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デンプン生合成におけるDebranching enzymeの役割
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高等植物にはイソアミラーゼ(isoamylase, ISA)とプルラナーゼ(pullulanase, PUL)の2種類のデンプン枝切り酵素(starch debranchingenzyme, DBE)が存在する1)。DBEがデンプンの分解時に働くのみならず、デンプンの主成分であるアミロペクチンの合成に関与することを最初に提唱したのは、トウモロコシのシュガリー変異体の解析を行った米国ウィスコンシン大学Nelsonらのグループである2)。変異体の胚乳ではフィトグリコーゲンと呼ばれる動物やバクテリアのグリコーゲンに似た構造を持つ多糖が蓄積され、PUL活性が顕著に減少している事実に基づくものであった。彼らはPULがアミロペクチンの特異的なクラスター構造の構築に必須であり、その活性が著しく低下すると、正常なクラスター構造ができなくなり、フィトグリコーゲンが出来てしまうと考えた。私たちもイネシュガリー胚乳で同様な現象を見ており、同様な見解を1992年に公表した。
1995年米国アイオワ州立大学のJamesとMyersは、シュガリー突然変異の原因遺伝子はPUL遺伝子ではなくISA遺伝子であることを、遺伝子タギング法を使って鮮やかに証明した3)。彼らの結果は決定的で、ISAがアミロペクチン合成に必須であることを示すものであった。その後類似の変異体を利用した解析研究が続々と報告されている4)(下表)。 |
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(植物種) |
(組織) |
(ISA) |
(PUL) |
(分岐多糖) |
(発表者) |
1. トウモロコシ |
胚乳 |
激減 |
減少 |
PGとAPが混在 |
James, Myersら |
2. イネ |
胚乳 |
激減 |
減少 |
PGまたはAP |
中村ら |
3. クラミドモナス |
細胞 |
激減 |
変化なし |
PG |
Ballら |
4. シロイナナズナ |
緑葉 |
激減 |
変化なし |
PGとAPが同一細胞内に混在 |
Smithら |
5. オオムギ |
胚乳 |
激減 |
変化なし |
PGとAPが同一細胞内に混在 |
Denyerら |
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現在では、DBEがクラスター構造を形成する上で重要な役割を果たしていることはこの分野の研究者の共通認識になっているといって差し支えない。 DBEの機能を考える上で二つのポイントがある。第1は、DBEがどのようにアミロペクチン合成に関わっているのかというメカニズムに関する点で、第2はDBEのうちSugary-1遺伝子にコードされているISAだけがアミロペクチン合成に関与するのか、あるいはPULも何らかの役割を担っているのかという点である。
現時点ではいずれも推測する他はないが、筆者は以下のように考えている。アミロペクチン分子を構成しているクラスターにおいては、α-1,6分岐結合が基部に局在しており、その点が分子全般にランダムに分散しているグリコーゲンとは大きく異なる(図1A)。デンプン枝作り酵素によって分岐結合が形成される際、大部分はクラスターの基部に形成されるが、稀にはそれ以外の場所に分岐結合が出来てしまう。後者は一定サイズのクラスターが形成される上で大きな阻害要因になろう。DBEの機能はまさにその阻害分岐鎖を取り除くことにある(図1B)。第2のポイントであるが、筆者はPULも、ISAの補完的な機能かも知れないが、クラスター構造の形成に重要であると考えている。シュガリー変異を詳細に解析してみると、ISAだけが関与すると仮定した場合、説明できない現象がいくつかあるからである。最近ISAには、Sugary-1遺伝子型以外の型のものの存在も確認されており、今後の解析が望まれる。 |
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図1 A. 生物における貯蔵性ポリグルカンの構造(概念図) |
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図1 B. 生物における貯蔵性ポリグルカンの構造(概念図) |
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いずれにせよ、植物のデンプン合成システムは植物が進化の過程で獲得してきた優れたシステムで、アミロペクチン分子はDBEの関与なしでは不可能であろう。本来デンプン分解酵素として存在していたDBEの機能を植物は改変することによって、アミロペクチンという生存戦略上有利な物資を獲得したのではなかろうか。今後DBEの機能に関する詳細な解析が待たれる。 |
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中村保典(秋田県立大学・生物資源科学科) |
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References |
(1) |
Nakamura Y Plant Sci. 121, 1-18, 1996 |
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(2) |
Pan D, Nelson OE Plant Physiol. 74, 324-328, 1984 |
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(3) |
James MG, Robertson DS, Myers AM Plant Cell 7, 417-429, 1995 |
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(4) |
Myers AM, Morell MK, James MG, Ball SG Plant Physiol. 122, 989-997, 2000 |
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2000年 9月 15日 |
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