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オリゴサッカリンと分化誘導

 オリゴ糖は単糖がグリコシド結合で結合した短い糖鎖である。アルバーシェイムとダービルは、植物組織に対して低濃度でシグナル物質として働くオリゴ糖をオリゴサッカリンと呼ぶように提案した (1, 2)。 最もよく知られたオリゴサッカリンは植物や微生物の細胞壁を酸加水分解したり、酵素消化して生成したものである。糖タンパク質の糖鎖が加水分解されると、それはオリゴサッカリンとなる可能性がある。細胞壁多糖類や糖タンパク質は、それぞれ構造多糖や酵素として機能しているが、それらは分解されると、オリゴサッカリンとしてシグナル伝達に関係するとアルバーシェイムらは考えている。最初に発見されたオリゴサッカリンはエリシターとして働くものであった。ダイズに抗菌性物質の生合成を誘導するオリゴサッカリンが、ダイズ病原菌の細胞壁を酸加水分解したものから初めて単離され、その構造が明らかになった 。植物の病原抵抗性に関係するオリゴサッカリンについては他の項目を参照していただき、ここではエリシター以外の成長や分化に関係するオリゴサッカリンについて説明する。
 
成長中の植物細胞壁はペクチン・ヘミセルロース・セルロース・タンパク質(それらの割合は約3:3:3:1)などからできている。植物が成長するとき、細胞壁は分解されたり、新たに生合成される。細胞壁成分が分解されるとオリゴ糖が生成し、そのうちの特定な構造のものがオリゴサッカリンとして成長や分化を調節すると考えられる。ここではペクチン、ヘミセルロースおよびグライコプロテインに由来するオリゴサッカリンとグルコサミンを含むオリゴ糖について概説する。


ペクチンに由来するオリゴサッカリン
 ペクチンは、ヘミセルロースとともに成長中の細胞壁の主要な構造多糖である。細胞壁を精製したエンドポリガラクツロナーゼで消化すると、3種類の多糖つまり、オリゴガラクツロナイド(OG)、ラムノガラクツロナンI(RG-I) およびラムノガラクツロナンIIが生成する。このことからペクチンは少なくともこれら3種の多糖から構成されていると考えられる。ペクチンオリゴ糖の生理活性に関する研究の大部分は、OGについてである。表1に示すように、OGはエリシター活性の他に、植物の成長を調節する (3)。例えば、OGはオーキシンによって促進されるマメの伸長成長を阻害する。また、タバコ外植片を用いたバイオアッセイではOGは器官分化を調節する。OGの作用は植物ホルモンによって引き起こされる種々の作用を拮抗的に調節しているようであるが、作用機構の解明は今後の研究課題である。
 クレスの根から分泌されるアエロパシー物質として単離された△GalA-(1→2)-Rhaは、Amaranthus seedlingsの胚軸の成長を3mMで促進した (4)。 △GalA-(1→2)-RhaはRG-Iに由来するペクチン多糖が分解して生成したと考えられるが、その起源は不明である。


キシログルカンに由来するオリゴサッカリン
 ヘミセルロースの1つであるキシログルカンをセルラーゼ消化して生成するオリゴ糖のいくつかはオリゴサッカリンであることが報告されている。この件については次節の「キシログルカンオリゴ糖と成長調節」を参照していただきたい。


グライコプロテインに由来するオリゴサッカリン
 GlcNを含むオリゴ糖が生体防御に関連した反応やトマトの熟成を早めること(5)が報告されている。GlcN−オリゴ糖の生合成の起源は不明であるがアポプラストに存在するN−結合したグライコプロテインの加水分解によって生じる可能性が高い。


グルコサミンを含むオリゴサッカリン
 根粒菌はマメ科植物に感染し、根粒を形成して宿主植物と共生する。宿主特異的リポキトオリゴ糖 (LCOs) がオリゴサッカリンとして根粒形成に働いている。この件については「nod-factorを介したマメ科植物の根粒菌の相互作用」を参照していただきたい。LCOsはまた、植物ホルモン様の活性をもつことが次第に明らかになってきた (6)。


将来展望
 今後、新規なオリゴサッカリンがさらに発見され、それらの作用機構が分子レベルで明らかになり、新しい成長調節物質として農林業へ応用されることが期待される。
Fig. Structure of oligogalacturonide
aDP(degree of polymerization): range of oligogalacturonides that show the designnate biological activity.
bEstimation of the order of magnitude concentration of oligogalacturonides to give half-maximum
biological response. The concentration is listed only when purified oligogalacturonides were assayed.
cNunbers in parentheses are DP of the most active oligogalacturonide.
dND: DP of active oligogalacturonides not determined; therefore, molar concentration not determined.

石井 忠 (農水省・森林総合研究所)
References (1) P, Albersheim and AG, Darvill: Oligosaccharins. Sci. Am. 253, 58-64, 1985
P,アルバーシェイム,AG,ダービル: オリゴサッカリン. 日経サイエンス,11月 P.32-40, 1985
(2) SC, Fry, S, Aldington, PR, Hetherington, J, Aitken: Oligosaccharides as signals and substrates in the plant cell walls. Plant Physiol. 103, 1-5, 1993
(3) A. Darvill, et al.: Oligosaccharins- oligosaccharides that regulate growth, development and defence responses in plants. Glycobiology, 2, 181-198, 1992
(4) K, Hasegawa, J, Mizutani, S, Kosemura, S, Yamamura: Isolation and identification of lepidomoide, a new allelopathic substance from mucilage of germinated cress seeds. Plant Physiol. 100, 1059-1061, 1992
(5) B, Priem, KC,Gross: Mannosyl- and xylosyl- containing glycans promote tomato fruit ripening. Plant Physiol. 98, 399-401, 1992
(6) AJ, de Jong, et al.: A carrot somatic embryo mutant is rescued by chitinase. Plant Cell, 4, 425-433, 1992
1999年 12月 15日

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