中西伸夫
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科

   ヘパラン硫酸プロテオグライカンは、多くの細胞に分布し、細胞表面上で成長因子、接着分子などと分子間相互作用を示し、多くの生物学的機能を持つ。ゲノム構造が解明されたモデル動物である,線虫やショウジョウバエの遺伝学的研究報告は、ヘパラン硫酸の生物学的機能をよりいっそう裏付けるものである。ショウジョウバエではヘパラン硫酸プロテオグライカン(dally)が成長因子(Dpp)作用に必須であるという報告があり、モデル動物を使用したヘパラン硫酸プロテオグライカンの機能研究の有用性はいっそう高く評価されてきた。    私達の研究目的は、ショウジョウバエに存在するヘパラン硫酸プロテオグライカンの代謝過程、つまり生合成から分解過程を解明することにより、高等動物、あるいは他の生物におけるプロテオグライカンの生物学的機能に関する新たな視点を探ることである。2種類のショウジョウバエ細胞株(S2,Kc)を培養条件下に[35S]硫酸で放射性代謝標識し、標識されたプロテオグライカンの抽出、分析をおこなった。また、RT-PCR法を用いて、syndecan, glypican (dally), perlecanそれぞれのmRNA発現を確認した。35Sで標識される分子のうち約70%がヘパラン硫酸プロテオグライカンであった。細胞に存在するヘパラン硫酸の約60%が細胞表面上にあり、残り約40%がエンドサイトーシスされコアタンパクが分解された糖鎖の形で細胞内に蓄積されていることが観察された。このように細胞内に部分分解をうけたヘパラン硫酸鎖が蓄積するという代謝過程は高等動物にも共通にみられる特徴である。しかしながら代謝回転速度、分解の各段階などで高等動物と異なる点も観察された。これらの所見はヘパラン硫酸プロテオグライカンが細胞表面上での生物学的役割を担っていることはもちろんのことエンドサイトーシスされ細胞内に取り込まれてからも別の生物学的機能があることを示唆するものであろう。

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