒状分子であることによるものであろう。さらに、可溶性MUC1もNK細胞による標的細胞の障害やT細胞の増殖を抑制するという報告もあるが、そのメカニズムは明らかにされていない。最近、我々は腸癌細胞の産生するムチンが、単球やマクロファージを活性化することを見いだした。我々は、図に示すようなカスケードが存在するものと考えている。すなわち、癌細胞によりムチンが産生される。浸潤してきたマクロファージはスカベンジャー受容体を介してムチンにより活性化され、シクロオキシゲナーゼ2 (COX-2) の誘導に続き、プロスタグランジンE2 (PGE2) の産生亢進をもたらす。マクロファージより産生されたPGE2は癌細胞や他の細胞上のEP2受容体に結合し、それらの細胞を活性化することにより血管内皮増殖因子 (VEGF) などを含む因子を産生する。PGE2が免疫やアポトーシスを抑制することはよく知られている。ムチンを起点とした一連の反応が、上皮性癌組織において癌細胞の増殖に有利な環境を整えているものと思われる。

SAPDTRPA=Ser-Ala-Pro-Asp-Thr-Arg-Pro-Ala



癌組織微小環境におけるムチンを起点としたカスケード
中田 博(京都産業大学工学部)
References (1) Nakada H: グライコワード "癌化とムチン(GP-A06)"
(2) Vlad AM, Muller S, Cudic M, Paulsen H, Otvos L Jr, Hanisch FG, Finn OJ. Complex carbohydrates are not removed during processing of glycoproteins by dendritic cells: processing of tumor antigen MUC1 glycopeptides for presentation to major histocompatibility complex class II-restricted T cells. J. Exp. Med. 196, 1435-1446, 2002
(3) Apostolopoulos V, Yuriev E, Ramsland PA, Halton J, Osinski C, Li W, Plebanski M, Paulsen H, McKenzie IF: A glycopeptide in complex with MHC class I uses the GalNAc residue as an anchor. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 15029-15034, 2003
(4) Inaba T, Sano H, Kawahito Y, Hla T, Akita K, Toda M, Yamashina I, Inoue M, Nakada H: Induction of cyclooxygenase-2 in monocyte/macrophage by mucins secreted from colon cancer cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 2736-2741, 2003
2004年10月29日

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