Glycoprotein
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糖鎖光アフィニティープローブの合成と応用

  糖鎖が特定のタンパク質を見分けて結合するように,薬物や生体分子などが互いに相手を嗅ぎわける力をアフィニティーと呼ぶ。この“アフィニティー”を利用して,光反応で特定のタンパク質などを共有結合で捕捉し,相手を解析するために化学的なタグをつけるのが “光アフィニティーラベリング”と呼ばれる方法である。光反応で発生する化学種は非常に反応性に富み,瞬時にクロスリンクを導入できる長所がある。またこの方法は,相手タンパク質やその遺伝子情報が不明でも,解析を進められる利点がある(1)。

 試薬としてまず必要な光アフィニティープローブは,糖鎖等のリガンド構造中に光反応基を導入して合成するのが一般的である。いくつか知られている光反応基の中では,比較的長波長で速やかに分解し,安定なクロスリンクを形成するジアジリンがお勧めである。最近,ビオチンを付けたジアジリンがいくつか報告されているが(Figure),特にR = CH2ONH2の試薬は糖鎖を光アフィニティープローブへと誘導するのに便利なように設計されており,市販もされている(生化学工業)。還元末端を持つ糖鎖なら,無保護のまま一段階でプローブへと誘導することが可能である(2)。

 一般に,光アフィニティー解析は次のように進められる(Figure)。通常タンパク質の量は非常に少ないので,これを高感度に検出する工夫がされている。ビオチンは非放射性の微量検出が可能であり,電気泳動の泳動位置からタンパク質のおおよその分子量を知ることができる。例えば,検出に化学発光を用いることで 10-14 mol オーダーのタンパク質が検出可能である(図左下)。さらに,タンパク質を分解してペプチド断片とし, HPLC 等でタグが導入されたフラグメントを分離し解析すれば,認識ポケットを形成するペプチド配列も判明する(図右下)。現在では,高性能の質量分析装置を用いることで,フェムトモルオーダーの配列解析が実現できる。

 ポイントミューテーション等の遺伝子技術で機能部位を解析する方法は効率が良いが,得られる情報には限界がある。光アフィニティー解析は,これを強力に補完する方法論として欠かせない存在である。機能部位ペプチドの単離解析に時間がかかる事が欠点であるが,ビオチンを持つ光アフィニティープローブの利用で,目的のペプチド断片を釣り上げることができる。この方法は,β1,4-ガラクトース転移酵素のアクセプター基質結合部位の解析に応用されて成功を収めた。この部位はX 線結晶回折からは構造情報が得られなかった部分である。光アフィニティーラベリングとX 線結晶回折,そしてコンピューター解析の連携がうまくいった典型的な例である。ちなみに,ポイントミューテーションの結果から重要と予測されたアミノ酸は基質結合ポケットの外側にあり,糖転移の機能には直接関係ないものとされた(3)。
畑中 保丸
(富山医科薬科大学薬学部)
References (1) Hatanaka Y.; Sadakane Y., Photoaffinity Labeling in Drug Discovery and Developments: Chemical Gateway for Entering Proteomic Frontier, Curr. Top. Med. Chem., 2, 271-288, 2002.
(2) Hatanaka, Y.; Kempin, U.; Park, J. -J., One-step Synthesis of Biotinyl Photoprobes from Unprotected Carbohydrates. J. Org. Chem., 65, 5639-5643, 2000.
(3) Hatanaka, Y.; Ishiguro, M.; Hashimoto, M.; Gastinel, L. N.; Nakagomi, K., A Model of Photoprobe Docking with β1,4-Galactosyltransferase Identify a Possible Carboxylate Involved in Glycosylation Steps. Bioorg. Med. Chem. Lett., 11, 411-413, 2001.
2003年4月1日

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