Fertilization / Development & Sugar chain
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Notch受容体を修飾する糖鎖機能

Notch受容体は、進化的に保存された細胞間シグナル伝達系で、多様な細胞運命決定プロセスを制御する。発生過程で正確にNotch活性を調節するために、様々な調節因子がシグナル経路の異なった段階で作用する。その中で、直接的にNotch受容体を修飾しているのが、O-フコース型糖鎖などといった、糖鎖修飾である。O-フコース型糖鎖は、元来、稀な翻訳後修飾としてEGFドメインを含む血清タンパク質、例えば、血液凝固因子VIIや血液凝固因子IXに見出された。それ以外に、EGFリピートを含む膜タンパク質であるNotch受容体(約36個のタンデムにつながったEGFドメインを含む)も、O-フコース修飾をうけることが報告された。コンセンサスシークエンス(C2XXX(A/G/S)(S/T)C3)より、Notch受容体の20を超えるEGFドメインが修飾を受けることが予想されている。Notch受容体のリガンドであるDeltaやSerrate/JaggedもO-フコシル化されることが報告されている。

EGFドメイン上のO-フコース型糖鎖の基本的な構造は、Fucose-β1,3-GlcNAc-β1,4-Gal-α2,3/2,6-Sialic acidである。糖鎖付加は、糖転移酵素と呼ばれる酵素によって逐次的に行われる。O-フコース型糖鎖といったユニークな構造を作るために、特異的な糖転移酵素が作用する。その一つが、ポリペプチドO-フコース転移酵素1(OFUT1)であり、糖鎖合成経路の最初に働き、コンセンサス配列のセリン/スレオニン残基にフコースを付加する(よって、O-結合型フコースやO-フコースと呼ばれている)。このO-フコース単糖は、O-フコース特異的なGlcNAc転移酵素であるFringeにより、更に伸長される。 OFUT1とFringeは分泌経路の異なるコンパートメントで作用することが示されている。OFUT1は可溶性小胞体タンパク質であり、小胞体局在化シグナルであるKDEL配列をカルボキシル末端に持つ(シスゴルジ体から小胞体への逆行輸送に働く)。Fringeは元来、分泌性のタンパク質であるとされていたが、ゴルジ体に局在することが示されている。Fringeの発現パターンが時間的・空間的に制御されているのに対して、OFUT1の発現はほぼ普遍的である。

これまでにOFUT1やFringeのNotch受容体に対する生物学的機能の遺伝学的手法を用いた解析が進められてきている。しかしながら、それ以外の基質に対する役割については明らかではない。OFUT1は、Notch受容体の活性化に必須であり、分子機序として、OFUT1はNotch受容体がリガンドに結合するために適切なコンフォメーションをとることに必要であると考えられている。よって、OFUT1非存在下では、Notch受容体がミスフォールドする結果、細胞膜上への発現が阻害されると同時に、リガンドとの結合能も失われる。一方、FringeはNotch受容体のDelta/Serrateとの結合を異なる方向性に調節する。すなわち、Notch-Deltaの結合を増強し、Notch- Serrateの結合を阻害する。このFringe効果はNotchの活性化をFringe発現境界に限局する中心的なメカニズムであると考えられている。

このように、糖転移酵素のNotch受容体の機能における役割の理解が進んできているが、個々の糖鎖がどうやって調節的な役割を発揮できるのかといった分子メカニズムは良く分かっていない。ショウジョウバエ培養細胞におけるNotch受容体欠失変異体の実験より、Notchの11番目と12番目のEGFドメイン(EGF11とEGF12)が、リガンドとの結合に必要な最小部位であることが知られている。その中で、EGF12のみがO-フコース型糖鎖修飾を受ける。よって、最も単純なシナリオは、EGF12上のO-フコース型糖鎖がNotchとリガンドの相互作用を調節しているというものであった。しかしながら、EGF12上の糖鎖付加のためのコンセンサス配列に変異を入れても、Notchの活性化やFringe効果は消失しなかった。よって、複数のO-フコース型糖鎖が協調して、Notchとリガンド間の相互作用を調節している可能性が考えられる。もしくは、O-フコース型糖鎖はEGFリピート全体のコンフォメーションを変化させることにより、間接的に、Notchとリガンド間の相互作用を調節しているかもしれない。一方、OFUT1は、酵素活性以外にもシャペロン活性も有することが報告されており、O-フコース糖鎖自体の機能はNotch受容体に対して必須ではなく、Fringe同様に調節的に働いている可能性も考えられる。

様々な種おけるNotch受容体のO-フコシル化のコンセンサス配列のEGFリピート内における分布の比較を行った結果、糖鎖修飾パターンは進化的に良く保存されていることがわかった。よって、EGFリピート上のO-フコシル化部位はランダムに存在しているのではなく、適切にアレンジされていると考えられる。今後、Notch上の糖鎖パターンの詳細な解析により、Notch受容体における糖鎖機能の分子メカニズムが分かってくるものと期待される。

岡島 徹也(名古屋大学大学院生命農学研究科応用生命化学講座)
References (1) Haltiwanger RS, Stanley P: Modulation of receptor signaling by glycosylation: fringe is an O-fucose-beta1,3-N-acetylglucosaminyltransferase. Biochim Biophys Acta, 1573, 328-335, 2002
(2) Okajima T, Xu A, Lei L, Irvine KD: Chaperone activity of protein O-fucosyltransferase 1 promotes notch receptor folding. Science, 307, 1599-1603, 2005
(3) Okajima T, Xu A, Irvine KD: Modulation of notch-ligand binding by protein O-fucosyltransferase 1 and fringe. J Biol Chem, 278, 42340-42345, 2003
(4) Okajima T, Irvine KD: Regulation of notch signaling by o-linked fucose. Cell, 111, 893-904, 2002
 
2006年3月31日

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