Nervous System & Sugar Chain
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糖タンパク質品質管理とは

タンパク質に付加された糖鎖には、細胞内で担われる役割と細胞外で発揮される役割がある。前者には14糖が一括付加されるAsn結合型糖鎖が関与しているのに対し、後者ではプロセシングを受けたAsn結合型糖鎖を含め、逐次付加される他のさまざまな糖鎖が関わっている。また小胞体におけるAsn結合型糖鎖の合成および付加の過程は真核細胞に普遍的に共通するメカニズムであるのに対し、ゴルジ体で作られる糖鎖は種ならびに組織において多様である。これら糖鎖修飾のdiversityとunityという視点で整理すると、糖鎖の役割を明確に捉えることができる。すなわち、Asn結合型糖鎖の担う細胞内における糖タンパク質品質管理は、種を越えて普遍的な必須のメカニズムである一方、プロセシング後のAsn結合型糖鎖を含めたSer/Thr結合型糖鎖や糖脂質、グリコサミノグリカンなどのさまざまな糖鎖による細胞間情報伝達は、種や組織において多様な言語体系を構成し、組織に特化した情報を担っているものと考えられる。

小胞体内で翻訳された新生タンパク質の約30%は折り畳みが不完全な機能を持たないものであり、細胞内に蓄積することによりさまざまな障害を引き起こす。そのため、細胞内では(1) フォールディングの不完全なタンパク質を積極的に捕まえて折り畳みを繰り返し行うこと、(2) 折り畳みができなかった不完全なタンパク質を分解すること、(3) 正しく折り畳まれたタンパク質を輸送すること、(4) さまざまなタンパク質の中から選別を行い目的の場所へ送り届けることがなされており、数千種類にのぼる新生タンパク質を、両手で数えられるわずかな種類のレクチンによって的確に処理されている。これらの過程を「糖タンパク質品質管理 (Quality control of glycoproteins)」と言い、真核生物に普遍的なAsn結合型糖鎖(特に高マンノース型)をそのタグとして用いた必須のメカニズムである。

この章では、タンパク質折り畳みに関わるカルネキシン・カルレティキュリン、そして、折り畳み不全のタンパク質を捕まえ小胞体内から細胞質へ送り返すEDEMファミリー、細胞質でユビキチン化しプロテアソーム分解系へ導くFbsファミリー、プロテアソームにおいて糖鎖を分解するN-グリカナーゼ、折り畳みの完成したタンパク質を小胞体からゴルジへ輸送するERGIC-53/MCFD2、糖鎖プロセシングの不完全な糖タンパク質をゴルジから小胞体へ逆行輸送するVIP36、VIP36のホモログであるVIPL、リソソーム酵素をリソソームへ運ぶマンノース6リン酸レセプター等について個々に解説を行う。これら糖タンパク質品質管理に関わる細胞内レクチンは、従来知られていた古典的な植物レクチン等とは異なる特徴を持ち、それらの機能に欠かすことができない。すなわち、生体防御を担う植物レクチンは、抗体と同様に細菌等に結合して離れないことが機能を発揮する点で重要であったが、細胞内レクチンでは糖との結合と解離の制御が機能の発現に必須でり、細胞内オルガネラのダイナミックな環境変化や新たな分子との相互作用がレクチン活性を左右する点で、古典的なレクチンとは異なる分子と理解することが大切である。

山本一夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
References (1) Helenius A, Aebi M: Intracellular functions of N-linked glycans. Science, 291, 2364-2369, 2001
(2) Hauri H, Appenzeller C, Kuhn F, Nufer O: Lectins and traffic in the secretory pathway. FEBS lett., 476, 32-37, 2000
(3) 山本一夫:細胞内輸送・選別における糖鎖認識プロセス. 生化学, 76, 240-255, 2004
 
2005年10月30日

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