Immunity & Sugar Chain
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糖転移酵素・硫酸転移酵素とL−セレクチンリガンドの構築

L-セレクチンはリンパ球が免疫応答するためにリンパ節などの2次リンパ装置にホーミングする過程で必須な役割を果たすC型レクチンに属する接着分子である。L-セレクチンはリンパ球上に発現され、そのカウンターリセプターはリンパ節の特殊な血管である高内皮性静脈(HEV)上に発現している。リンパ球はリンパ節においてこのHEVを通って血流中から血管外に移動する。L-セレクチンリガンドは硫酸化シアリルルイスX(6硫酸化シアリルルイスX)がCD34やGlyCAM-1などのムチン型糖蛋白に発現するものと考えられてきたが、最近その生合成に関わる糖転移酵素や硫酸転移酵素が同定され、またそれら遺伝子のノックアウトマウスが作成され興味深い結果が得られている。ここではそれら最近の知見について記したい。

L-セレクチンリガンド活性の低下はCD34やGlyCAM-1のノックアウトマウスでは認められず、糖転移酵素であるフコース転移酵素VII(Fuc-TVII)ノックアウトマウスのリンパ節においてはじめて報告された。その活性は野生型の約20%と高度に減少し、フコース付加がL-セレクチンリガンド合成に必須であることが示された。Fuc-TIV/Fuc-TVII両遺伝子ノックアウトマウスでは末梢リンパ節へのホーミング活性がほぼ完全に失われることから、Fuc-TVIIノックアウトマウスで残存するL-セレクチンリガンドの合成がFuc-TVIIのアイソザイムであるFuc-TIVにより行われていることが実証された。酵素の基質特異性を異にするアイソザイムが部分的に他酵素の反応も担うことがこれまでにも示されてきた。一般的に多くの糖転移酵素や硫酸転移酵素は複数のアイソザイムを持ち、ノックアウトマウスにおいてしばしばその解析や結果の解釈を困難にしている。

我々と他のグループは6硫酸化シアリルルイスX合成に関わる硫酸転移酵素、L-セレクチンリガンド硫酸転移酵素(LSST; 別名HEC-GlcNAc6ST)を同定した。この酵素はHEVに限局して発現する。LSST、 Fuc-TVII、コア2型O-グリカン合成酵素(C2GnT-I)をChinese hamster ovary細胞に発現させ、コア2型O-グリカン上に6硫酸化シアリルルイスXを構築するとL-セレクチンリガンド活性の上昇することが示された。一方、他の硫酸転移酵素を用いてN-グリカン上に構築した6硫酸化シアリルルイスXや硫酸化していないシアリルルイスXではL-セレクチンリガンド活性の顕著な増加は認めなかった。このことはL-セレクチンリガンドとして6硫酸化シアリルルイスX構造とそれが発現する骨格構造であるコア2型O-グリカンが重要であることを示している。ところがC2GnT-Iノックアウトマウスではリンパ球ホーミングに大きな影響が見られず、L-セレクチンリガンドが保たれていることがわかった。C2GnT-Iが欠損してもそのアイソザイムであるC2GnT-IIやC2GnT-IIIが代償性にL-セレクチンリガンドを合成している可能性もあったが、HEVの糖鎖構造解析の結果からコア2型構造はほぼ完全に失われており、代わってあまり知られていなかった伸長コア1型O-グリカンが骨格構造となって6硫酸化シアリルルイスXを発現していることが明らかになった。更に伸長コア1型O-グリカンを特異的に合成する酵素であるコア1型β1,3Nアセチルグルコサミン転移酵素(C1-β3GnT)を同定し、伸長コア1型O-グリカン上に構築される6硫酸化シアリルルイスX構造がL-セレクチンリガンドとして機能することが示された。更にC2GnT-IとC1-β3GnTの2つの酵素が働いて形成される2本鎖O-グリカンに2価の6硫酸化シアリルルイスXが合成されると最も強いL-セレクチンリガンド活性を持つことが示唆された。これらO-グリカンの構造は野生型マウスHEVにも存在することから、6硫酸化シアリルルイスXを持つこれらのO-グリカンがL-セレクチンリガンドとして実際に生体内で機能している糖鎖であると考えられる。

LSSTの遺伝子ノックアウトマウスでは末梢リンパ節へのリンパ球ホーミング活性が野生型の約50%に低下し、末梢リンパ節のリンパ球数も減少していることが示された。このことからLSSTが生体内でL-セレクチンリガンド合成に関わる優位な硫酸転移酵素であることが実証されている。

以上のようにL-セレクチンリガンドの構造や生合成経路が明らかとなった。今後さらに多くの遺伝子ノックアウトマウスが樹立、解析されれば、それら遺伝子のコードする糖転移酵素や硫酸転移酵素の病態生理学的な役割が明らかとなり、それを通して糖鎖の生物学的意義がより深く理解されることが期待される。


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図1 セレクチンリガンドの生合成経路。糖転移酵素と硫酸転移酵素の作用により一つ一つ糖鎖が付加され、6硫酸化シアリルルイスX(点線の長方形)が3種のO-グリカン(伸長コア1型、コア2型、2本鎖O-グリカン)上に合成される。黄色長方形はモノクローナル抗体MECA-79の認識する最小エピトープであり、同抗体はこのエピトープにシアル酸やフコースが付加したものも認識する。さらにMECA-79抗体はL-セレクチンを介したリンパ球ー血管内皮細胞の結合を阻害する。
 
 
平岡伸介(国立がんセンター研究所病理部)
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Links
LE-A05 接着分子セレクチン(今井康之)
GD-A07 炎症とリンパ球ホーミングにおける糖鎖の意義(神奈木玲児)
2004年2月15日

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