Glycolipid
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シンデカン-4の機能

 シンデカン-4はシンデカンファミリーに属する膜貫通型ヘパラン硫酸プロテオグリカンで、コアタンパク質の分子量は約30kDaである。細胞外ドメインに3個所のグリコサミノグリカン付加部位がある。シンデカン-4はアンチトロビンIII結合分子として見出され、リュウードカンあるいはアンフィグリカンとも呼ばれる。シンデカン-4のヘパラン硫酸鎖は塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF)、ミッドカインをはじめとする増殖因子、tissue factor pathway inhibitor などの血液凝固阻止因子、フィブロネクチンなどの細胞接着分子に結合し、多彩な機能を営むと考えられている。多くの場合、ヘパラン硫酸鎖へのリガンドの結合シグナルは、コアタンパク質の細胞質ドメインを通して、細胞内シグナル伝達系あるいは、細胞骨格系に伝えられる。筆者らはシンデカン-4遺伝子ノックアウトマウスを作成し、シンデカン-4の機能について詳しく解析した。
  
まず、接着斑の形成においてのシンデカン-4の関与について検討した。接着斑は培養細胞のシャーレとの接着面に生ずる分子集合体で、そこからアクチン線維の束がのびている。In vivoでも接着斑は機能していると信じられている。接着斑の形成はフィブロネクチンの2つのドメインからのシグナルの協調が必要である。すなわち細胞結合ドメインはインテグリンに結合し、ヘパリン結合ドメインはヘパラン硫酸プロテオグリカンに結合するのである。後者の一つとしてシンデカン-4が同定されている。私たちは、シンデカン-4ノックアウトマウス由来の線維芽細胞で、接着斑が生ずるかどうか検討した。意外なことに、接着斑は生じた。すなわち、シンデカン-4以外のヘパラン硫酸プロテオグリカンがシンデカン-4の欠失を代償したのである。しかし、ヘパリン結合ドメインのシグナルを液面のみから与えると、野生型[Synd4(+/+)]の細胞では接着斑が生ずるが、ノックアウト[Synd4(-/-)]細胞では接着斑が生じない。in vivoでも炎症時などにはこのような状況が生じていると思われる。

シンデカン-4の血管における分布を調べると、胎盤の胎仔由来の血管ではシンデカンファミリーメンバーのうちシンデカン-4のみが発現していた。そこで、血栓の形成をSynd4(+/+)マウスとSynd4(-/-)マウスで比較すると、Synd4(-/-)マウスで有意に多かった。すなわちシンデカン-4上のヘパラン硫酸鎖が内在性の抗凝固機構に関与していることが確認された。
 
κ-カラゲナンをマウスに注射すると腎臓の集合管に沈着して閉塞性腎炎を引き起こす。Synd4(-/-)マウスではSynd4(+/+)マウスに比べて腎炎の程度がひどく、マウスの死亡率も高かった。すなわち、シンデカン-4は集合管において塩基性物質と結合し、酸性の有毒物質の沈着の妨げていると考えられる。
 
細菌感染に伴う敗血症ショックは集中治療室での重大な死亡要因である。エンドトキシンを注射してのエンドトキシンショックは敗血症ショックの実験モデルとして多用されている。Synd4(-/-)マウスはSynd4(+/+)マウスに比べてエンドトキシンショックにかかりやすく、死亡率も高かった。
 
エンドトキシンショックの主因はIL-1β、TNFαなどの炎症性サイトカインが過剰に生産されることである。炎症性サイトカインの合成を抑えるフィードバック機構にはTGF-β1が関与する。私たちはSynd4(-/-)マウスではフィードバック機構が抑えられること、シンデカン-4にTGF-β1が結合すること、そしてシンデカン-4はエンドトキシン投与により血管内皮やマクロファージで発現上昇することを見出した。すなわちシンデカン-4はTGF-β1と結合し、その作用を増強することによってフィートバック機構に関与すると考えられる。

Synd4(-/-)マウスは障害を受けた皮膚の修復能も減弱していると報告されている。要約すると、シンデカン-4のこれまで判明した機能はすべて、傷害、感染などへの防御に関連している。
村松 喬1、小嶋哲人2
(名古屋大学大学院医学系研究科生物化学講座1
名古屋大学医学部保健学科 病因・病態検査学講座2
References (1) Kojima T, Shworak NW, Rosenberg RD :Molecular cloning and expression of two distinct cDNA-encoding heparan sulfate
proteoglycan core proteins from a rat endothelial cell line, J Biol Chem 267, 4870-4877, 1992
(2) Kojima T, Katsumi A, Yamazaki T, Muramatsu T, Nagasaka T, Ohsumi K, Saito H : Human ryudocan from endothelium-like cells binds basic fibroblast growth factor, midkine, and tissue factor pathway inhibitor, J Biol Chem 271, 5914-5920, 1996
(3) Ishiguro K, Kadomatsu K, Kojima T, Muramatsu H, Tsuzuki S, Nakamura E, Kusugami K, Saito H, Muramatsu T : Syndecan-4 deficiency impairs focal adhesion formation only under restricted conditions, J Biol Chem 275, 5249-5252, 2000.
(4) Ishiguro K, Kadomatsu K, Kojima T, Muramatsu H, Iwase M, Yoshikai Y, Yanada, M, Yamamoto K, Matsushita T, Nishimura M, Kusugami, K, Saito H, Muramatsu T : Syndecan-4 deficiency leads to high mortality of lipopolysaccharide- injected mice, J Biol Chem 276, 47483-47488, 2001
2002年 10月 1日

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