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Metabolic Cytometry:単一細胞におけるオリゴ糖生合成のモニタリング

  代謝は細胞内で起こる化学的反応の総計である。現状ではスペクトル分析、クロマトグラフィー、電気泳動などの方法により多くの細胞を使って細胞代謝が観察されている。これらの方法を用いることにより代謝経路に関する詳細な情報を得ることが可能であるが、得られるデータは多くの細胞の情報を平均化したものであり、個々の細胞の変化を得ることはできない。一方フローサイトメトリーや蛍光顕微鏡などの細胞を用いるアッセイ法は、個々の細胞の化学的および物理学性質を分析することができる。細胞懸濁液をレーザー光中を通過させるフローサイトメトリーでは、光散乱と蛍光を利用して細胞の大きさや化学的組成の相違を知ることができる。すなわち、蛍光標識した抗体を利用する細胞表面マーカーの検出、DNAにインターカレートする色素を利用する細胞周期の推定、蛍光性基質分子を利用する数種の細胞内酵素活性の検出などに応用が可能である。しかしながら、利用できる蛍光性基質が少ないこと、蛍光のスペクトルチャンネルに限界があることなどから、単一細胞中における複数の酵素活性を測定することは困難である。
 
 Metabolic Cytometryの新しい技術として、個々の細胞におけるオリゴ糖鎖の変化をモニタリングすることができる(1,2)。分析の最終段階でキャピラリー電気泳動を用いるため、極めて高感度の分析法である。Metabolic Cytometryにおいて、蛍光標識化されたオリゴ糖の存在下で細胞は培養される。基質は細胞に取り込まれ、細胞内で変換物が生成される。顕微鏡で観察しながら、細胞をミクロマニピュレーターによりキャピラリー内に導入後、レーザー励起蛍光検出器付キャピラリー電気泳動により検出する(1)。その結果100分子以下の代謝生成物を検出することが可能である。
 
 Metabolic Cytometryの応用の一つとしてαGlc1,2αGlc1,3αGlc-TMR(テトラメチルロ−ダミン共有結合性トリグリコサイド)を基質とし、酵母および哺乳類細胞における加水分解過程を検出できる。基質は細胞により取り込まれ、小胞体に局在するαグルコシダ−ゼによりαGlc1,3αGlc-TMR(D)へ変換される(Scheme I)。この二糖はさらにGlc-TMR(M)およびTMR(L)へと加水分解される。酵母スフェロプラスト(Fig. 1)のエレクトロフェログラムで500〜1000分子のTMR標識トリサッカライドおよび1000分子以下の中間生成物であるモノおよびジサッカライドを検出した(Fig. 2)。この代謝変換はαグルコシダ−ゼIの競合的阻害剤であるカスタノスペルミンと酵母をプレインキュベートすることにより阻害される(2)。
Fig. 1. Confocal microscopy of yeast cells incubated
with 50 M Triglucoside-TMR for 24 h.
Fig. 2. Electropherograms of the contents of
three individual yeast spheroplasts.
 βGal1,4βGlcNAc-TMR(LacNAc-TMR)による単一細胞における生合成、加水分解反応をHT-29細胞で検討した(2)。この2糖は細胞により取り込まれ、数種の代謝物を生成する。これらの中には基質の酵素的加水分解反応により生成したβGlcNAc-TMRとゴルジ体のフコシルトランスフェラーゼにより生成したモノフコシルトリサッカライドLeX-TMR およびジフコシルテトラサッカライドLeY-TMRが含まれる。このことは個々の細胞においてLeX あるいはLeY、まれに両者の生合成が観察されたことから、制御された基質のゴルジ体通過が窺える。
 
 Metabolic Cytometryはオリゴ糖の代謝に限定されるものではない。すなわち細胞が蛍光標識した酵素基質を取り込むならば、常に起こりうる現象である。この技術はこれまで分析が不可能であった限られた細胞数での分析(例えば発生や生検)を含め、幅広い応用を可能にするものである。
Monica M. Palcic (Department of Chemistry, University of Alberta)
References (1) Le XC, Tan W, Scaman CH, Szpacenko A, Arriaga E, Zhang Y, Dovichi NJ, Hindsgaul O, Palcic MM : Single cell studies of enzymatic hydrolysis of a tetramethylrhodamine labeled triglucoside in yeast. Glycobiology 9, 219-225, 1999
(2) Krylov SN, Zhang Z, Chan NWC, Arriaga E, Palcic MM, Dovichi NJ: Correlating cell cycle with metabolism in single cells : the combination of image and metabolic cytometry. Cytometry volume 37, page14-20, in 1999
(3) Scaman CH, Hindsgaul O, Palcic MM, Srivastava OP: Synthesis of alpha-D-Glcp-(1→2)- alpha- D-Glcp-(1→3)- alpha-D-Glcp-O-(CH2)8COOCH3 for use in the assay of alpha-glucosidase I activity. Carbohydr. Res. 296, 203-213, 1996
1999年 9月 15日;改定

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