澱粉のX線粉末回折法による解析

 澱粉の特性を明らかにするために、X線粉末回折法が用いられる。X線は、加熱されたタングステンフィラメントの陰極から出る熱電子を加速し、ターゲット(対陰極)に衝突させることにより得られる。ターゲットに銅を用いた場合、波長が0.15405nm のX線が発生する。この電磁波を、原子面の繰り返しが存在している試料(結晶)に当てれば、回折現象が起こり、原子網面の距離が測定される。

 澱粉の場合、既にKatz and Itallie(1930)がX線回折データを得て、便宜上明瞭な回折線に番号を付した。その後の回折計等、機器の進歩に伴い、豊富なデータが蓄積されるようになった。この間、澱粉の結晶構造に関する精密化の研究は決して多いとはいえない。しかし、Kainuma and French(1972)により、澱粉の二重ラセン構造が発表された後には、構造決定の精密化を目的とする研究が行われるようになった。二重ラセン構造に基づいて、現在では、A型についてはImberty and Perez(1988)、 B型についてはImberty et al.(1988)の得た結果が、澱粉の最小構造単位として認められている(例えば、Gallant et al., 1997)。

 Imbertyらの構造解析結果の一部は、ICDD(International Centre for Diffraction Data)発行のPowder Diffraction File (Organic and Organometallic Phase)中で、改訂されるとともにα-Amyloseとして掲載されている。ここでは、原著の原子座標データに基づいて、分子構造計算ソフトウェア(CrystalMaker)により、ターゲットにCuKαを用いた場合の粉末X線回折図に指数付けを試みた(図1)。これによれば、多くのピークは種々の面反射の合成により構成されていることが理解される。同時に、他の結晶質糖類における半値幅の狭いシャープなピークが澱粉において認められないことは、澱粉の二重ラセン構造における面反射の多様性に起因すると言える。また、澱粉の結晶化度測定に関しては、濱西ら(2000)が用いているCaF2のような内部標準物質を混入させる内部標準法や被検物質中の純物質を加える標準添加法を用いることが望ましい。さらにn次反射の存在を考慮すれば、異なる面における発達の程度が求められ、結晶化度の詳細な測定を行うことが可能となる。

八田珠郎・根本清子
(農林水産省・国際農林水産業研究センター)

貝沼圭二
(生物系特定産業技術研究推進機構)
References (1) Katz, J.R. and van Itallie, Th. B. : Z.Phys.Chem., A150, 90. 1930
(2) Kainuma, K. and French, D. : Biopolymers, 11, 2241. 1972
(3) Imberty, A. and Perez, S. : Biopolymers, 27, 1205. 1988
(4) Imberty, A., Chanzy, H., Perez, S. Buleon, A and Tran, V. : J. Mol. Biol., 201, 365. 1988
(5) Gallant, D. J., Bouchet, B. and Baldwin, P.M. : Carbohydrate Polymers, 32, 177-191. 1997
(6) 濱西知子・八田珠郎・Jong, F.-S.・貝沼圭二・高橋節子: 応用糖質科学, 47, 335. 2000
2001年 3月 15日

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