Nervous System & Sugar Chain
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カルネキシン/カルレティキュリン: カルネキシン/カルレティキュリン サイクルによる糖タンパク質の折りたたみ

カルネキシン(CNX)とカルレティキュリン(CRT)は互いに相同性のあるレクチン様分子シャペロンである。これらは、特異的なモノグルコース化オリゴ糖鎖を介して新生糖タンパク質に作用し、小胞体(ER)における糖タンパク質の品質管理を制御している(1)。同様の糖鎖結合特異性をもつにもかかわらず、CNXとCRTは多様な異なる標的タンパク質に結合する。遺伝子破壊の研究から、CRT-KOマウスは胎児期致死を、CNX-KOマウスは重篤な神経障害により出生早期死を引き起こすことが明らかとなった。これらの知見はCNXとCRTが発生において互いの機能を補填することができないことを示し、CNXとCRTが細胞において異なる機能を担うことを示唆する。

CNX/CRTの構造
CNXは分子量88-90kDaのI型膜タンパク質としてERに存在する。ERのもうひとつの相同タンパク質であるCRTは分子量55-60kDaの可溶化型タンパク質で、C末端にはゴルジ体からERへの逆輸送に重要なK-D-E-Lアミノ酸配列をもつ。両者は単量体のCa2+結合タンパク質であり、その構造から植物マメ科レクチンファミリーに関係すると考えられる。構造と機能に関する研究から、CNX/CRTは構造上、N-末端ドメイン[N]、プロリンに富むドメイン[P]、C-末端ドメイン[C]の3つのドメインに分けることができる(図1)。N-ドメインはCNXの結晶構造解析の結果をもとにモデル化され、マメ科レクチンと相同性をもつ球状のβ-シートサンドウィッチ構造をもつことがわかった。P-ドメインは球状のN-ドメインへと繋がる湾曲したアーム状を呈する特徴的な構造をもつ。このドメインは、2つの特徴的なアミノ酸の繰り返し配列(繰り返し1:-I-x-D-P-(D/E)-(A/D)-x-K-P-(E/D)-D-W-D-(D/E)-、繰り返し2:-G-x-W-x-x-P-x-I-x-N-P-x-Y-)をもち。これらの配列がCNXでは4回、CRTでは3回繰り返す。N-ドメインとP-ドメインが取り囲むN末端側部分は、折りたたみ不全のタンパク質、糖タンパク質、ATP、Zn2+に結合し、さらに低容量性、高親和性Ca2+結合部位でもあり、シャペロン機能に関与すると考えられる。また、P-ドメインは、ERにおける折りたたみ不全タンパク質のジスルフィド結合の架け替えを助けるチオール-ジスルフィド酸化還元酵素であるERp57との結合に重要である。CRTのC-ドメインは高容量のCa2+結合部位であり、ERにおけるCa2+貯蔵の役割を果たしている。CNXは膜貫通領域とそれに続く細胞質ドメインをもつが、細胞質ドメインはリボソームに結合するためにカゼインキナーゼIIによりリン酸化を受ける。

糖タンパク質の折りたたみにおけるCNX/CRTサイクル
N-グリカンをもつ糖タンパク質の生合成では、ERにおいて新生タンパク質のN-x-S/Tというアミノ酸配列のアスパラギン(N)にGlc3Man9GlcNAc2糖鎖が付加する。CNX/CRTは、オリゴ糖がグルコシダーゼ-I, IIにより刈り込まれて生じる、Glc1Man5-9GlcNAc2糖鎖に結合する(図1)。Glc1Man3ストレッチに結合する糖結合(レクチン)部位は、CNX/CRTの球状N-ドメインのβ-シートサンドウィッチ構造の凹表面に位置する。ERにおいて糖タンパク質が完全に折りたたまれると、糖鎖末端のグルコースがグルコシダーゼ-IIにより除去され、糖タンパク質はCNX/CRTサイクルから放出される。しかし、糖タンパク質の折りたたみが不完全な場合、基質の折りたたみ不全を識別するUDP-グルコース:糖タンパク質グルコース転移酵素(UGGT)が末端グルコースを再び付加し、基質は再びCNX/CRTと結合する(2)。このように、CNXとCRTは、ERにおける糖タンパク質の生合成のために、特異的なシャペロンのサイクルである“CNX/CRTサイクル”を形成している(図2)。CNX/CRTの機能におけるレクチン活性に疑う余地はないが、CNX/CRTと基質間におけるペプチド-ペプチド相互作用の重要性についてはいまだ論争中である(1)。また、もし適切な折りたたみが行なわれなかった場合、折りたたみ不全の糖タンパク質のうちグルコースを欠いた高マンノース型糖鎖をもつものは、EDEM/Htm1/Mnl1やDerlin-1などとの相互作用を通じてERから細胞質へと運び出され、プロテアソームにより分解を受けることが知られている(ER関連タンパク質分解/ERAD、 関連グライコワード/EDEMファミリー、QS-A02)。

CNX/CRTにおけるその他の細胞機能
CNXとCRTは主に細胞のERに局在し、糖タンパク質の品質管理に関わることが知られているが、細胞表面に検出されることがある。また、CRTは細胞外や細胞質に局在するものも見つかっている。特にCRTは糖タンパク質の折りたたみに関わるだけでなく、Ca2+ホメオスタシスや細胞内シグナル伝達、細胞接着、遺伝子発現、核輸送など様々な生物学的機能の制御に関わることが報告されている(3)。ERの外において、CNX/CRTのもつレクチン活性がどのような生物学的役割をもつのか、またその意義などはいまだ未解決の領域にある。

図1 CNX/CRTの構造
図2 糖タンパク質の折りたたみにおけるCNX/CRTサイクル
井原義人(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
References (1) Helenius A, Aebi M: Roles of N-linked glycans in the endoplasmic reticulum. Annu. Rev. Biochem., 73, 1019-1049, 2004
(2) Parodi AJ: Protein glucosylation and its role in protein folding. Annu. Rev. Biochem., 69, 69-93, 2000
(3) Michalak M, Corbett EF, Mesaeli N, Nakamura K, Opas M: Calreticulin: one protein, one gene, many functions. Biochem. J., 344, 281-292, 1999
 
Links
GP-B07 粗面小胞体のタンパク質品質管理機構における糖鎖の役割 (佐藤祥子)
GP-C04 タンパク質分解シグナルとしてのN-結合型糖鎖 (田井 直)
ES-C01 レクチンの生物分布と機能 (平林 淳)
小胞体ストレスと小胞体関連分解-小胞体品質管理に関与するマンノシダーゼ様タンパク質- (細川暢子・永田和宏)
細胞質ペプチド:N-グリカナーゼ (鈴木 匡)
2005年12月27日

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